第87話:売られた男達

「いや~やっぱここのは全部ボッタクリかってくらい高いなぁ。あんさんはもう注文決まった?」

「……水でいい」


 休憩所の一番奥、他の人が居ない席で男三人が顔を突き合わせている。

 ここなら誰かが近づいても分かるし、話し声が漏れることもないだろう。


 とはいえ、勝算なくもなくこのテーブルについたわけではない。

 なにせ隣に超胡散臭い笑顔ランキング一位の无题がいるのだ。


 あちらも聞かれて良い、他愛の無い話題しか出せないことだろう。


「ちなみにここの水、二千円くらいするで」

「マジで!?」


 なんでただの水がそんな値段するの!?

 ちょっとドームの外を見れば塩味の水が腐るほどあるのに!


「キミ、すまないが彼と二人で話しをさせてくれ」

「なんや、男二人で密会たぁけったいな話やなぁ。けどワイはこの人の監視をしとるから無理な相談やで」


 流石は別についてきてくれとは頼んでもないのにずっとまとわりつく奴だ、権力のある相手でも一歩も引かない。

 ……ってかお前やっぱ監視役なのかよ!


「ここでの代金は私が支払おう」

「よっしゃ、赤ウニのナポリタン頼ませてもらうわ! ほんじゃ、あとは若いお人同士でごゆっくり」


 対面の人から若さの欠片も感じないんだけど。

 っていうか赤ウニって高級食材じゃなかったっけ!?

 クソッ、羨ましい!

 なんか自分もウニ丼とか食いたくなってきた!!


 そうして无题に見捨てられ、圧迫面接が始まった。

 しかもご丁寧に熱々のコーヒーまで出されて。

 パナマ・ゲイシャってなんだよ初めて聞いたよそんなコーヒー、京都の芸者さんとコラボでもしたのだろうか。


「さて、キミがここに来るということを日本側から聞いていない。これはどういった目的で接触してきたのか教えてもらえるのだろうな」

「いえ、そういうのはないです。マジの本気で神に誓って偶然なんです」


 なんなら逃げようとしてたしね、駄目だったけど。

 それでもまだアイザックさんは胡乱げな顔をしている。


「仕事ではないと……つまり、プライベートで私の娘を盗撮しようとしたのか?」


 余計に話しがヤバイ方向に捻じ曲がってしまった!

 何を言ったらこの誤解が解けるんだ!?


「違います! 本当に人間なのか確かめるために撮影しようとしただけですッ!」


 ……あれ、これもしかしてもっとヤバイ発現?

 下手すると人間かどうか疑ってるって言ってるようなもんだし。


「ッスゥー……そういえばアイザックさんのお子さん、可愛い子でしたね!」

「……脅迫のつもりか?」

「そういうつもりは一切ないですッ!!」


 なんで子供を褒めたら脅迫になるの!?

 俺とアイザックさんとの間にマリアナ海溝よりも深い溝がある気がする。

 どれだけ深いのか知らないという意味も含めて。


 とはいえ、先ほどの爆弾発言についてはうまく流れたので良ししよう。


「……今でこそ娘の肌は移植のおかげでまともに見られるようになったが、治療前は本当にひどかった。症状ではなく、その肌の色が危険であったのだ」

「まぁ一目見て病気だと分かるような見た目だと他の人から敬遠されちゃいますよね。しかも女の子なら―――」

「違う。日本人には理解できない感覚だろうが、我々の国では肌の色が違うという理由が争いの引き金となることが珍しくない。それは過去からの偏見も含まれるが、それだけではない。分かりやすいからだ」


 確かにアメリカとかでは白人と黒人が対立して争うというのを映画でもニュースでも見たことがある。

 けどそれは植民地時代であったり、解放運動、それから引き継がれた貧富の差によるものだと思っていたのだが、"分かりやすい"というのはどういうことだろうか?


「見た目というものさしは誰にでも使え、とても分かりやすい。そして分かりやすいというのは、それだけ人から考える時間をなくし、短絡的な判断をさせてしまう。全ての国民がそうだとは言わない、だがそういう者も少なからずいるのは事実だ」


 日本でいうところの、外人さんを見ると距離をとってしまうあれが近いだろうか。


 いや、あれはどちらかというと"言葉が通じない"から避けてしまうという方が正しい。

 アイザックさんの言っていることとは別の理由であり、自分には分からないものなのだろう。

 

「だからこそ、私はあの子を心無き人々から守るためにも一刻も早い治療が必要だと考え、ここに来たのだ」

「いやでも、不安じゃないですか? だって"皮剥"の皮膚を使ってるんですよ!?」

「すでに何百人もの被験者がこの治療を受けており、安全性が確認されている。多少の偽造があったとしても、今あの子が笑って好きな服を着られるのは治療の恩恵によるものだ」


 個人的にはかなり不安があるのだが、これはアイザックさんの家庭の問題だ。

 少なくとも、他人である自分がどうこう言うことではないのは確かだ。


「さて……私はキミに正直に話した。キミも隠さずに話してくれると期待している」

「いや本当に何も隠してないんですよ!?」


 じゃあ何でここに来たのかという話しになり、未来ちゃんの病気について話した。

 "超計算"や"リーディング"に関してはまだ研究所の人の推測だし、ヤバイって念押しされたので秘密にしてある。


 こ…これは隠してるわけじゃなくて、まだ確信が持てないから話してないだけだから……!

 なんかミステリーで意味深なことを言って殺される第一犠牲者みたいなフラグが立った気がする。


「つまり、こう言いたいのか? 特に何かするつもりもなかったし、考えもなかったのだが、自分の知人がここにくるのが心配で勝手についてきたと?」

「海外の人の目線だと……そういう見方も……ある……スゥッ……ねぇ……」

「……キミの危険性がよく分かった」

「俺は爆発したりしませんよ!?」


 よくよく考えなくても家族でもない奴が病院先にまでやってくるとかヤベー奴か、そりゃ危険だって思われても仕方ない。


「思想に傾倒することもなく、思慮や目的も持たずに感情のままに行動する人間は恐ろしい。それが」

「奇遇ですね、俺も警察とか国家権力が怖くて仕方ありません」


 警察さんにね、職務質問されるとね、身体が動かなくなるんだ。

 あれ絶対に新世代の力だと思う。


「イラク、チェルノブイリでも同じことが言えるかな」

「言えますよ! どこもかしこもヤベーとこだらけだったじゃねぇっすか!!」


 ほんとな!

 イラクじゃ鳴神くんがいたのにあのザマだったし、チェルノブイリじゃテロリストと戦うハメになったし!

 もっと仕事現場に行く最中に三回くらい職務質問される日本の治安を見習って欲しい。

 けど警察さんはもうちょっと手心を加えてくれると嬉しいかな。

 このままじゃ経歴に前科が加えられそうだし。


 そんなこんなで、お互いに納得しないような気持ちを抱えたまま別れることになった。

 娘さんの治療が来月に完了するらしいので、それまでは問題は起こさないでくれと言われたのだが、ネタ振りなのだろうか。

 いやまぁ頼まれても問題を起こしたくないけどさ。


 そして一時間で解放されたので今度は俺が无题を引き摺って建物の外に出た。

 人を売って美味いもの食ったんだ、必要になりそうな物を売ってる場所を全部案内させることにした。


 ちなみにジャージなら安かろうと思ったのだがそれでもブランドのせいでアホみたいな値段だったので下着だけ買ってあとはずっとスーツでいることを決める。

 そしてここ"蓬莱"では空が見えないので時計を見て食事と就寝の時間を確認しなければならないと言われ時計も買いに来たのだが、これまた最低でも日本円で十万円……。


 未来ちゃんは病気を治すために"蓬莱"に来ているというのに、逆に俺の方が病気になりそうだ。


 とはいえ、買い物さえ終えればもう休むだけだ。

 灰色の腕章をつけている自分が利用できるホテルにチェックインし、そのまま部屋に入って倒れこむようにベッドに入る。


 上着とか脱いでないけど別にいい、どうせ明日も着るし。

 とにかく今日一日で色々なことがありすぎた。

 明日何をするかはさておき、とにかく今は寝て休みたい。


 そうしてまどろみを味わうように休んでいたら、何やら声が聞こえてきた。

 隣の部屋か誰かが騒いでいるのかと思い再び意識を落とそうとしたのだが、断続的に悲鳴のようなものが聞こえてきたので身体を起こす。


 なんだろう、事故か何かでも起きたのかと思って窓から外を見ると車や人が逃げ惑っている。

 あとなんか火事みたいのが見えるし、緊急放送みたいなのがガンガン鳴ってる。


 ……よし、夢だな!

 さぁて夢の中だけど二度寝するか。


 ―――と思っていたら、扉の向こう側からザリザリと異音がする。

 一体何があるのかと思いドアカメラを見てみると、大きなモフモフの塊から蜘蛛の足が生えたかのような生物が何匹も廊下を徘徊していた。


 いつからこのホテルは外来異種も宿泊させるようになったんだ!?

 もしかして俺も外来異種だと思われてここに泊まることになったのか!?


 取り敢えずここを紹介した胡散臭い男マンはあとでしばくとして、どうするべきか。

 まぁどうもこうも仕事道具がないから逃げることしかできないんだが。


 ……いや、道具があっても知らない外来異種を駆除するのはちょっと嫌だ。

 だってせっかく借りたスーツが汚れたら弁償しないといけないし。


 じゃあ逃げるかということになるのだが、扉は外来異種がいるから使えない。

 窓から逃げようにもここは三階なので下手しなくても足が折れると思う。

 逆に言えば着地の衝撃さえ何とかなればいいということか。


 取り敢えず部屋に動かせそうな家具を使って窓を割り、下に落とす。

 次にソファなどのクッションになりそうなものを落とす。

 ん~、まだちょっと怖いな。


 カーテンやシーツを全部外して結び、窓と窓の間にある仕切りに引っ掛ける。

 あとは荷物を持ってカーテンとシーツによる即席ロープを両手に持ってそのままゆっくりと下に下り、クッションの上に飛び降りた。


 さて、まだ安全とは限らないが何をどうすればいいのか分からないのでスマホの翻訳アプリを起動させて状況を確認する。


『警報、警報。テロリストが"蓬莱"に侵入いたしました。最寄の建物に避難してください』


 ……待って?

 外来異種が脱走したとかそういう話じゃなくてテロリストの集団が来たの?

 ちょっと責任者出てこいやぁ!

 と言いたいところだがそれはここから帰ってからにしよう。


 というわけで走っている、見覚えのあるジャンパーを来た人達が避難するよう呼びかけてきたのでその建物の中へと入った。

 黄色と黒色の模様があるジャンパー……コード・イエローラビットの人だ。


 ここなら外来異種やテロリストが来ても安心である。

 なにせパワードスーツ着てる人とか大口頚の砲弾喰らって無事な人がいるからな!

 俺が何もしなくたって何とかしてくれるに違いない!!


「よーし、そんならここも入口を塞ぐで。後は他んところの奴に任せよか」


 聞いた覚えのある声がしたのでそちらを向くと、俺をあんなホテルに紹介した元凶がそこにいた。


「お前なぁ! ホテルがなぁ! 外来異種がよぉ!!」

「おぉ、あんさんも無事やったんか。いや~良かった良かった!」

「やかましゃあ!!」


 ホテルで寝てたらいつの間にか"蓬莱"の中にテロリストが侵入してさらに外来異種まで徘徊している場面のどこを切り取れば運が良いことになるのか。


「ってそんなのより、なんで入口閉めてんの!? 他のコード・イエローラビットの人達は!?」


 入口の上部からは徐々にシャッターが下り始め、他のメンバーは入口を様々な荷物で封鎖していた。


「残念やったな。天魁・悟空・金吒の三人は黄色腕章の人らのエリアに行っとるからここにはおらんで」

「じゃあここには誰ならいるの!?」

「今シャッターの操作しにいった鈴々姉妹と、あと普通の下位メンバーが三人やな。六人もおれば、まぁ大丈夫やろ」


 そっか、ここ六人しかいないんだ、大変だね。

 じゃあ俺……他の避難所行くから……。


 しかしそこで丁度シャッターが下りきり、出入口が封鎖されてしまった。

 つまり、この胡散臭い男を頼りにするしかないのだ。

 ……不安しかない!


「ど、どうぞ」


 鈴々姉妹の妹、鈴銀が保存食を配ってくれたので、死んだ目をしながらそれを咀嚼する。

 うん……多分美味しい、美味しいんだとは思うのだけど、それが脳まで届ききってない。


「无题さんや、ワシらはいつまでここに居ればいいのかのぉ」

「なんや、急に御爺ちゃんの真似してどうしたんや。いつまでいうたら、まぁ安全になるまでやろなぁ」

「ちょっと電話してきてくんない? テロリストに早く出て行ってくださいって」

「テロリストがおらんようなっても、モンスターはいなくならんで」


 そうだった、それも問題だった。

 テロリストが全員外来異種に襲われて全滅してしまえばいいのに。


「そうそう、テロリストは"コシチェイ"の残党を名乗っとったな。全く迷惑な話やで」

「あれだけ殺したのにまだ生き残りが居たのかよ」


 でもまぁよくよく考えるとテロリストが数十人程度のわけないか。

 そう考えるとまだ百人くらい残ってそうだな。

 はぁ~……超めんどくせぇ。


「まぁいいや、終わったら教えて。それまで溜めた映画とアニメを消化してるから」


 そう言ってノートPCを開いて起動させる。

 ネットには繋がらないが、いくつかの映像は直接見られるようにしてあるから問題ない。


「ハハッ! 他の人らは怯えてるっちゅうこんな状況で、よぉそんなことやってられるなぁ」

「だってやることないし」


 外来異種なら駆除の手伝いくらいはするだろうけど、流石にテロリストがいる中でそんなこと二度としたくない。

 ってかプリピャチでのあれは夜中だから何とかなったのであって、光が途切れない海底都市だと奇襲とか無理だし。


「まぁ見るもんなくなったら浦島太郎の本を読み聞かせたるで。亀がオミットされていきなりヒロイン様との出会いから始まるお話や」

「いきなりネタバレするんじゃねぇよ!」


 というかこの歳になって中国版の浦島太郎読んでも多分楽しめないだろう。

 このPCの中があれば三日は時間潰せるし、その間に解決することを祈ろう。


 それじゃあ何から見ようかなと思っていたら、動画再生ウィンドウが勝手に開いた。

 もしかして不具合かと身構えたが、ノートPCからは何かを必死に読み込む音がしている。


 あぁ、そういえば前に注文してた"俊足の勇者シュン"の完全版のDVDを入れたままにしてたっけ。

 データにしてPCに取り込もうと思いながらすっかり忘れてた。

 なんか手元にあると別にやらなくてもいいかなってなるよね。


「おっ! これまた懐かしい名作アニメやん! ワイもこれ大好きやったで!」


 再生されたオープニングを見ていたら横から无题が割り込んできた。

 というかめっちゃぐいぐい寄ってくる、あっちが女子だったら今頃俺が逮捕されてるレベルで。


「いやぁ~、ほんまに良いアニメやったわぁ! 足が速いことが強いことになる世界に飛ばされた主人公の頑張りを見て何度も励まされたもんや。なのに、最終回だけがなくてなぁ……」


 顔そのものは明るいのだが、口調の所々が諦めたかのような、諦観したかのような、渇いた声色であった。

 なるほど、同好の士というのならば教えてやらねば無作法というもの。

 というかマウントを取るもの。


「残念ながら最終回あるんだなぁこれが」

「ハハハ、嘘言うたらあかんで! 最終回だけが未放送の伝説のアニメや。パチもんのアニメならあるかもしれへんけど、本物はどこにもないで」

「いや、あるんだって。昔の製作スタッフがクラウドファンディングをやって、目標金額に到達したから作ったんだよ」


 ノートPCを操作して話数を見せる。

 何十話もあるタイトルと話数のリストの最後には、大きく最終回と書かれていた項目があった。


「まぁ日本人向けだったからそっちが知らないのは無理もない―――」


 そこまで言ったところで、无题がまるでひったくるかのようにノートPCにしがみつき、その画面を食い入るように見ていた。


「ちょっ、そこ邪魔! 邪魔だからッ!」


 強引に引き離そうとするも、まるで瞬間接着剤でも使ったかのようにしがみついたままであった。

 これはいわゆるガチ勢というものだろうか、それならこうなっても仕方ないだろう。


 流石にアニメを大音量で視聴するわけにもいかないので、スマホで使っていたイヤホンをノートPCに挿して左側を自分の左耳に、右側を无题の右耳に入れて動画を視聴する。


 二十年前の作品なので思い出補正も入っているかもしれないが、それでもワクワクする。

 あのときの主人公がどういった結末を迎えるのか楽しみでならない。


 それからの一時間は最高のひと時であった。

 なんならエンディングが流れたときにちょっと涙目になりかけた。

 本物の製作スタッフだからこそ作れるこの結末に満足し、まるで青空が広がっているようにも思えた。


 まぁ実際、ここは海底だし空は見えないしなんならテロリストと外来異種が外をうろついてるけど。

 それでも、それを忘れて気分が晴れるくらいには素晴らしい作品だった。


 さぁそれじゃあ感想戦でもやろうかと无题の方を見てみる。

 口を開けて呆然としながらも、目からは涙がボロボロと零れていた。


 流石はガチ勢だ、どっぷりと余韻に浸っていて全く動く気配がない。

 まぁ諦めてたはずのものが目の前に出てきたら、そら嬉しくて感極まってこうなるのも仕方ないだろう。


 しばらくゆっくりさせておくべきかと思っていると、无题は顔はそのままにこちらへ向き直り、急に手を握ってきた。


「――――ありがとう、僕を救ってくれて」

「んぁ!?」


 いきなりいつもの違う口調で、そして真面目な顔でお礼を言われて困惑する。

 无题は顔を拭って立ち上がり、またいつもの笑顔に戻った。


 そして腰にあった警棒のようなものを引き抜くと、入口の近くにいたコード・イエローラビットの一人の後ろ首に当てる。

 瞬間、凄まじい光と音と共にその人が倒れる。

 あれは電流で対象を気絶させるスタンバトンというものか。

 

 ……いやいやいや!

 どうしていきなりそんなもんを使い出したの!?


 いきなり仲間を気絶させた无题を見て、近くにいた二人が立ち上がって同じスタンバトンを引き抜こうとする。


 しかし无题は一人の肩を掴んで回転させ、そのままスタンバトンを後ろ首に当ててまた一人凄まじい光と音と共に気絶させる。


 もう一人は完全に臨戦態勢に入っているのだが、无题はそのまま気絶した男をそちらに押し投げる。

 相手はそれを回避するのだが、无题はそれを読んでいたかのように左手から何かを射出して相手の目を潰した。


 も、もしや……あれが中国本場の指弾!?


 そんなことを考えている間に最後の一人も後ろ首にスタンバトンを当てて気絶させる。

 鈴々姉妹はといえば、ただただ呆然とそれを見ていることしかできなかった。


 さて、問題はどうして无题がいきなりトチ狂って仲間を気絶させたのか。

 そしてこっちに近づいてきているのかである!


「おっと、身構えんでもええで。あんさんに何かすることはありえんからな」


 そう言ってスタンバトンを腰に仕舞うのだが、まだ安心できない。

 何故なら素手でも俺はチワワに負ける自信があるからな!


 ……あれか、研究所の人が渡した秘密兵器を使えってことなのか?

 でもあれ使い方が最後まで分からなかったから、棒として振り回すくらいしかできないぞ。


「そうそう。そういや、ワイの本名をまだ言ってなかったな」


 え?

 そういえば、コード・イエローラビットにいる人の名前って全部コードネームみたいなもんだっけ。

 ただ問題は、どうして今このタイミングで本名を名乗ろうとしているかだ。


「実はワイ、犬走 俊哉(いぬばしり しゅんや)って言いますねん」

「………は?」


 いぬばしり、しゅんや……?

 その名前はまるで――――。


「二十年前にどっかの犯罪者に捕まって、国外に売り飛ばされた間抜けな日本人ですわ。ほんじゃ、今後ともよろしゅうたのんます」

「………は?」


 俺には、それしか言えなかった。

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