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 二人はブレンに、クラスメイトから聞いた仲直りの像の噂を説明した。

「なくなってしまうと困る子がきっといると思うんです」

 レベッカがそう言うと、ブレンは跳び箱の上に腰掛けつつ、鼻を鳴らした。

「ンなもんに頼らねえと謝れねえような相手は、もともとダチじゃねえよ」

「でも、なかなか勇気が出せない子にとっては、そういうキッカケは必要です」

「そりゃそうかもしんねーけどな、俺らにはどうしようもねえ。こっちは仕事だ」

 ランスはため息をついた。

「大人の事情ってやつか。嫌だなあ、そっち側に行くの」

「さっさと大人になっちまえ、クソガキども。いいか、放課後五時、中庭周辺の人払いができたら俺がスターティングピストルで合図する。そしたら像を壊せ。で、一旦職員室に戻れ」

「わかりました。でも、追っ手が学校に入ってきたら?」

「その可能性は低いと見てる。ここは警備がしっかりしてるからな。敷地を出たあとが問題だ。猟奇的なママのお迎えが待ってるかもな」

 ブレンは口寂しいのか、ポケットから棒付きキャンディを取り出してくわえた。それから、再びポケットをまさぐると、二人にもおひねりのキャンディを手渡した。

「ありがとうございます。あの、何であいつらはいつも少数なんですか? 本気じゃないですよね」

 ブレンはランスの目を見てから、くすんだペールグリーンの用具室の壁を睨んだ。

「こっちの戦力をじわじわ削ることが目的だ。お前を狙っちゃいるが、巡礼は俺らと一緒にさせたほうが効率がいいって分かってるんだろう」

「それで白桜刀に力を蓄えさせたところを横取りするってこと? じゃあ、何で機械人形や機械犬は俺を狙うんだ」

「さあな、今までは艦長狙いだったがな。あっちも技術はまだまだってことだろ」

「艦長はなんで追っかけられるんだ?」

「それは今度本人から説明される予定だ」

「そっか。つーか、戦力を削るって、今までにもやっぱり……ブレンさんはサメに会ったことあんの?」

「ああ、あるな」

 ブレンは、なぜかレベッカの顔を見て口を噤んだ。レベッカは首を横に振る。

「いいんです、ブレンさん。いずれ分かることです」

「どうしたんだ?」

「レベッカの親父さんは、三年前まで艦長の護衛だった」

「えっ」

「ジェフは俺とは毛色が違う、生粋きっすいのボディガードってやつだった。その仕事をまっとうした。ジェフの後釜がアーノルドだ」

「アーノルドと同じ仕事をしてたってことか」

「ああ、人間の経験に基づく勘ってやつは恐ろしいと思ったね。あの人と裏稼業の師匠だけは絶対に敵に回したくねえ」

 それまでうつむいていたレベッカは、毅然とした表情で顔を上げた。その黒目がちな瞳には強い光が宿っていた。

「私は父さんを誇りに思ってるわ。でも、仕事のことはほとんど教えてくれなかった。だから、父さんが何をしていたのか、何で死ななきゃいけなかったのか、知りたくてここに来たの。コネで無理を言ってこの仕事をもらったのよ」

 ブレンはレベッカを数秒間見つめてから口を開いた。

艦長アイツはそんな適当な理由で船員を選ばねえ。自分は厄病神だと思い込んでやがるから、すぐ死にそうなヤツは絶対に追い返す」

「厄病神?」

「今度、機会があったら俺があいつに貸してやってる旧型ライフルの銃床ストックをよーく見てみろ」

 レベッカは眉根を寄せた。

「そういえば、ブレンさんのライフルには、たくさん傷がついてますよね。何かカウントしてるんですか?」

「あれは俺の勲章だ。でもあいつのは違う。あいつが死んだ魚みてえな目ぇしてやがったから、俺がつけろって言った。そんで絶対に忘れんなって言った。本人には何も聞くなよ」

「……父さんもカウントされてるんですね」

「ああ、そうだ」

「鮫にやられて失った人の数ってことか」

 ようやく合点がいった。だから艦長は、あれほどにも憎悪に満ちた目をしながら鮫のことを語ったのだ。

「ブレンさんでも鮫を倒せないのか?」

 ブレンはランスの目をちらりと見てから、苦々しげに唸った。

「んー、いや……正確に言うと、れねえ」

「なんでですか? 正当防衛以外は殺人罪になるから?」

「殺っても意味がねえんだ」

「どういう……」

「いずれ艦長から聞くと思うが、簡単に言えばあれは不死身みたいなもんなんだ」

 ランスは首を傾げた。そういえば艦長は、殺してやるのが慈悲だと言っていた。魔法か何かで死ねない体になっているということだろうか?

「ゾンビ?」

「違う。でも、ちょっと近い。殺したら殺したほうが乗っ取られるんだよ。それはマズイだろ」

「えっ……それは……そんなことがあるんですか? じゃあ、どうやって倒すんですか」

「牢屋に閉じ込め続ける以外に、今んとこ策がねえ。それがまた簡単じゃねえんだ。艦長と俺が帝国軍ここに来てから、もう五年以上もこの状態だ」

 手でもてあそんでいた棒付きキャンディの包装紙をグシャグシャに握りしめながら、ブレンはどこか疲れをにじませた声で、そう吐き出した。

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