盗賊に攫われた少女を偶々助けました

「すまないがユウ、隣町まで行って食料を調達してきてくれないか?」


 ベンチに寝そべって適当に寛いでいると、頭上から厳つい声が聞こえて来た。


「もう今月分の食料無くなったの?ついこの前調達した気がするけど」

「あぁそれなんだが、どうやら食料庫が何者かに荒らされていたらしいんだ。食料庫はもぬけの殻、残っていたのはせいぜい藁位だな。金が無いってのにひでぇ事しやがる。クソッタレが」

「そんな‥‥‥」


 あの大量の食料を運ぶの結構大変だったのに‥‥‥。またしないとイケないのか。はぁ。


「父さんは行かないの?」


 出来れば一緒に来てくれたら助かるんだけど。


「すまん。今から少し用事があるんだ」


 だよね‥‥‥。

 

「‥‥分かった。行ってくるよ」

「頼む。金は家の金庫にあるから、母さんに開けてもらうんだ」


 その後父さんに買い物の一覧表を貰い、僕は家に向かった。

 歩いていると段々と家が見えてきた。

 僕の家はどちらかというと汚い。

 所々に苔が生えていて、木の柱は黒んずんで長年の歴史を感じさせる。

 大きさもこじんまりとしていて、まさか家族4人が住んでいるとは到底思えない広さだ。

 でもそんな家が僕は好きだ。

 汚くて小さいけど、どの家よりも愛情に溢れている気がするから。


「ただいま」

 

 廃れた木の扉を開け家に入る。 

 すると家に入った途端、部屋の奥からドンドンとこちらに向かってくる足音が聞こえて来た。

 これは多分――――、

 

「にいちゃ!」


 可愛い僕の妹だ。


「良い子にしてかリン?」

「うん!リンいい子してた!」

「そうかそうか」


 帰ってきた途端僕に抱きついてきた妹のリンの頭を優しく撫でて上げる。

 リンは頬を緩ませ嬉しそうにはにかんだ。

 今年で5歳になるリン。 

 僕10歳だからリンとは5歳差だ。 

 この間まで僕の胸くらいの高さだったけど、リンはとても大きくなった。時間が経つのが早いと思う。


「リン、僕は今から食料の調達に行ってくるからまた少し家を出ていくよ。帰ってくるのは3日後位かな」


 僕達の村は辺境にあるから隣町まで行くのに半日以上掛かる。

 道行きもかなり厳しくて、食料を運ぶのはとても大変だ。 

 

「や!にいちゃは家にいる!」 

「ごめんなリン。すぐに帰ってくるから」

「や!」

「はぁ‥‥‥」


 一度こうなるとリンは寝るまで引かない。

 言い合いになるのは面倒くさいから、適当に言い訳を作ってさっさと食料調達に行こう。


「リン、もし我慢したらリンの大好きなあのお菓子を買ってきてやるぞ‥‥?」


 リンの大好きなお菓子。

 それは――――、


「キャンディー!!リン食べたい!」


 ふふ、うまく釣れたようだ。


「じゃ、お兄ちゃん待てるな?」

「むぅ〜」


 可愛らしく頬を膨らませ、リンはリンなりに悩んでいるらしい。

 リンの柔かいほっぺたを思わずむにゅむにゅしたい衝動に駆られた。


「‥‥‥わかった。リンにいちゃ待つ」

「リンは偉いなぁ」


 そう言って僕は再びリンの頭を撫でて上げた。



 ◇



「ふぅ、相変わらず道が厳しいな」


 あの後母さんからお金を貰い、僕は隣町まで食料調達をしに向かった。

 この前行った時は疲れ過ぎて心が折れそうになったから、今回はペース配分をしっかりしよう。前回みたいに゛スキル゛ばっかり使うと余計体力を消耗するからね。


「やっと半分か‥‥‥」


 中間地点に着いた僕は、小腹が空いた為ランチボックスを広げた。

 家を出る時に母さんが渡してくれた物だ。


「うん。美味い」


 品数は少ないけど、母さんが作ってくれた料理は何でも美味しい。

 僕の家族が貧乏なのは分かってるけど、それを感じさせないように両親が頑張ってくれているのも分かってる。だから僕も余り適当な事はしていられない。頑張って食料を調達して来なくては。


 ―――そしてそれは、意気込んで次のおかずに手を付けようとした時だった。


「誰かー!だれか!きゃあ!」


 いきなり聞こえて来た女性と思われる悲鳴に、僕の意識は一気に現実へと引き戻された。

 

「っ‥‥‥!」


 声のする方へ走って向かうと、そこには茂みに隠れコソコソとやっている男の後ろ姿が目に入った。

 茂みの奥からは女性のうめき声が聞こえ、口を手で無理やり押さえ込まれている事が簡単に分かった。


「大人しくしろよ嬢ちゃん。見つかったらどう責任取ってくれんだ?あぁ?」

「せっかくの上玉だ、丁寧に扱え。その白い肌に少しでも傷があったらボスがキレるかもしれねぇしな」


 茂みからは男二人がやけに弾んだ声色で会話に没頭している。


「‥‥‥なぁ兄貴。俺一発ヤッていいか?」


 子分と思われる一人の下卑た男が地面に押さえた少女を見ながら言う。 

 その瞳には明らかな狂気の色が宿っており、興奮した証に彼の下半身は突起していた。


「だからボスが怒るかもしれねぇだろうが。あの人がキレたらヤバい事くらいお前も知ってるだろ。しかもあの人の一番の好みは処女だ。この女は知らんが雰囲気的に処女だろ」

「それは分かってやすが‥‥‥こんな女滅多に出会えないっすよ兄貴?」

「それはそうだが‥‥‥」

「それに兄貴。兄貴だって、その、勃起してんじゃねーですか」

「っ‥‥‥仕方ねーだろ。こんな女久しぶり見たんだから。アジトにいる性奴隷共は全部ブスばっかだから耐性がねーんだよ」

「それは違いねぇや。ボスが使うとあの女共すぐ壊れるからつまんねーですよね」


 男共は談笑する。 

 そこに悪意など皆無。

 ただひたすらに女を道具としか考えないその下卑た言動に、ユウは握り拳にギュッと力を込めた。


「兄貴。報告しなければバレやしないですって。ヤッちゃいましょうよ」

「だが‥‥‥」

「最近溜まってるんでしょ?」

「‥‥‥ちっ、どうなっても知らねーぞ俺は!」

「イヤッホッーイ!」

 

 半ばヤケクソになった兄貴と呼ばれる男は、興奮した様子で組伏せられている少女に迫った。

 少女は先程から滂沱となる涙を流し、その瞳には既に希望など映ってはいない。

 先程まで男共に必死に抵抗していた両腕は、まるで神経が通っていないかのようにだらんとぶら下がっている。


「ぃゃあ‥‥いゃぁ‥‥‥」


 少女は掠れた声で絞り出した。

 

「あ゛ぁ!それだよそれ!!!その顔!その表情!恐怖に満ち溢れた、全てに絶望したその顔!!!希望が一瞬にして絶望に変わる顔!!さっきまで気丈な女だった奴が男に無理やり犯される時の顔!!あぁ、最高だよオマエ‥‥‥!」


 狂人。

 ただそれだけ。

 少女はそんな男を前にしてもピクリとも反応を見せなかった。

 瞳は焦点を失い、色はもはや消えかかっている。


「初物は俺が貰うぜ!!」


 男共は無理やり少女の服を引きちぎる。

 陶磁器のような肌は、男の土汚れた手によって茶色く染まる。

 

 そして少女の胸を隠す布を男が剥がそうとしたそと時――――、


「‥‥‥」



――――――今だ。



 クシャ。


「‥‥‥」


 それは一閃。


 故に鋭い。


「ごめん、大丈夫‥‥‥じゃないか」


 ポトリ。


「その、タイミングが重要だったんだ」


 ユウは申し訳なさそうに横たわる少女に謝る。


 2事なんて、まるで眼中に無いかのように――。


 

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