第128話:デザート・アングラー
【翌日】
外に出るとカルフォルニアの爽やかな朝日、そして豚の死臭が出迎えてくれた。
昨夜の内にローズさんのパパ様に頼んだ豚の死骸は用意できているようである。
「ヘイ、言われた物は用意したが何をするつもりだ?」
「漁業ぅ……ですかねぇ」
パパ様が頭に疑問符を浮かべているが、説明するとレフェリーストップがかけられそうなので秘密にしておく。
怒られそうになったら生贄の子羊となるイーサンを差し出して怒りを鎮めてもらうことにしよう。
さて、それでは仕事……いや、お金貰ってないしボランティアみたいなもんでいつも通りだけど取り掛かるとしよう。
先ずは豚の死骸に電動ウィンチの先っぽをぶち込む。
一本だけじゃ心もとないので三本くらいぶち込む。
それが終わったら豚の死骸を豚喰のエリアに男衆でぶん投げる。
あとはゆっくりと電動ウィンチを動かし、こちらへと引っ張っていく。
しばらくすると、豚の死骸が徐々に砂の中へと飲み込まれていく。
それに合わせて電動ウィンチの速度をガチャガチャと切り替える。
まるで、死んでいる豚が生きてもがいているかのように見せる為に。
豚の死骸が完全に砂に飲み込まれてからしばらくして、三つのウィンチのワイヤーが大きな音を立てて引っ張られる。
「フィーッシュ!」
その瞬間、電動ウィンチの最大出力で引っ張る。
砂地の下を何かが暴れるように動いて逃げようとするが、車も動かせるウィンチ相手に勝てるはずもなく、大きな豚喰がウィンチのフックに引っ掛けられて地上に出てきた。
「皆、丸太は持ったな!? 行くぞ!!」
そして暴れる豚喰の口の中に丸太……というか長くて大きな木材をご馳走してやる。
それにより体をくねらせることができなくなり、暴れられずただ細かく震えるだけの豚喰が誕生した。
「よーし、移動開始!」
そしてそのまま豚喰をトラックの荷台に乗せてダークライの前まで運ぶ。
豚喰はまだ生きている。
重機のタイヤを外し、代わりに棒を接続してその棒と豚喰の木材をガッチリ結合させる。
ついでに豚喰の外側から釘を何本か打ち込んで、中の木材と固定させる。
豚喰はまだかろうじて生きている。
最後の仕上げに重機を移動させて、豚喰をダークライへと押し付ける。
豚喰は巻き込まれない、何故なら外来異種同士での共食いは余程のことがない限り起きないからだ。
しかし、豚喰に刺さっている釘は別だ。
≪ギュギギギ……ギギィ……≫
ダークライは触れた釘を巻き込み、刺さっている釘を飲み込むように豚喰の体へと食い込んでいく。
これでもう離せない。
「アクセル、ゴー!」
重機に乗っていたパパ様に合図すると、重機のタイヤがあった場所が回りだす。
軸が回転し、それと木材が固定されているせいで、木材を飲み込んでいた豚喰までケバブのように回転する。
これにより、昆布巻きのようにダークライが豚喰の体へと巻きついていく。
豚喰はそろそろ死んでもおかしくない。
巻かれたダークライに向かって大鉈を振り下ろすが刃が通らない、飲み込まれない。
イーサンも銃を撃つも、銃弾は飲み込まれないがダメージも通っていない。
豚喰が生かされている理由がなくなった。
イーサンに合図して豚喰に最後の晩餐となる鉛玉をたらふくご馳走する。
≪ギギギギギィ!≫
豚喰は死に、ダークライはその死骸を巻き込むように飲み込んでいく。
ダークライは中心部に向かってひたすら食い続け、最終的に小さなボールのようなものになってしまった。
これまでの生態とエレノアからの情報を組み合わせたことで分かったことがある。
ダークライは何もかもを飲み込む大いなる暗闇ではなく、その実態は薄いカーテンのようなものであり、外側に触れたものを包み込むように捕食するものである。
ただし触れたもの全てを捕食すると移動やら何やらが不便である為、捕食しない為の部分……つまり裏側が存在している。
なので、今回豚喰をエサにしてダークライを巻き取り、無害な裏側が表側になるようにしたのだ。
光すら飲み込む深淵の暗闇とも言われていたダークライが、今ではただの球体である。
"Dark" "Cry"というよりも"Dark" "Lie"といった方が正しいな。
あとはダークライを慎重に大きなビンに入れて、作業完了!
イーサンと犬走がなんかこう、深い顔をしてこちらを見てくる。
「分かるよ、あれだけ大見得切ったのに駆除できなくてごめんね」
霞の杖最大出力を試してもいいんだけど、フルパワーだとどれだけヒドイことになるのか分からないので使えないんだ。
「あんさん、そういうとこやで」
「アユム、そういうところだぞ」
「なにが!?」
人が素直に謝ったってのにその言い草は何なのか。
……刺激が足りなかったのかな?
よし、次はもっと凄い手を考えておこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます