第34話:未確認外来異種テロ
敵情視察を終えてから数分後……自分と鳴神くん、それに天月さんと何名かの人員と一緒に国会議事堂内に潜入する。
先ずは国会議事堂の二階部分にある資料室の中にいる叫竜もどきである。
「……一匹は左扉から入って十時の方向に二メートル、もう一匹は右側の扉から入って一時の方向に五メートルです」
資料室の近くで天月さんがそれぞれの個体の居場所を報告してくれる。
「じゃあ俺が左側のやつをやるから、鳴神くんが右側のやつヨロシク」
「分かりました。それじゃあ合図をお願いします」
腰につけてきた投擲用の斧を両手で振りかぶり、足を使ってゆっくりと扉を開ける。
斧は威力があるものの、相手にブッ刺すのにはコツがいる。
一回転だけ…相手に刃が刺さるように一回転だけするように調整しなければならないのだ。
呼吸を落ち着けて中に入ると、壁に張り付いていた一メートルくらいのトカゲと目が合ってしまい、咄嗟に斧を投げる。
「ゴー!」
斧がトカゲの首に刺さった瞬間に合図を聞いた鳴神くんが部屋に突入し、もう一匹のトカゲを始末する。
結果的に、サイレントキルには成功したと思う。
部屋が血で汚れてしまったが、あとで清掃員の人がなんとかしてくれる事だろう。
やっぱりこういう時の為に大型テーザーガンとかあるといいのに。
「荒野さん、よく斧なんか当てられますね」
「ちょっとブレると刺さらずに当たるだけになるけどね」
部屋の右側を片付けた鳴神くんと話している間に、フィフス・ブルームの人とウチの自衛隊員さんが死体を片付ける。
これで残りは西側の鳥だかコウモリだかの新種だけである。
「よし、それじゃあ狙撃班は二階と三階通路で待機を」
『分かりました、配置につきます』
ここまで来たらもう流れ作業のようなものだ。
国会議事堂の廊下は無駄に長いくせに狭いので、出てきさえすれば銃の的である。
まぁあっちがビームとか撃ってくるなら話は別だけど、流石にそこまで非常識なやつらではないはずだ。
いやむしろビームとか撃ってくるなら捕まえて兵器運用すべきかもしれない。
喰らえ、外来異種ビーム!…みたいな感じで。
そして中に数名の自衛隊員さんを残し、残りの人達と一緒に外へ出る。
それを不思議に思ったのか、ついてきた鳴神くんが尋ねる。
「あの……まだ中にいるのに、外で何するつもりなんですか?」
「それはね、追い込み猟をするからなのよ」
空包を銃に込めて、空に向けて撃つ。
それを合図にしたかのように、各所で同じような空砲の音が響き渡る。
『ターゲット、移動しました』
『三発命中……目標、止まりました。回収します』
通信機から仕事が終わった報告が入る。
流石は自衛隊員である、状況さえ整えれば後は任せるだけで全部片付けてくれた。
その後、他にもいないか確認する為に国会議事堂の周囲を巡回する。
といっても、天月さんがいるので本当に歩くだけでいいのが楽だ。
それでもまだ外来異種がいたら怖いので、天月さんのセコムしてる鳴神くんも一緒である。
「あの…銃を使ってましたけど、本当によかったんでしょうか?」
先ほどの方法について天月さんが不安そうに聞いてきた。
まぁ銃を使うなといわれておきながら使って、しかもマスコミとかにも聞かれてただろうから何か言われるかもしれないだろう。
「まぁ"あの銃声は何だったんだ?"って聞かれたら、中にいる新種は音に敏感だったので空砲で追い込んでましたって言えばいいし」
中の人はサプレッサーで音を小さくしてたし、まぁ嘘じゃない。
「それに、ほら…銃を使って傷つけるのはダメって事なら、銃を使っても傷をつけなきゃセーフだと思うんだ」
「いやぁ~、それはちょっと……」
天月さん的にはアウトらしい。
鳴神くんもドン引きした顔をしている事から、このカップルはこういった方法はお嫌いらしい。
ちくしょう、俺だってこんなギリギリな事したくないよ!
だけどこういった狡いマネしないと生きてけないくらい弱いんだよ!
だからこそ自衛隊の駐屯地で訓練をしてたりするけど、なんかまったく強くなった気がしないのよね。
なんなら斧とナイフ投げ放題のお店で投擲の練習してた時が一番強くなってる気がする。
おかげで投げナイフとか買っちゃったし。
「あれ、ちょっと待ってください」
天月さんはそう言って電気フェンスの近くに走る。
危ないと言おうと思ったのだが、近くにあった何かを拾ってこちらに戻ってきた。
「あの、これって何でしょうか?」
天月さんが拾ったものを手に乗せてこちらに見せる。
「これは…皮?」
「ンマァ! はしたない言葉ですわよ、鳴神さん!」
「皮ってだけではしたないとかアンタの辞書で皮はどう書かれてんの!?」
まぁ冗談はさておき、天月さんが拾ってきた何かを剥いたかのような黒い皮には心当たりはない。
「どうしてこれを?」
「えっと…かなり反応が弱いんですけど、これも外来異種の一つみたいなんです」
う~む、どう見てもただの皮で生きているようには見えない。
もしくはサナギが脱皮して、あの新種になったとかだろうか。
いや流石にそれは突飛すぎるかな。
というか考えをまとめようにも、野次馬やら何やらがうるさくて全然集中できない。
「どういう事だー! どうして銃声がしてるんだァー!!」
「反対! 反対! 銃を規制しろォー!」
外野は外野で野次のほかにもゴミを投げてるやつすらいる。
一発だけなら誤射かもしれないとニュースでやってたよね?
あの中の一人だけに誤射するとなると誰がいいのか悩むなぁ。
「あれ、あっちにも反応が」
そう言って天月さんは再び何かを拾ってこちらに見せてくれた。
「何かの種かな?」
鳴神くんのいうとおり、それは普通のものよりも大きな種にしか見えなかった。
「どんな匂いがする?」
「んん~……いや、分からないですね」
そしてスマホをパシャリ。
「あの、何を撮ったんですか?」
「脅威! 突如、女性の手を嗅ぐ有名人! って感じのシーンをSNSに投稿しようかと」
「止めてくれません!?」
我ながらよく撮れたと思ったのだが、お姫様の手にキスする王子様みたいな構図で、しかもお互いの顔がイイからまったく不祥事に見えない。
どうして非モテである自分がカップルのイチャついてる画像を撮影しなければならないのか、これが分からない。
「う~ん…さっきよりも反応は強いんですけど、まるで眠ってるような……。あ、動いた?」
ふと、先ほど自分が考えたサナギ説が頭によぎった。
サナギではないが、似た様なものを映画で見た記憶がある。
それはエイリアン……卵から出てきた幼体が寄生するというもので……久々に背筋に薄ら寒い何かが走った。
「各員、外周部にいる野次馬を撮影! それといつでも動けるように準備!」
「あの…荒野さん?」
鳴神くんと天月さんが急に無線で指示を飛ばした自分を不安そうな顔で見ている。
側に居た自衛隊員さんも戸惑ってはいたが、一呼吸のうちに顔が切り替わった。
『復唱! 撮影、それと移動の準備!』
『了解!』
最悪を想定して自分のジュラルミンケースにある荷物を全部放り出し、天月さんが持ってた種をその中に放り込み、念の為にダクトテープでガチガチに固めておく。
あーとーはー……電話!
スマホの音声機能を使って「幕僚長」と発言すると、登録されていたダイヤルに電話が繋がる。
「もしもし、荒野さん? 先ほどそちらで銃声があったと―――」
「生物テロです。群集に紛れて小さな未確認外来異種を投げ込まれました」
電話の向こう側で息を呑む音が聞こえたが、すぐに返事が返って来た。
「スグに追加の人員を送る。荒野さんはその場で……いや、こっちで命令を与える権限は無いか。そちらの判断に任せます」
電話を切って一息つく、取り敢えずこれで急場の対応は出来たと思う。
「荒野さん、いま生物テロって聞こえたんですけど」
やっべ、近くに鳴神くんと天月さんがいるんだった。
どうやって誤魔化そうかと考えたが、鳴神くんはこっちの裏事情も知ってるし別にいいか。
天月さんは……鳴神くんの彼女なんだから、そっちでフォローしてもらおう。
「ゴミに紛れて天月さんが手に持ってたヤツを投げ込まれたでしょ? 多分、アレが新種に関係してる……んじゃないかなぁって」
「本当ですか? 間違ってたらどうするんですか?」
「え、謝るけど」
「謝るだけでいいの!?」
良くはないけど、謝るしかないじゃない。
俺の思い過ごしなら、俺が笑われるだけで済む。
そしてそんな扱いは慣れてる、なんなら罵声もセットでついてくる。
だけど、もしもという事が起きてたら笑い事じゃない。
取り返しのつかない事になる可能性だって十分ある。
というかこれがテロなら相手側も取り返しのつかない事をやらかそうとしているわけで―――。
待った、もしも犯人がテロるとしたら、国会議事堂だけで終わらせるだろうか?
国会議事堂の周辺は大勢の人で大騒ぎだ、これを利用しない手はない。
「ねぇねぇ、この周辺で国会議事堂よりもヤバイ場所ってない?」
「ヤバイって何ですか…。この近くでそれくらい有名な場所って言ったら、皇居じゃないですか?」
皇居って…いわゆる、尊き御方がおわす所でごぜぇますよね。
それは―――ヤバイですわよね!?
取り敢えず急いで国会議事堂の参観入り口に戻り、荷物を整える。
何人かの自衛隊員の人に着いてきてもらいたかったのだが―――。
「申し訳ありません。ちょっと、上の方が……」
周囲には事情を知らないフィフス・ブルームの人達がいるので、小声で話してくれる。
「先ほどからもう一度連絡を取ろうとしているのですが、立て込んでいるようでして」
そうだろうね!
なにせ国会議事堂がテロられてるかもしれないんだからね!
そりゃあ現場以上にてんやわんやだろうね!!
こうなったらこっちで何とかするしかない。
とすれば…自分の知り合いを引っ張ってくるしかない。
「鳴神くん、少しの間でいいから天月さん貸してくれない?」
「……また何か厄介事ですか?」
「まるで俺が持ってきたように言うんじゃありません!」
今回に限っていえば何もしてねぇよ!
むしろ気付いちゃったせいでアイディアロールのダイスを振っちゃってSAN値と胃壁が削れてる所だよ!
そんなこんなで、天月さんの業務について他の人に引き継いでもらう事にするのだが、どうにも不満が出ているらしい。
それを鳴神くんが懸命に説得してくれているので、とてもありがたい。
「やっぱり天月さんが危ないですよ」
あぁ…やっぱり心配してるところはそこか。
確かに俺の運動能力はクソザコなめくじだから、いざって時を考えると不安になる気持ちも分かる。
なんなら天月さんを見捨てて逃げても先に逃げられる説すら濃厚だ。
「心配する気持ちはオレも同じだ。だけど、富山で荒野さんと一緒に仕事をした人なら、きっと大丈夫だって信じられるはずだ。それに、この人の顔と性格なら牧さんを取られる心配もないよ」
「それもそうですね!」
ちょっと待って?
今キミ達の言っていた肯定の言葉は、俺を信じるって言葉に対して言ったんだよね?
俺の顔と性格に対して言ったわけじゃないよね?
「一応、私もついていきます」
そう言って富山でも一緒に仕事をした軽井さんが手を上げてくれる。
女子二人に男子が一人…何も起きるはずがなく……。
「私は銃が使えないと残っていても意味ないですからね。あ、何かしたら撃ちますので」
やばい、何か起こす気満々だこの子。
ラッキースケベじゃなくて、ラッキーショットによるヘッドショットとかそういったやつだ。
「ちなみに、クシャミをしたら?」
「撃ちます」
生理現象だろうと容赦なく撃つらしい。
殺意が足りてるどころか溢れてるよ。
「天月さんをナンパしたら?」
「すいません、地球語で話してもらっていいでしょうか」
真偽判定すら発生しないらしい。
これは、自分がナンパなんかしないという信頼の表れなのか、それともヘタレだと思われているのか…。
「皆も納得してくれたので大丈夫みたいですね。それじゃあ荒野さんと軽井さん、牧さんをよろしくお願いします」
「俺のメンタルは大丈夫じゃないけど、このままここに居たら一時的狂気を発症するから出て行くよ。……後で戻ってきてくれって言っても、もう遅いからな!!」
どちらかと言えば自分が手遅れ状態だと思うけど、考えないようにしよう。
次にアイディアロールのダイスを振って失敗したら、不定の狂気に陥るだろうし。
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