第9話 ハーフアップは思いつく

 俺はいつものかったるい授業を受け終わると、だらしなく身体を机に投げ出していた。


 次は昼飯だから良いけど……わかってるところを一々板書させられる意味がわからないんだよなぁ……。いや成績付けるためってのはわかってるんだけど……。


「お疲れ、ユウくん。授業疲れた?」

「授業ってか板書な……。学力向上に意味あんのかアレ……」

「面倒だったらわたしがとってあげようか?」

「甘やかさないの」

「あ、都妃ちゃん」


 いつものメンバーが集まる。早乙女は春香の前の席に座ると、コンビニの袋を春香の机に置いた。


「中上、アンタにはお礼を言わなきゃね」

「ん? ついにハーフアップにする気になったか? あとちょっと髪を伸ばせば早乙女でも出来るようになると思うぞ」

「そうじゃないわよ。小夏さんのこと」


 そっちか。あれは俺のおかげというよりは双葉が頑張ったからなんだけどな。


「昨日はあれから先輩にも謝ってきてさ。生意気なことを言って申し訳なかったって」

「お、そんなことまでしてたのか。ますます双葉の頑張りのおかげだな」

「でもきっかけを作ったのはアンタよ。ありがと」

「気にすんな。もし双葉以外に理由があるとしたらそれはハーフアップが偉大だったってだけだ」


 それよりも弁当だ弁当。腹が鳴りそうな気がする。


「はいお弁当」

「春香は本当に凄いな。妻かよ」

「つ、妻!? それってユウくんと結婚するってこと!? 学生結婚は良いけど高校生は早くないかな!? まだ結婚出来る年齢じゃないし……あっ婚約!? も、もうユウくんってば!」

「アンタの嫁が暴走してるわよ」

「春香が嫁ねぇ……。流石に俺とは釣り合わないし、現実的なのは早乙女じゃねえの? 結婚式の時に初めてハーフアップにするとかさ」

「浮気? ねえ浮気なの?」

「アンタ本当一回刺されなさい。てかアタシにも失礼よそれ。あと誰がアンタとお似合いよ」


 流石に冗談としても今のはダメか。人の気持ちを考えずしてハーフアップの真髄へは辿り着けない。くわばらくわばら。


「あ、そう言えばアンタ昨日途中で帰ったでしょ。勿体無いことしたわね」

「ん? 勿体無い?」

「小夏さんが心を開いた記念にハーフアップ祭りが起きたのよ。ほら、あの子可愛いから女子がみんな真似しちゃって」

「はあ!? 何でお前俺を呼ばなかったんだ!?」


 ハーフアップ祭りとかそんな心躍る言葉があったのかよ!!! 最高じゃねえか!!!


「……いや待て。そうかハーフアップ祭りか」

「まーた何か変なこと思いついたのね」

「なあ春香。女子って流行りに敏感だとは思うんだが、その流行りって身内の流行りとかもあるのか?」

「あるよ。例えば験担ぎとして告白が成功した子の髪型にするとか」


 なるほど。そりゃ良いことを聞いた。言い換えると影響力のあるヤツは周りの髪型さえも動かすってことだよな。


「春香に早乙女。昨日のハーフアップ祭りは当然双葉が心を開いてくれたからってのはあると思うが、もう一つ理由がある。何だと思う?」

「無いわよ」

「んー……、双葉ちゃんが可愛かったから?」

「春香が正解だ。より詳しく言うなら双葉は美少女ランキング三位の猛者だ」


 校内美少女ランキングは学期ごとの一大イベントだ。いくら興味が無かろうと結果くらいはどんな生徒も見るもの。実際ハーフアップにしか興味が無い俺でもザックリとは目に通している。


「つまり!!! 美少女ランキングの三位から一位が全員ハーフアップにしたらそれはもう流行るってことだろ!!!」

「アンタハーフアップのことになると本当に声デカいわよね……」

「でもユウくんの言うことはそうかも。可愛い人には憧れちゃうもん」


 男勝りな早乙女はともかく女子の中の女子である春香がそう言うんだ。信ぴょう性は大いにある。


 現時点で三位な双葉はもうハーフアップだ。であれば次は二位。二位の女子をハーフアップにする。


 俺は学校から配布された方のスマホを開き、美少女ランキングの二位のヤツの名前を確認する。


黒雲秋羅くろくもあきらか……」

「黒雲さん? 隣のクラスの子だよね?」

「クラスは知らなかったけど多分そうだ。美少女ランキング二位の女子」

「……アンタ、まさか」

「そうだ」


 俺は早乙女の言いかけた言葉を肯定する。夢のハーフアップ学園への一手として。


「次はこの黒雲って女子をハーフアップにする。美少女ランキング一位から三位の全員がハーフアップにすればハーフアップにする女子は増えるはずだ」

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