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 レベッカはランスより一足早く渡された制服を早速試着したらしく、食堂で昼食をとっていたランスに声を掛けた。

「ど、どうかな……なんか変なところ、ない?」

 ランスは口に運びかけていたフライドチキンを空中で静止させた。ランスの隣で苦戦しながらフライドチキンを食べていたモニカは、ずり落ちてきた眼鏡を上げて微笑んだ。

「大丈夫ですよ。似合ってます」

 カウンターで暇そうにしていたメイは、「いよっ美少女高校生! 学園のマドンナだね!」と大袈裟に褒めた。

 ランスは艦長のチョイスが間違っていなかったことを確信した。いつもちゃんと仕事をしているのか怪しい彼だが、今回だけはグッジョブだ。

「ちょっとみんなに見てもらおうぜ」

 そう言うとランスはランチの残りを一気に平らげて立ち上がった。

「えっ、なんで?」

「変なとこがないか意見聞けるじゃん」

「ああ、そうね」

 ランスの期待通り、男性陣は面白い反応をしてくれた。

 ・棒付きキャンディの棒を口からポロリと落とす(ブレン/スナイパー)

 ・握手を求めてくる(モスバーグ/修理工)

 ・「いい……」(ニノとルガー/操縦士)

 ・張り子の虎化(ウェルロッドの旦那の方/砲撃手)

 ・「目が……目が……」(艦長)

 しかしアーノルドだけは「うまく溶け込めるだろう、問題ない」と答えてくれた。

 レベッカは食堂に戻ると、ため息をついた。

「ねえ、隊長以外みんなちょっと気持ち悪いんだけど」

「いや、あれは正常な反応だと思う」

「結局この格好が変じゃないのか、分からなかったじゃない! なんか居心地が悪いし、さっさと明日になってほしい」


 ブレンは学園に向かう途中ずっと不機嫌だった。それはアストラが立てたプランのせいだ。

 彼は学園の卒業生であり教育実習生ということになっているが、それにしては年齢が十ほど上なので、せめて髭を剃るようにと指示されていた。それだけでもブレンは嫌な顔をしたが、さらに石像を消す犯人は、母校に恨みがあるブレンという設定だった。地元の市警軍に協力を仰いでいるので、捕まった後は問題なく釈放されることになっているが、当然いい気分がするものではないだろう。

「もっとマシな筋書きが書けねえのか、あいつは」

 ブレンはスーツのポケットに手を突っ込んで歩きつつボヤいた。武器は長方形のバイオリンケースに入れて背負っているのだが、どう見ても彼は楽器を繊細に奏でるタイプではない。レベッカは、まあまあとなだめた。

「ブレンさんのスーツ姿は素敵です。銃を握らせたら、かっこよすぎて失神しそう」

 ブレンは一瞬だけ歩みを止め、頭を掻いた。

「ちっ、おだて上手な奴だ」

 レベッカはランスにウインクした。

「ふふふ、ちょろいちょろい」

「俺、レベッカの将来がちょっと心配だ」

「ステンさんの真似をしただけじゃない」

「悪影響受けてるだろ……」

 レベッカはスカートの下に隠した拳銃の上をポンポンと叩いた。

「こういうの、一回やってみたかったのよね。潜入作戦」

「そうか? パンチラしないように気をつけろよ」

 レベッカは勢いよく首を回してランスを睨んだ。

「見た瞬間、あなたの脳天には風穴が空いているわ」

「別に見たくねーよ。見せんなよ!」

 シロタエの笑い声が急に脳内に響き、ランスは呻いた。

「やっぱ、喋る前に、もしもしって言え!」

 シロタエは返事せずに笑い続けた。

「一人コントをしてたら、電波系扱いされるわよ」

「なんだよ電波って」

「自分で調べて」

 肩をすくめると、レベッカは遠のいていくブレンの背中を追って走り出した。

 ランスは、背負っている白桜刀がきちんと布にくるまれていることを確認した。学園にいる間は、ブレンが教職員用の鍵付きロッカーに隠してくれるらしいが、少々不安だ。

「なあ、なんかあったら俺を呼べよ」

『ええ。でも半径十メートルくらいしか聞こえないはずよ。珍しいわね、あなたが私のことを心配するなんて』

 シロタエはいつもどおりの淡々とした声音で、少しだけからかうような調子で答える。その口調は、どこかアズサと似ていて、毎度ランスの胸をチクリと刺すのだった。

「別に。俺はお前を心配してるわけじゃねえ」

『ふうん。ありがとう』

「ランス! 置いてくわよ」

 レベッカに呼ばれ、ランスは慌てて走り出した。背負った刀の重みのぶん、心にのしかかる重みも増したような気がする。たぶんそれは、守るべき人が増えたときと似ているのではないかと思う。確かそんなことを、村を綺麗にしてくれた日、泣きじゃくるランスの背を叩きながら、艦長が口走っていたような気がする。

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