奴隷堕ちしたけど昔救った少女に助けられた ~知らない間にみんな最強になったようです~

最東 シカル

プロローグ

「はむっ」

「‥‥‥!お、おい何してんだアホ!」


 俺は耳に甘噛みしてきたエリリアーナを強引に剥がす。


「なんてことすんだお前‥‥‥」


 変態チックな行為をしてきたエリリアーナに俺は若干引いた。いや若干じゃないわ。


「だってこうでもしないと、ユウ私に構ってくれないんだもん」


 エリリアーナは大きくてつぶらな瞳をウルウルとさせ、俺に懇願してくるような視線を向けてくる。


「はぁ‥‥‥。今のエリリアーナを民衆に見せたら一体どんな反応を見せるんだろうな」

「それは安心して!私はユウにしかこんな姿見せないから!それと私はエリーナ!ユウにはエリーナって言って欲しいってさっきも言ったじゃん!」


 マルタ・エリリアーナ。

 彼女の本名だ。

 エリリアーナは自分長ったらしい名前が気に食わないらしく、親しい仲の奴らには愛称としてエリーナと言わせてるらしい。

 俺は別にどっちでもいい。

 それをエリリアーナに言ったら「ユウは名前が短いから分かんないんだよ!」と言われた。

 まぁ確かに。俺2文字だしね。


「それで、仕事は終わったのか?」

「うん!ユウに会いたいから直ぐに終わらせてきたよ」

「‥‥そうか」 


 そうやって真正面から好意を伝えられると、どうにも恥ずかしいものがあるな。

 嬉しい嬉しく無いで言うと勿論嬉しいが、エリーナの愛情表現は些か世間一般に言われるものと少しかけ離れている気がする。

 例を挙げるとするならば寝込み襲って来るだとか。

 俺にとってのエリーナはあくまで妹みたいな存在だ。だから彼女に再会した際猛烈に告白された時、俺はエリーナの告白を断わった。

 手前心苦しいものはあったが、だからこそ尚更自分の気持ちを正直に云わなければいけないと思った。

 エリーナは酷く落ち込んだ様子を数瞬見せたが、直ぐに立ち直りこう言った。


『私の10年間の思いを舐めないでね!』


 10年。10年だ。

 エリーナはそんな長い間俺を思っていてくれた。その事実に俺の意思は少し揺れ動いてしまった。


「それでいつブランダ帝国滅ぼしに行く?私はいつでもいいけど」

「いやいや待て、何で急にそんな話に発展するんだ」


 先程のデレデレした表情から一転。

 エリーナは顔を憤怒の表情に染め、全身からドッと淡い光を放出させた。

 クソザコの俺ではその漏れ出したエリーナの力の一片でさえも脅威となり得る。

 

 取り敢えず何が言いたいのかというと、さっさとその光引っ込めてお姉さん。


「‥‥何で?ユウを除け者にした国なんて滅びるべきでしょう?」


 それはまるで当たり前であるかのように、エリーナは語る。

 ニッコリと笑うが、エリーナの目は決して笑ってはいない。

 

「取り敢えず落ちつけエリーナ。その事はまた今度話そう」

「ユウがそれでいいなら‥‥‥」

 

 エリーナは渋々といった様子で怒りを収めてくれた。

 しかしその表情は明らかに諦めていない。

 説得するには時間が掛かりそうだ。


「それに、゛聖女゛様であるエリーナが帝国滅ぼすとか言っちゃ不味いだろう」

「うん?私ユウの為なら聖女なんて今直ぐに辞めてもいいけど?」

「‥‥‥」

 

 それが冗談なんかじゃ無いと分かるから怖いんだよね。

 目がマジだもん。

 めっちゃ怖いもん。


「だって私、ユウにまた会った時に少しでも強くなって、もうユウに守られるだけの存在になりたく無かったから聖女になったんだよ?こうしてユウと再会した今となってはもう聖女なんてどうでもいいよ」

「‥‥‥」


 えぇ何それ‥‥。

 言っとくけど君強くなり過ぎだからね。

 再会した時”聖女”とか言われて耳疑ったわ。


「それに、同じパーティーの勇者がずっとしつこいの。あの人物凄い好色家だから、色んな女の子手玉に取ってるんだよね。正直気持ち悪い。パーティーだから仕方がないとは思うけど、近寄りたくもない」


 ‥‥‥勇者様に対してそんな無礼な事言えるのは、きっとエリーナくらいだろう。

 まぁ、聖女様であるエリーナにタメ口使ってる俺も相当なのかもしれんが。

 いや最初はちゃんと敬語使ってたよ?でもエリーナに半ば脅しのような形で説得されタメ口を使っている。

 

「まぁでも、パーティーのお陰でユウを助ける事が出来たのも事実だから、うーん」

 

 エリーナは思案顔で一人呟く。


「‥‥‥エリーナ。あの時は、本当にありがとう」


 そのタイミングで俺は、ブランダ帝国に拉致され、挙げ句の果てには5年間奴隷として扱われた俺を救ってくれたエリーナに今一度感謝を伝える。


「ちょ、ちょっと何いきなり!もう何回も聞いたから顔上げてユウ!私はユウが無事だったら何だっていいのよ‥‥‥」

「それでも、もしエリーナが来てくれて無かったら、俺はあのまま一生奴隷として死んでいったと思う。だから‥‥ありがとうエリーナ」


 これは、本当だ。

 エリーナがいてくれたから、俺は今ここに居る。

 このまま一生奴隷として生きていくと俺は覚悟していた。だけど、その覚悟をエリーナは良い意味でぶっ壊してくれた。

 思い出すだけでも辛いブランダ帝国での奴隷生活。




 俺はブランダ帝国に拉致される前の、故郷での日々を回顧した―――。




 

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