第73話:新橋飲み会
『―――という感じで、病院の検査でも原因が分からないと言われてしまいました』
「原因が分からんと怖いよねぇ~」
新橋のビル地下にある居酒屋で肉豆腐や鳥皮串をつまみつつ、未来ちゃんとメッセージのやり取りをしている。
富山の生物災害からはそんなに連絡することもなかったのだが、ロシアから帰国して温泉に行ってからはそこそこ連絡しあったりしている。
ちなみに金銭的なやり取りはしていないので捕まる可能性はそこまで高くないはずである。
ゼロにはならない、お嬢様学校の女学生と連絡し合ってる外来異種の駆除業者とか接点がなさすぎて怪しいもん。
まぁ未来ちゃんの予知夢は今のところ百発百中なので、もしも警察に捕まる予知夢を見たら非合法スレスレの身分証を使って国外逃亡する予定だ。
そうか、ロシアであれをくれたアイザックって人は、それを予見していたのかもしれない。
まぁそんなことはさておき、未来ちゃんから体調について相談された。
どうも眠りが深くなりすぎたり、急に眠気が襲ってくるらしい。
居眠り病か何かだと思ったのだがその眠気がきたときは必ず予知夢を見るとのこと。
そうなると普通の病気とは違うのかもしれない。
普通の病気ではないとするならば、普通ではない何かが条件だろうか。
未来ちゃんが他の人と違うところがあるとすれば――――。
「すっげぇ気は進まないんだけど、国立外来異種研究所で調べてもらうって手があるかも」
『あそこでも調べてもらえるんですか?』
「ほら、もしかしたら新世代特有の病気かもしれないからね。そういうのが詳しいのっていったらあそこくらいだし」
なにせアメリカの研究所とも手を組んでいるのだ、そういった方向でなら頼りになる。
問題は捧げられたあそこの研究員さん達の人間性と良心がどれだけ残っているかだ。
まぁヤベーことやらかしたら北小路理事長と久我議員にチクって潰してもらおう。
マッドはもうチェルノブイリでお腹いっぱいです。
しかもあいつ、自分は三番目とか言ってたからあと二人いることが確定している。
クローンでさらに増殖してないことを祈ろう。
「おうおう、俺が来る前にもう飲み食いしてんのかよ」
遅れてやってきた不破さんがこっちの首根っこを掴みながらそんなことを言う。
「どうせ不破さんより食べますから、こうやって先に腹に入れることで、同じタイミングで食い終わるよう調節してるんですよ」
取り敢えずこの人に見られたら警察よりも怖い人達を呼ばれそうなので、スマホをポケットに入れて未来ちゃんとのやり取りを終える。
「だから痩せねぇんだよアホタレ。そんなんじゃ一生独り身だぞ」
「不破さんだって独身じゃないっすか。っていうか、あの会社で結婚できたのって社さんだけじゃ……」
「まぁ外来異種の駆除業者なんかしてる奴に出会いなんざねぇからな。……で、珍しくお前から飲みに誘ってきたが、なんかあったのか?」
そうそう、それが目的だった。
それから俺は今日あった廃マンションでの出来事を不破さんに話す。
最初は酒を飲みながら適当に相槌を打っていただけだったが、途中から大爆笑してた。
あぁ面白いでしょうね! 聞いてる側は!
当事者としてはマジできつかったんすからね!!
「いやぁ~、悪ぃ悪ぃ! お前はやっぱおもしれぇな!」
「顔のことじゃないですよね」
「顔もだ」
顔もらしい。
嫌なセット効果である。
「で……わざわざそんな話のネタを聞かせに呼んだのか?」
「いや、"尾喰宮"と"脛齧"の正しい駆除方法について聞かせてもらいたいなぁと思いまして」
「別に正解なんてねぇぞ。駆除できりゃあなんでもいいだろ」
毎回ドラム缶と鉄パイプを合体させて自爆させろというのか。
許されるならそれでもいいけど、多分あれ何度もやってたら怒られるよね。
っていうか今更だけど一回目で怒られても仕方ないかもしれない。
「あぁ~どうしてもってんなら長ぇ棒を用意しろ」
「遠くから攻撃しろってことですか? それなら銃の方がいいんじゃないですか?」
「違ぇよ。あいつらは襲うとき必ず真っ直ぐ向かってくるだろうが。だから棒の片側を地面に刺さるように、もう片方をやつらの方に向けろ。それで勝手に死ぬ」
なるほど!
必ず真っ直ぐ突っ込むから、襲い掛かってくる方向にあらかじめ棒を置いておけば、柔らかい口から串刺しになるというやつか。
そんで反対側を地面に刺しておけば、それが支えになると。
騎馬を迎え撃つパイク部隊みたいなもんか。
……こっちの方が安全じゃん!
俺のあの苦労はなんだったの!?
ってかこれなら最初から電話とかで聞いときゃよかったじゃん!!
やっぱあれだな、不破さんの年季にはまだまだ勝てないということを思い知った。
まぁ腕力とかでもまったく勝てる気はしないのだが。
「恐れ入りました」
「お前は本当によぉ! 一人で仕事ばっかしてっから誰かに聞くとか一度時間を置くとかしねぇんだよ!」
不破さんの酔いが回ってきたのか、俺の頭も一緒にグワングワンと回される。
この分だと分間120回転で頭がチーズになるかもしれない。
「別に俺も一人で仕事したくてしてるわけじゃないですよ」
国会議事堂でのテロ騒ぎくらいの大きな事件があれば自衛隊の人と一緒にお仕事するし!
……まぁ片手で数えるくらいしかないけど。
あ、そういえば社さんの息子さんである勲くんをたまに誘ったりしてたりもしてる!
とはいえ、あちらは学生なので学業が本分である。
あちらの時間の都合、あとこちらの秘密裏なお仕事には関わせられないので、あんまり誘えてない。
鳴神くんと天月さん、あと軽井さんは別の会社だし……。
あ、エレノアとイーサンいるじゃん!
……あの二人は別にこんなクソみたいな仕事しなくても生きていけるか。
ってかイーサンはまだ入院してるし、エレノアはその付き添いをしてるし、多分まだ日本には来れないだろうなぁ。
そういえば外来異種の駆除に関する業務に関わってるんだし、いっそブンさんを……。
とか考えていたらポケットに入れていたスマホが震えた。
残業か、それともお叱りメールか、憂鬱な気分になりながらもスマホを起動して見てみると、その斜め上の事態であった。
「ッスゥー……不破さん、来週暇っすか?」
「あぁん? 何があったよ」
「勲くん、第三級要請依頼に呼ばれたらしいっす」
第三級要請依頼、公的機関から強い要請があった場合に発生する作業である。
ちなみにこれを断ると罰則があり、場合によっては駆除免許が一発で剥奪される。
基本的には全然仕事してない人であったり、問題を起こすような人へのペナルティ的なものである。
「あいつ、何やらかしたんだ」
「ほら、まだ学生ですからテストとかで作業してなくて、たまたまリストに入ったんじゃないかと」
ブンさんはそういうのも考慮してくれるのだが、他の役場の人もそうであるとは限らない。
むしろブンさんくらい親身になってくれる人を俺は知らない。
嫌な予感がしながらも勲くんから来たメッセージを読み進めると、一際ヤバイ単語があった。
「場所……奥多摩っす」
「よりにもよって、あそこかよ」
不破さんが心底嫌そうに吐き捨てる。
俺達が前にいた会社の同僚が……先輩が……社長が死んだ、因縁の地である。
俺の首筋に、昔と同じあの感覚が這い寄った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます