ぬちゃねっちゃ ぬるぬるねねちゃちゃびちゃべちゃぬるぬる→  ヌルヌルで終わる貧困生活


 私が日本と言う国でフリーターや派遣社員をしていた頃の話。童話作家だった父親が借金を残して蒸発して以来、お金に困っていた私はありとあらゆるバイトを掛け持ちしていた。


新聞配達、パン屋、カフェ、工事現場、ホールスタッフ、イベントスタッフ、塾講師、家庭教師、マグロ漁、コンビニの店員、スーパーのレジ打ち、アパレル、コールセンター、引越し業者等々・・・


私は社会的な弱者だった。

お金がないということはこんなにもみじめな気持ちで人生を送らないといけないのだろうか。今日も閉店間際の店に駆け込み半額シールのはられた総菜をみつめる。値段を見比べて一品買い、急いで次のバイト先に向かう。稼いだお金は借金の返済に充てらえてその日暮らしにいっぱいいっぱい。アパートに帰ってふとんに潜り込むときには日をまたぐことも多かった。


 ある日のこと、棚卸し作業があると言われて、派遣された場所は何やらエッチな雰囲気のただようお店。


大人のグッズ販売と書かれていて、若干引いた。


おいおいおいこんなところに若い娘を派遣すんなよ。


内心少し驚いたが、トラックの積み荷をおろすだけだ。別に中身を見るわけでもないし。お金さえもらえれば私は何でもいいのだ。


とりあえず順番にその日一緒になったメンバーと荷物を下ろしていく。


全く重たいなぁ何が入ってんだろう。


はぁ、いつまでもこんな仕事をしてるわけにはいかない。


ただでさえ、借金を返さなければいけないんだ。


私は何をすればいいのかわからないまま、日々の生活に追われてる。


この無我夢中だけれども無意味な日々は永遠と続く地獄の道のようだった。


ズルリ


作業に集中せずに上の空になってしまったのがいけなかった。バランスを崩し、倒れる。そして頭に衝撃が走った。段ボールも崩れてきて中身がその辺にばらまかれる。しまった。


薄れていく意識の中、目に入ったのは、ローション。あのぬるぬるするバラエティで使われる液体だ。


ローション


ローションローション


ローションローションローション


どんだけ入ってんだよ!


落下の衝撃からか、中身が漏れ出してきた。


私の体の周りにへばりつく。うへぇ。


そのヌルヌルの中で私は気を失った。







「ぎゃはははははははは!」


甲高く耳障りな笑い声が聞こえる。ズキズキする頭を抑えながら体を起こす。どこかの病院だろうか。


だがそんな様子はどこにもない。ただっぴろい青空の下、私は白い床にいた。床は円形に広がっているようだった。


1人の金髪赤眼の女の子が私に背をむけてテレビを見て腹を抱えて笑っている。ひとしきり大笑いしたあと少女はリモコンを操作して画面を切ったようだ。少女は、不釣り合いな背もたれの長い椅子に座り、地べたに座っていた私を見下ろす。少女の服装は、とてもシンプルで白いワンピースを着ていた。うんものすごい美少女だ。清純な整った顔立ちにぎざぎざとした八重歯が凶悪に光る。


笑い涙を吹いたあと、私のほうに向いて話しかける。 


「お前の人生見せてもらったけど、散々だな。そ。そして。さ、最後はローションまみれで死ぬなんて傑作だわ。ぎゃはははっは」


下品に大きな口をあけて笑う。外見の年齢からは想像できない位意地悪気な笑みだった。てか、え?死ぬ?私死んでしまったの。空の上?あぁ天国か?あの美少女がかみさま?


「かみさま?まぁ、いいや。そうだよそうだよ。お前しんじまったんだよ。自分の手足を見てみな。ハハハハハハ」


視線を手足に送ると、向こう側がうっすら透けて見えた。


悲しいやら悔しいやらの気持ちは特には浮かばずに代わりに出た感想は


あーよかった。




「よかった。だと?」


途端に楽しげに笑っていた女の子は真顔に戻った。


「そいつは聞き捨てならないな。せっかくの命を失ってよかっただと。こっちは何年も何十年も何千年もお前たちの魂の管理をしてるってのに。退屈で退屈で退屈で退屈で生きることも死ぬこともできない身にもなってみろ」


せっかくの命?あのくそ親父のせいで、死んだように生きている。生きていて死んでいるような生活を命があると言えるのか。


「うっさいてんだよ!あんたに何がわかるって言うんだよ。母親は死んだ!父親もどっかいった!わけのわからない借金ばかり。それを返すために全てを捧げて頑張ってきたのに。最後はローションにまみれて死ぬ。私の人生いいこといっこもなかった。あんたもローションまみれあんたもぬるぬるにしてぶっ殺してやろうか」


頬を涙が伝う。


「あんたに起こった事は知ってるよ。」

かみさまは後ろにあるテレビを振り向かず親指で刺した


「だが同情はしない。悪いなこんな仕事柄。その手の不幸自慢は聞き飽きてるんだ」


つかつかとこちらに歩いてきた。そして私の襟をつかんでずるずると引きずる。


「はなせぇ!お前もぬるぬるになればいいんだぁ!!!!!」


少女とは思えない力強さで、円形の床の端まできた。風が髪を撫ぜる。


「ローションまみれのお前にピッタリの運命をくれてやる。せいぜい、この世界で、生き方について考えるんだな」


ぽんと身体が宙を浮いた。浮いたのは一瞬だった。



「あ?え!いやぁあああああ!」


遥か下にある地面に向かって一直線に落ちていく。


絶対にぬるぬるにしてやる。


「これがあの男の娘だとはな・・・」


かみさまのつぶやきで私は意識を失った。











「う・・・ん」

土の匂いが鼻をつく。ゆっくりと体を起こして、自分の置かれている状況を整理する。アルバイトをしていて、ローションまみれになって、女の子に爆笑された。うん、わからん。てか、まだベタベタしてるし。


「ここは、どこだろう」

森の、中かな?その時、両手に違和感を感じた。


「腕輪と、指輪?」

左手首には腕輪が、右の指には指輪がついていた。

それらは金属のようだったが、材質まではわからない。金色をしていた。アルバイト三昧で装飾品など全く興味がなかった私にとっては邪魔で仕方がない。問題はそれらが抜けないことだった。


「ふんんんんん、うん!無理!」


指輪は思いっきり引っ張ったところで抜ける様子がない。すっぽりはまっているようだった。観察してみる。


指輪にはそれぞれ小さな凹みがあった。親指にハマっていた指輪には透明な宝石がはまっていた。おそらく他の指の指輪も宝石がはまっていたのだろうが、地面をさがしても見あたらなかった。

後は左手首の腕輪だ。こちらには特に凹みのようなものはない。


「あーマイクテストマイクテスト聞こえますか紅葉さん。」


突然男の声が響く。若い男性の声がした。あたりを見渡しても声の主は見当たらない。


「もしかして僕のことを探してますか。それはごめんなさい。今腕輪を通してあなたの頭の中に直接声をお届けしています。こちらからはあなたの様子は見えず、声だけ聞こえています。私の名前は天使の山本。気軽に山本さんと呼んでください。やまもっちゃんでもいいですよ」


天使の山本て。スーツを着て眼鏡をかけた男の背中に白い羽が生えてるイメージが湧いた。すごくちぐはぐしていて奇妙だ。私が好き勝手な想像していると会話はどんどん進んでいく。


「あなたの腕のそれは、神様からのプレゼントです」


「かみさまはとてもとても慈悲深いので」


どこか棒読みである。マニュアルでもあるのか。


「3つの特典を転生者に与えます。」


「まずは指輪と腕輪です」

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