タッパーの日
~ 四月二十七日(月) タッパーの日 ~
※
肉を切らせて骨を断つ的な作戦
つい話しちまったあの日以来。
先週の事だが。
そんな女王の隠れファンである凜々花が。
タコさんタコの話をやたら気に入って。
珍しくフライパンなんか振って。
舞浜のためにと。
大量に作ったおかずの山。
妹さんに悪いから残したくないと。
持ち帰ってまで食べてくれたんだが。
「お、お返しする時は、なにか詰めるものだって聞いて……、ね?」
「おばあちゃんか」
返してくれたタッパーに。
なにやら詰め込んで来たようだ。
でもな?
三週間もの付き合いだ。
さすがに読めて来た。
毎度毎度。
そのパターンは食わねえっての。
この中身。
俺が持って来たジッパーやニッパーやペッパーよりおもしれえもんが入ってるに決まってる。
あと、セロリも知らんこいつにケッパーなんて理解できるわけねえだろ。
何で持って来たんだよ俺。
「やだやだちょっとおかず交換し合って! 仲良しすぎるのよん!」
「ウソだし舞浜さん! こんな野蛮人におかずなんてあげないで欲しいし!」
「違うよ~。きっと、俺に作ってくれたんだよ~」
「黙れ。そんなわけねえだろパラガス」
「そうよパラガス」
「そうだしパラガス」
「広まるなよ~。立哉のせいだぞこれ~」
いつもの長い腕による絡まり攻撃を撃退しながら。
必死に対抗策を考えてたら。
良い作戦思い付いた。
「そうか。そんじゃ、今日のおかずをくれてやる」
ゲームで学んだ最強の技。
いかに相手が強力だろうが。
決して負けない対処法。
それは、完全反射!
俺は、一気にかっ込んで空にしたタッパーに。
舞浜のタッパーを入れて。
そのまんま蓋して。
突っ返してやった。
「さあ、食えるもんなら食ってみろっての!」
「うぐ……」
案の定。
二の句も継げずに固まった舞浜。
タッパーの中身がどれだけ面白くとも。
こうして完全反射すれば俺にダメージ無し!
……って、思ってたんだが。
こいつらがうるせえうるせえ。
「なによ保坂! せっかく舞浜ちゃんがもって来たのに!」
「そうだし! 酷いヤツだし! ……も、もったいないから、あたしが食べてもいいかな舞浜さん?」
「……じゃあ、試しに開けてみればいい」
やったーとか。
はしゃぐきけ子とアシュラだが。
舞浜を見ると。
なんだこいつ。
ちょっと眉根寄せてやがる
怒ってんのか?
だが、まあ構わんだろ。
今日はおかしなことになったが。
きけ子、アシュラ。
お前ら二人揃って。
俺の代わりに。
無様に笑い転げるがいい!
「ん? これ……」
「え? なんだし?」
あれ?
なんだよ。
笑わねえのか?
じゃあ、ほんとに。
食えるもん持って来たのかよ。
舞浜の様子をうかがうと。
未だに眉根が寄ったまんまだけど。
これ、何かをこらえてる顔?
いやいや。
やっぱ、怒り顔に見えるっての。
……やべえ。
こりゃあ、やっちまったか?
「わ、わりい! やっぱ俺が食うから返してくれ!」
怖えから、舞浜の顔も見ずに。
慌ててタッパーを横取りして。
その中を覗き込んだ俺の目に。
飛び込んできたものは……。
は?
なんだこの写真?
外人さんが。
マイクの前に立ってるだけ。
「……なんだこりゃ?」
思わずつぶやいた俺の耳に。
ガラスのように透明な響きを持った。
舞浜の声が、小さく聞こえた。
「ち……」
「ち?」
「ちぇけらっちょ」
「うはははははははははははは!!!」
ラッパーって!
バカだこいつ!
いや、天才か!
「え? なに? 舞浜ちゃん、なに言った? ……うわ。顔、真っ赤よん?」
「こいつも、気味悪いほど笑い転げてるし」
「うはははははははははははは!!!」
しかもこのネタ。
なんとかパーを考えに考えて。
いくつも準備してきた。
俺しか分からねえじゃねえか!
一人だけ狙った作戦だったとは。
ちきしょう、さっきのしかめっ面はそういう意味か!
だけどさすがにちぇけらっちょ。
こいつも相当無理してやったみてえだ、ちぇけらっちょ。
「バカじゃねえの!? なんだよちぇけ……、ぷっ! うははははははは!!!」
真っ赤になって俯いて。
そこまでするかお前?
いや、今日もまた。
俺の完敗。
お見事だったぜ。
――そして五時間目。
「ちぇけらっちょ」
俺は、舞浜のつぶやきに爆笑して。
廊下に立たされた。
これ。
明日からも延々続ける気じゃねえだろうな?
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