ぬちょぬんちょ ぬめめのぬぷん→ 第四話 父の言葉
第四話 親父の言葉
いいか紅葉!
想像力は力だ!
例えばここにパンがあるだろ。
その上にたっぷりと甘〜いはちみつがかかっている
と想像するんだ。
蜂蜜の香りが鼻をくすぐり、湯気の立ったぱんの上を踊る。サクサクっと言う音が耳をくすぐり、ざらざらとした舌触りをトロッとした蜂蜜が包む。
どうだうまそうだろう!
がはははははははは!
ザクザクと焦げたパンを笑いながら父が食べた。
私の目の前には市販の最も薄いパンをさらに薄くしたパンが置いてあった。それをさもおいしそうに食べる父親。幼い日の私はそんな父の戯言を真に受けて、極貧の日々を送っていた。父は売れない童話作家だった。
とうちゃんすごーい
尊敬の眼差しをキラキラと送っていた。
ねぇねぇとうちゃん蜂蜜ってどんな味がするの?
その時の父は少しだけうろたえたように見えた。
…いいかもみじ
想像力は力だ。
だが、お前の言う通り想像力は何もなしには生まれない。だからありとあらゆる可能性を試すんだ。
待ってろ父ちゃんが蜂蜜をたっぷりかかったパンを食わせてやるからな。
「さてと」
途方に暮れていたそんな時に幼き日の記憶が蘇った。
「可能性か…」
自分の足元にいるスライムを見つめた。透明な体からは地面がややぼやけて見える。
「この子が何ができて何ができないのか。そしてこの私が何ができて何ができないのか調べてみないといけないなぁ」
契約はあっという間に終わった。指輪の魔石をスライムにくっつけるだけ。正直ちゃんと契約できているのか不安だったが、スライムが私の足元をコロコロ転がる様子を見てうまくできているように感じた。
その後は、私が天空から落ちたときに受け止め飛び散ったスライムのかけらたちを集めて回った。山本が言うには、本来ならばその飛び散ったスライムたちも経験値や試し切りにされる運命だった。
「ふむ」
さらに大きくなったスライムは、コタツくらいの大きさになった。まぁ我が家では、電気が入る事はなかったけれども。
なんというかどことなしに弾力があがった?スライムをふにんふにんと触りながら確かめる。以前、家具屋でアルバイトしていた時に見かけたウォーターベットに感覚が似ている。あれよりもさらに柔らかく手触りが良い。形になった水を触っているようだった。きもちいいー。この不思議な弾力を生かせないだろうか。
うん
石を拾って、スライムに向かって優しくほおる。
ぱぃーん
石はスライムに当たった後、勢い良く跳ね上がった。
ふむ
スライムが一瞬体をギュッと縮こませたように見えた。
今度はゆっくりとスライムの上に腰かけてみた。
ぬっぷん ずぷぷぷ
とゆっくりと沈みこんだが、しっかり座れる。どことなく冷たくて超気持ちいい。水に包まれ、浮いてるような感じ。
「スライム…君?今度は私を跳ね返してみてさっきの石みたいに」
恐る恐る話しかけてみる。山本が言うにはこの腕輪には、契約したものと意思の疎通ができる機能があるらしい。互いの親密度が関係している。会話はできないが、スライムがはずむように動いたような気がした。
yesかな?
ポヨン
「女は度胸!!」
勢いよく走りだして、スライムの前で軽く踏み切る。狙いはスライムの真上。まずは右足がスライムの中に入り込む、こんにゃくをするのは踏んづけたような感じで、そのまま、
「うわぁああああ!!」
軽く足の裏に抵抗を感じたがその後は思いっきり上空に投げ出された。見る景色がくるりと回り、バランスを崩し、地面に落ちる。
「いったぁぁ!」
ざっと2メートルぐらいは跳ね上がった。激しくうったお尻をなでながら、分析する。
もし私の分析が当たっているなら、そしてもし山本に聞いたこの腕輪や指輪の力が本当なら、面白いことができる。
私はにやりと笑った。
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