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私立学園の中庭に立っている巡礼像らしき石像は、どうやら生徒たちの間では、『仲直りの像』として知られているらしい。
昼食の時間、ランスとレベッカに一緒に食べないかと誘ってくれたクラスメイトの一人が、そんなことを教えてくれた。
「喧嘩したあと、相手をあの石像の前に呼び出して正直に謝ったら、一生友達でいられるんだってさ」
ランスは頭の後ろで手を組みつつ、椅子を前後に揺らした。
「ふーん。俺、ケンカとかしねーからわかんねえ」
「そうなの? でも気まずくなることはあるだろ?」
「まあ、そりゃあるけど」
そんなことを話しているうちに、クラスメイトの男子二人が何やら言い合いを始め、あっという間に殴り合いに発展した。
「てめえ……口ん中切れたぞ!」
「先に殴ったのはそっちだろ」
「お前が余計なことを言うからだ」
「は? 言ってねえ」
「言った」
「言ってない!」
「言っただろ」
「クソが! 死ね!」
「てめえ……今なんつった!?」
クラスメイトたちは遠巻きから、いつものことだと言わんばかりの呆れた顔で見ているだけで、誰も割って入って止めようとしない。
「あの二人、毎日毎日飽きないんだよね」
「仲悪いのか?」
「喧嘩するほど仲がいいってやつかな。どっちもガキなんだ。思ったことをそのまま言うから」
「それって悪いことなのかな。俺、仲直りしなきゃいけないほどケンカしたのって、ほんとにチビの頃だけだ。でも思ってること言えるのって、相手を信頼してて大事だと思ってるからじゃね?」
ランスと話していたクラスメイトは肩をすくめた。
「あの二人の場合、正直なのはいいけど、言葉はちゃんと選ぶべきだと思うな」
「たしかに。死ねはさすがにダメだ」
喧嘩していた二人は、さんざん
昼食後、十二時半から午後の授業が始まる午後一時までの間、ランスとレベッカはブレンと予定の確認をすることになっていた。二人は体育館の狭い用具室で彼が来るのを待った。
話題がなくなったあと、レベッカは、さっきランスがクラスの子と話してたことだけど、と切り出した。
「ランスがケンカしないなんて意外ね」
「ちっちゃい頃にいっぺん酷いケンカをして、絶交してから怖くなったんだ」
「そっか。ホントに思ってることを言うのって勇気がいるものね。上手な言い方でホントのことを言えるようになるまで、すごく時間がかかるもの」
「ホントその通りだよ、しっかし疲れた……」
「さすがに慣れない環境にいると疲れるわね」
そう言ってレベッカは伸びをした。低い天井近くにある格子付きの窓から差し込む光が、彼女の蜂蜜色の髪を淡く彩る。銃を握っている時の彼女の顔を知らなければ、男子の半数以上は間違いなく彼女に一目惚れするだろう。制服のスカートの裾がほんの少し上に引っ張られて、白い太腿が覗いている。ランスは
「でも、ランスはクラスに溶け込んでたじゃない」
「俺、ホントは、ああやってると疲れるんだ」
「そうなの? それも意外ね」
「合わせなきゃいけねーし、ウソもつかなきゃじゃん」
「まあね」
「人とホントに仲良くなるまでは時間がかかるほうなんだ」
「でも、うちの船にも、すぐ馴染んだじゃない」
「職場だと喋る必要があるじゃん。指示してもらったり、質問したり。でも学校はそうじゃないだろ。最初はいいけど、だんだん話すネタに困ってくるんだ」
「そう……私はあまり学校に行ってなかったから、よくわかんない」
「そうなの? ごめん」
「ううん、気を遣わせること言って、私こそごめん」
そこで、鉄製の引き戸の扉がガラガラと音を立てながら開く。
「悪い、遅くなった」
ジャージに着替えたブレンは、体格の良さもあって妙に風格があり、本物の先生のように見えた。グラウンドで腕を組んで仁王立ちしつつ、生徒たちに
「いえ、さっき来たところです」
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