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「了解」

 ウェルロッド氏は、そう呟くと無線で発砲の合図を告げた。すぐさま散弾が放たれ、モニターに映ったミサイルは呆気なく大破し空中に散らばる。

 ルガーが口笛を吹いて称賛するが、ウェルロッド氏は苦い顔だ。

「まったく、毎度毎度、実戦訓練のつもりか? あちらは管轄内に破片が落ちることを一体どう考えておるのか? 今回は森林だったようだが」

「全くですわ。もし人的被害が出たら、クビどころでは済みません。恐ろしく脳足りんです」

 夫婦が常識を取り戻したので、ニノは、ほっと胸を撫で下ろした。

「さっさと逃げましょう」

 しかし、ルガーは物足りなかったのか、余計なことを言った。

「アイアン・レディ、どうせなら煽るだけ煽ってトンズラしましょう!」

 鉄の女は凶悪な笑みを浮かべた。

「ええ、もちろんそのつもりですわ! 少しは懲らしめてやらねば!」

「ちょっと!?」

「ですが、おかみに免じて、今日のところは許して差し上げます。おさらばでございますわ!」

 ゼイラギエンは相手艦を威嚇するかのように上空に舞い上がると、派手にフレアを撒き散らしつつ逃げ去った。モニターに映るフレアの光は、まるで花火のような美しさだ。

 しかし、繰り返すが、やっていることは子どもじみた威嚇である。ニノは頭を抱えた。

「今日だけで寿命が三年ぐらい縮んだ気がする!」

「ニノ、あなた、このくらいでイチイチ騒いでいたら真っ先に死んでしまいますわよ。旅客機のパイロットじゃないんですから」

「分かってます!」

「こりゃ死亡フラグっすね!」

「あのな! どうせ死んでも悲しんでくれる彼女もいないから!」

「あら、わかりませんわよ? 隠れファンがいるかもしれませんわよ?」

「慰めは結構です……あー! このあと機嫌最悪の艦長の相手をするのは僕なんですよ!」

 さっき艦長室に相手艦から通信が入っていたようだから、また艦長同士でくだらない言い合いをしていたに違いない。ルガーがニノの肩に手を置いた。

「ご愁傷さまですセンパイ」

「だったら君が代わりにやってくれよ!」

「いや、遠慮しときます。そこはセンパイの仕事ですから、ね?」

 ニノは肩を落としつつ、席を立った夫人に代わって元の操舵席に着いた。内線の受話器を取り、艦長室に報告を入れる。

 艦長からは、全く感情の籠もっていない冷たい声で、『ありがとう、ご苦労さま』とだけ返答があった。

「ぬあー! クソ!」

「どうどう。キャラ崩壊してますよセンパイ」

「そもそもはアイツ、ゴホン、あの人のせいなんですよ!」

 短い頭髪をグシャグシャにしつつ、ニノは叫んだ。ウェルロッド氏がコーヒーを手渡してくれたので、一気に飲み干す。

「落ち着け。ま、たまには刺激がないとな。我々の出番はなかなか無いのだ。紛争でも起きない限り、もしくは鮫でも来ない限りは」

「ああ、あまり考えたくありませんね……」

 ウェルロッド夫人は、どこからともなくクッキーを取り出し、三人に配ってくれた。

「ニノさん、次はあなたが対処できるようになってくださいね。私はもう引退も間近ですから」

「そんなあ。まだマギーさんからは学びたいことがたくさんあります」

「俺もですよ!」

 ウェルロッド夫人は優雅に微笑んだ。

「ふふ、ありがとうございます。でも、おふたりとも、十分な技量はお持ちです。この先は、ご自分たちで手探りしつつ技術を磨いていただきたいわ」




***


WCC7.(7)(8)は、なろう作家のGOM様(https://mypage.syosetu.com/1569477/)の懇切丁寧なご指導のもと執筆いたしました。ありがとうございました!

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