第42話:ある兵士の記録A

≪十年前 アメリカ ワシントン州≫


■十月四日 天候:晴れ

 カナダでモンスターの大掛かりな駆除が行われるという事で、国境線への配備となった。

 それにしてもPDAで記録を取れとはどういう意図があるのだろうか?

 日記でもいいとの事なので、本当に日記を書いて提出してやろう



■十月五日 天候:曇り

 上から道路を封鎖するよう命令がくだった。

 カナダから逃げてきたやつらに紛れておかしなやつも入ってくるからだ。

 中には子供連れのやつらだっているのに、かわいそうな事だ。



■十月六日 天候:曇り

 道路を封鎖したが、立ち退かないやつらが増えてデモを起こしている。

 「見殺しにするのか!?」「どうか子供だけでも!」

 そんな事を俺ら軍人に言われたってどうしようもない。

 お前らカナダ人ならカナダの政府に言ってくれ。



■十月十日 天候:晴れ

 カナダ側とアメリカ側で封鎖を解除しろと騒ぐデモ隊が増えたせいで、お偉いさんは戦車まで引っ張り出してきやがった。

 遠くに見えたモンスターに一発ブチかましたおかげでデモの奴らはダンマリだ、いい気味だぜ。



■十月十二日 天候:晴れ

 遠くの山で何か動くものが見えたので報告したが、無視していいらしい。

「ああやって越境する分には黙認するんだとよ」

 あとで聞いた話だが、既に何十人ものジャーナリストがメシの種を稼ぐ為にカナダに行ってるらしい。

 命が惜しくないのかねぇ。



■十月十五日 天候:晴れ

 カナダの方でモンスターの巣をぶっ潰したらしい。

 掃討作戦も順調で、数日で終わる予定だ。

 ここで突っ立ってるだけの楽な任務もそろそろ終わりか。

 もうちょっと長引けば俺も楽できるんだけどな。



■十月十七日 天候:曇り

 道路の封鎖解除はまだらしい

 そしてカナダから逃げてくるやつらが増えてきやがる

 それどころかモンスターのやつらも入ってきて、襲われたって話も聞く。

 クソ、こっちに来れば俺らが蹴散らしてやるってのに。



■十月十八日 天候:晴れ

 最高の気分だ!

 遠くで家族を襲っているモンスターを、イーサンが狙撃で頭を撃ち抜いてやった!

 こいつがいればどんな遠くにいても安心だぜ。

 酒は無理だが、家族を救った英雄様にコーヒーで乾杯といこう!



■十月二十日 天候:曇り

 最悪の報せがきやがった。

 カナダが潰した巣は入り口の一つでしかなかったらしい。

 今はあっちこっちで地面からモンスターが湧いて出てきてるらしい。

 クソッ、だからモンスターは放置しねぇでさっさと駆除しねぇとダメなんだよ!



■十月二十三日 天候:曇り

 後方にあるリンデンでモンスターがいきなり現れたらしい。

 一分隊で確認しに向かうと、地面にデケェ穴が開いてやがった。

 穴の先に向かっていったやつは夜になっても戻らなかった。



■十月二十四日 天候:雨

 上からの命令で穴を塞ぐ事になった。

 それに伴ってアメリカ北部に戒厳令が出て、住民は南側に避難する事が決定した。

 すまねぇ、ディラン……ネイソン……。

 タグだけでも回収してやりたかったが、住民を守る任務があるんだ……。


■十月二十五日 天候:雨

 第五と第六小隊の奴らがやってきた。

 住民の避難を助けてくれるかと思ったが、防衛線を構築するらしい。

 北で何が起きてんだよ……。



■十月二十六日 天候:雨

 一部の住民をベリンガム空港まで護送する。

 今ここではひっきりなしで飛行機が飛んで、空港はパンク状態だ。

 これならもっと南下してベリンハムで船でも調達した方がいいんじゃないか?



■十一月一日 天候:雨

 クソッ! クソッ! クソったれ!

 空港の近くにモンスターが出やがった!

 戦車が防衛線にもってかれたせいで大苦戦…イーサンも負傷しちまった!

 まだ戦えるって意地はってやがるが、とにかく治療優先だ。

 第五と第六小隊のやつらはなにしてんだよ!!



■十一月三日 天候:曇り

 空港ではもう間に合わないという判断がされ、南にあるベリンハムから住民を海上輸送する作戦が伝えられた。

 既に船も用意されてるらしく、これなら一気に仕事が楽になる。

 イーサンもこれで帰らせてやれるだろう。



■十一月五日 天候:晴れ

 船から戦車などの兵器が降ろされ、その空いたスペースに避難民を押し入れる。

 とにかく女子供、負傷者や病人を優先して船に乗せて避難させた。

 本当ならイーサンも乗せるつもりだったんだが、俺らが不安だから残るってよ。

 それと小さな子から花冠を貰った。

 「兵隊さん、ありがとう!」だってよ。

 やっぱ俺、軍隊に入ってよかったわ!



■十一月六日 天候:雨

 昨日出航した船がTier-4のモンスターによって沈没させられた。

 全滅らしい。

 神よ、どうしてアナタは―――。



■十一月七日 天候:雨

 シアトルまで退却する事になった。

 直線距離だけでも百キロ以上ある道程だ、せめてここで時間稼ぎをさせてくれと上官に頼んだが、却下された。

 イーサンにも自棄になるなと言われたが、俺達は国民を守る為の盾だぞ?

 あの子が死んで、どうしておめおめと生きていられるってんだ…。



■十一月十日 天候:晴れ

 住民を助けながら、出てくるモンスターを倒しながらシアトルに向かう。

 あの日、船で戦車や兵器を運んでくれて助かった。

 俺達はまだ戦える!



■十一月十一日 天候:曇り

 いくつかの避難民グループが離脱した。

 シアトルまで行けば安全だと説得するも、聞いてもらえなかった。

 「お前らを信じて船に乗せたせいで、私は家族を失った!」

 俺は何も言い返せなかった。



■十一月十三日 天候:晴れ

 徐々に離脱していくグループが増えていくが、俺達にはそれを止める手段はなかった。

 何度も空を駆ける戦闘機を見かける。

お前らが全部ぶっ飛ばしてくれれば楽になるのに。



■十一月十五日 天候:晴れ

 シアトルに近づくにつれて車両が邪魔をするようになり、遂には歩く事になった。

 イーサンは無茶して銃を撃ったせいで傷口が開き、歩くのもつらそうだ。

 それでも我慢して歩くあたり、本当にヒーローみてぇだな。



■十一月十六日 天候:晴れ

 シアトルは人でごった返しになっていたが、ようやく避難民を送り届ける任務を完了した。

 避難所にはまだまだ多くの住民が取り残されているが、こっちは集結した戦力が大隊規模だ。

 何がきたって追い返してやるぜ。



■十一月十七日 天候:晴れ

 朝からいい報せを聞いた。

 戦闘機が北側から迫ってきたTier-4のモンスターを追い返したらしい。

 日本だと甲種だったか? まぁいい。

 そんなのが後ろにいただなんて思いもよらなかったぜ。

 しかも一緒にモンスターが進む坑道も潰したらしい。

 これならイーサンも気兼ねなく休めるだろ。



■十一月二十日 天候:雪

 聞いてねえ! あんなの聞いてねえぞ!

 Tier-3のモンスター共が続々ときやがる!

 固定機関銃を撃ちすぎたのか、それとも寒さのせいか、腕の感覚がもうなくなってやがる。

 いったい俺達はいつまで戦ってればいいんだ。



■十一月二十一日 天候:雪

 昨日の夜に何匹かのモンスターが入り込んできやがった!

 夜通し戦ってた疲れのせいで負傷しちまった。

 イーサンのいる避難所に向かったが、あいつ入ってきたモンスターを拳銃だけで処理したってよ。

 やっぱ頼りになるぜ、ヒーローさん。



■十一月二十二日 天候:雪

 一部の地区で真昼間だってのに翡翠の月を見たってやつがいた。

 月の光で痛むとかいって眼球を掻き毟るからイーサンと一緒に止めたんだが、タイミングが悪く、モンスター共が雪崩みてぇにやってきやがった。

 逃げられるやつはさっさと逃げて、俺らはディスカバリーパークにあるシェルターに避難民を誘導した。

 戦友が誰も来ない事にイヤな予感を感じたが、イーサンが小さな女の子を引き連れてやってきた。

 そして、その後ろからは大量のモンスターが……。

 必死こいて攻撃したおかげでなんとか二人共助けられたが、シェルターを閉じるハメになった。



■十一月二十三日 天候:不明

 避難民はだいたい二百人程度だろうか。

 スマホが使えなくなった事で、ここがモンスターのテリトリーになったと騒いでいるやつがいたが、ここは電波をシャットアウトするんだと説明しておいた。

 通信室からこちらの現状を上に報告すると、すぐに救助部隊を編成するとの事だった。

 この人数でも一ヶ月は籠もれる備蓄もあるし、一安心だ。

 ただし軍人は俺とイーサンの二人しかいない……やれやれ、なんとか頑張らないとな。



■十一月二十五日 天候:不明

 最悪だ、外部と通信できなくなった。

 これはつまり、シェルターの外はモンスター共のテリトリーになった事を意味する。

 避難民が通信内容について聞いてきた。

 本当の事を伝えればパニックになるかもしれない。

 俺は適当に誤魔化しておいた。



■十二月一日 天候:不明

 勝手にシェルターを開けようとするやつが出やがった!

 今回は止められたからよかったものの、これからは監視しないとマズイ。

 傷が痛むが、俺とイーサンで交代しながらシェルターの開閉装置を死守するぞ。



■十二月三日 天候:不明

 シェルター内の雰囲気が悪くなっている。

 どうしてまだ救助が来ないかと言われたが、そんなスグに来れるわけないだろ!

 中には道具をもって押しかけるやつもいたが、こっちには銃がある。

 どうして守るべき国民に、銃を向けなきゃいけないんだよ……。



■十二月五日 天候:不明

 憂鬱になりながらも監視をしていると避難民の女性、ライリーが話しかけてきた。

 俺達の方が正しいと思いながらも、何も言えなかったらしい。

 涙ぐむ彼女の肩を優しく抱いて慰める。

 あぁ……味方がいるというだけで、こんなにも救われるとは思わなかった。



■十二月七日 天候:きっと晴れ

 今日はずっとライリーと話していた。

 今までの暗い気持ちが嘘のように、心が晴れ渡っていた。

 大丈夫、俺達はきっと助かる。

 もうしばらく辛抱すれば救助が来てくれる。

 外に出たら、俺はまた改めてライリーと会って■■■■■■■


 ≪デー■破損・リ■バリ不可■≫

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