第119話:悪魔の許容

【ワシントンD.C:国土安全保障省モンスター鎮圧局】


「馬鹿な……」


 軽症者五名、重傷者十七名、死者六名、行方不明者一名……!?

 あまりの状況に舌が抜かれたかのような思いであった。


 日本のエージェントを排除する為に向かわせた部隊は寄せ集めだ。

 移住者の多いアメリカにおいて排他される人種をまとめた戦力。

 何か問題を起こしても簡単に切り捨てられる裏側の人員。


 戦えるように訓練させ、装備も整えさせたのだが、ほとんど活用しないせいで数が増えすぎた。

 だからこそ、都合よくここで消費させて数を減らすつもりもあった。


 相手は銃も満足に調達できない数人のグループ。

 唯一過去にホードで生き残った軍人だけが懸念であったが、それでも脱落するのは三割程度だと予想していた。


 だというのに、現実はこちらが裏で動かせる手の半数以上を潰された。

 それどころか、報告が正しければそのほとんどを撃退したのは日本のエージェントだという話ではないか。


≪バンッ!≫


 あまりにも荒唐無稽な話に机に拳を叩き付ける。

 これではまるでアイザックの言っていたことが事実のようではないか!


 奴の父親はモンスターが認知された際にその対処を任され、様々な実績を積み重ねてきた。

 モンスターの駆除から民間での対処法案の整備、さらにはモンスター由来の技術や科学進歩……。

 絶大な権力を以って思うがままに自身とアメリカの利益を優先させてきた。


 その強権を分割する為にわざわざ"国土安全保障省"と"モンスター総合対策省"と分けたというのに、あの親子は尚我々の前に立ち塞がる。

 奴らが正しく、私が間違っているなど、到底許されるものではない。


 それだけは何としても避けなければならない。


『マット局長、目標Aがそろそろロサンゼルス付近に到達します』


 裏で使える最後の部隊からの報告が入ってきた。

 今ここで彼らを強行させて賭けに出るという手もあるが、失敗すれば取り返しのつかない失態となり、私はこの座から引き摺り下ろされるだろう。


 何かないかと頭を巡らせる。

 私には権力がある、大勢を動かせる力がある。

 だからこそまだ何か手段が残っているはずだと。


 私は今まで何度も危機を乗り越えてきた。

 今回のこれも、その内の一つにすぎないのだ。


 ―――そして地図を見て気付いた。


「ロサンゼルス、及び近郊の部隊に通達する。秘密裏にL・RADを確保しろ」


 アイザック、これはお前が言ったことだ。

 お前が提案したのだ、あらゆる犠牲を許容し、全ての手段を行使して殺せと。


 だからこれは―――お前の責任なのだ。

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