ミス日本の日
~ 四月二十二日(水) ミス日本の日 ~
※
大物ってやつは、自分の間違いを認めてすぐに改めることができる
……ってのが元々の意味らしい
友達が欲しいのですね。
気持ちは分かります。
でも、そう身構えていると。
誰の目にも見える仮面が顔に張り付くものです。
そんなお面ちゃんに。
心を開く方がいるとでも?
だったらどうすればいいのか。
上手い方法を教えましょう。
一番の思いが隠れるほど。
ある作業に没頭するといいのです。
その作業とは……。
~´∀`~´∀`~´∀`~
「朗報があるっての」
放課後の教室で。
ビクッと体を強張らせて振り向いた栗色の瞳。
相当控えめに言っても。
絶世の美人。
そんなこいつには。
距離を置きたくなるオーラがある。
……本人の。
望む望まぬに関わらず。
でも、中身は他人思いのいい奴だから。
こうして橋渡ししてやれば。
すぐに友達ができるはずだっての。
「千五百メーター走の時、『マスター、彼女にマティーニを』で助演を演じた
「あ、あの……、こんにちはだし」
「こ、こんにちは……、だし?」
「だしを合わせんなっての、ラーメン屋か。日向さん、お前と友達になりてえんだってさ」
舞浜にとっちゃ。
何より一番うれしい言葉。
わたわた慌てて。
必要以上に緊張して。
そしていつもの微笑を。
……面倒な仮面を。
顔に張り付けた。
やれやれ。
それじゃダメだって。
ほらみろ。
日向さんまで緊張し始めた。
「まま、舞浜さん! 体力測定の時は、ありがとだし!」
「わ、私、何かした……、っけ?」
「お、お水をご馳走して下さって……」
「タダに決まってんだろ。本気でおごってもらったと思ってたのか?」
「うるさいし! 保坂はちょっと黙ってるし!」
なんだよおまえ。
舞浜と俺とに向ける。
顔と態度がまるでちげえじゃねえの。
「そ、そんでね? とと、友達になって欲しいし……」
「うん。嬉しい……、よ?」
「ほ、ほんと?」
「だーから、最初っから言ってたじゃねえか。こいつも友達欲しいって思ってんだから俺なんか通さなくても全然平気っていててててっ!」
いてえよつねんなよ!
男に平気でそんなことできんのな。
元気な可愛い系の見た目通りって訳か。
……お前。
ぜってえ次女。
「こんな綺麗な人に直でお友達になってなんて頼めるわけ無いし!」
「分かった分かった! 分かったから腿をつねんな!」
「ここはケツだし!」
「変わんねえよ!? そんな治外法権聞いたことねえ!」
「え? ……おしり、つねってるの?」
「違う違う! そんなとこ触れるわけ無いし! 足を軽く摘まんだだけだし!」
だから、態度変えるんじゃねえ!
悪い方の意味で使う現代人の気持ち分かるわ。
お前、その典型!
「ギャップ萌え狙ってんのかっての!」
「ち、違うし!? ギャップ萌えとか言うなし!」
「ギャップ萌え……、分かる。可愛いよ……、ね?」
「ほんと? あたし、元気っぽい見た目だけど大人しいってよく言われるし!」
「どこがだよ見た目通りだよ」
「保坂が、あたしはギャップ萌えっつったんだし!」
「そういう意味じゃねいてててて!」
最悪だなこいつ!
何とかしてくれ!
思わず舞浜に視線を向けた俺は。
どういう訳か。
こいつがニヤリと笑ったように見えた。
……ああ。
わかっちまった。
お前はホント。
おもしれえこと思い付く天才だな。
舞浜は、お得意の工作で。
あっという間にタスキを作って。
日向さんの肩にかける。
そこに書かれていた文字は。
『ミス日本』
「ええっ!? こ、こんなの舞浜さんにこそ相応しい称号だし!」
「ううん? 日向さん、可愛いから」
「ほ、ほんとに!? 夢みたいだし!」
くねくねしながら。
耳まで真っ赤にさせた日向さん。
だが、お前は知らない。
すでにこいつの術中にはまってることに。
「夢じゃない、よ?」
「夢よ夢! 舞浜さんが可愛いって言ってくれるなんて信じられないし!」
「ああ、夢だろな。つねったら覚めるんじゃね?」
「うっさい! もっかいつねってやるし!」
「きっと……、可愛いだけじゃなくて、優しいの」
「そうなのよあたしってば優しいから暴力とか嫌いだし!」
「ほんとてめえはタスキもらって喜ぶなんていい奴だな」
「はあ!? こんなの舞浜ちゃんに合わせて仕方なくかけてるだけだし!」
「ミスしてるから、ミス日本、なの?」
「そうそうそうなのよ! あたしってばミス日本って言葉が似合う程かわい…………? はにゃわっ!? ミスしたっ!!!」
いぇーいと、舞浜とハイタッチ。
そんな俺たちを見て、途端に膨れた日向さん。
こいつ。
面白い。
「い、今のは違うの! あたし、全然可愛くなんかないよ? 舞浜ちゃんの方が断然可愛いし!」
「うらおもての激しいやつだな。可愛いけど」
「はあ!? 全然そんなこと無いし! 可愛いけどね!」
「うらおもて、はっきりしてて素敵」
「そうなの! 美しい舞浜さんに近寄る保坂に笑顔なんか向けないし!」
「そんなてめえの狙いは、舞浜と友達になることなんだろ?」
「はあ!? そんなわけないし!」
「そうよね。友達になんかならないよね?」
「そうそう! あたしは友達なんかじゃなくて、舞浜ちゃんの恋人の座を狙ってるんだし…………、はにゃわっ!? ミスしたっ!!!」
慌てて口を塞いだとこで。
そんな爆弾発言、砲塔に戻んねえっての。
面白がって薮突いたら。
とんでもねえもんが転がり出てきやがった。
さすがの舞浜も。
これには笑顔をひきつらせたまま固まるしかねえようだ。
「…………おい、ミスばっかし日本」
「ミスじゃないし! 言い間違えただけだし!」
「一緒だ一緒」
「こ、恋人は無理……、かな?」
「違うの、ちょっとミスしただけだし! お友達になろ?」
「そもそもお前、女同士で恋人って」
「お姉ちゃんだって女同士で付き合ってたし! おかしく無いし!」
なんだろう。
まとめようとしても。
どんどんおかしなことになる。
でも。
「大混乱してるけど。隠そうとしないとこだけは美点だと思うんだよ俺は」
ほんとにうらおもてある奴なら。
本人の前でべらべらしゃべらねえだろ。
俺のフォローに。
ようやく落ち着いた日向さんは。
「と、友達になってくれる?」
今更改めて。
想い人の顔色をうかがうんだが。
さすがの舞浜も。
散々首をひねって。
最後に。
……俺の背中を押して。
一歩前に出しやがった。
「うはははははははははははは!!!」
「え? なに? どういう意味?」
なんでまあ。
おまえはそう面白いことすぐ思い付くかね。
「……まずは俺を倒してからって事らしい」
「げ! 男なんか無理し!」
「保坂君……、私の、お友達」
「もちろん保坂君とも仲良くするし!」
……こうして。
なんだか変な女と。
まずは俺が友達になることになった。
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