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離着陸時にパイプ椅子に座ったままでは危ないからと、ウェルロッド氏がランスに席を譲ってくれた。
「えっ、いいの? 俺なんかが座ってて」
「一度は見ておくといい。君がここにいることは、私から艦長に言っておこう」
彼はそう言うと、マーガレットに、武器庫に行くから何かあればすぐ呼ぶようにと告げて操舵室を出ていった。ランスはマーガレットにシートベルトをきっちり締めるようにと言われ、慣れない手付きで器具を
雲と同じ高さで青空を眺められるのは、いい気分だった。しかし、室内の空気は張り詰めていた。後ろの席からではニノとルガーの表情は見えないが、二人は短い言葉を交わしつつ手元の機器を操作している。
先ほどまでの操舵室メンバーの会話から、旧国際空港跡地への着陸に関しては、管制システムがないために非常に技量を要するが、現在の天候であれば無事に着陸できるはずということだった。
問題は離陸だ。なんと言っても滑走路が短い。天候や機体の具合によっては離陸可能なスピードに至らない可能性がある。また、整備士は船員であるアレン・モスバーグ一人しかいない。
そのためニノは、スケジュール通りに出発することも帝都に着くこともほぼ不可能だと、内線で艦長に話していた。さらに、燃料の残りも懸念材料だという。燃料を最も消費する離陸を補給なしに再度おこなうわけだから、帝都に辿りつく前に、どこかの飛行場に立ち寄らなければ燃料切れになってしまう。この近くで補給できる飛行場となれば、艦長と犬猿の仲のヴェッティン局長がいる北部国境支部局しかない。ニノは苦い声で艦長に、燃料補給の許可を取ってほしいと相談していた。
ランスはふと、この船で一番神経を使っているのはニノではないかと思った。いつも明るく、爽やかな笑顔を浮かべて気さくに話しかけてくれるけれど、それを保つために大きな代償を払っているはずだ。ずっと続けていればニノ自身の心が
改めて考え直すと、ゼイラギエンの船員はみな、自分には笑顔を向けてくれる。時には命を危険に
何でもいいからひとつ、与えられた仕事以外に自分にもできる仕事を見つけたい。知識も力もなくて役立たずだけれども、それは何もしなくていい理由にはならない。
ニノとルガーは暗号のように短い会話を続け、機器を操作している。
「ギアダウンします」
「よし」
ランスの隣に座っているウェルロッド夫人は、瞬きすらせずに二人の背中を見つめていた。時折モニターに目を落としつつ、黙って二人を見守っている。今日だけではなく、ランスが巡礼地に
ありがとう、だ。
目的地に着いたら言わないと。
そうだ、ここは――艦長が初めて会った日に右手を差し出しながら言ったように、『ホーム』なのだから。
毎日一緒に暮らしていると、ぶつかり合うこともあるし、逆に関係を壊さないように黙り込むこともある。言わなくても互いに分かっていると思って、口にしないこともある。けれども、本当は手抜きせずに言葉に乗せて伝えなくてはならないのだ。両親やジジイやアズサには言えなかったことを。
――だから、今言わないといけない。
「あ、あのさ」
ランスが意を決して口を開いたところで、無線の通信音が入った。
「あー、嫌な予感がする」
ランスにはよく聞こえなかったのだが、通信を聞いたニノは、素っ頓狂な声で叫んだ。
「何ですって? 着陸をキャンセルしろ? もう降下準備に入っているんですよ!」
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