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そもそも、なぜランスとレベッカが一日交換学生として私立学園で授業を受けているかというと、話は一日前に遡る。
「次の目的地なんだが……」
ランスを艦長室に呼び出した艦長は、いつも通り執務机に肘をついて指を組みながら、真面目な顔で言った。
「君、コスプレに興味は?」
「……はい?」
ランスは首を四十五度に傾けた。艦長は部屋の隅に立っていたアーノルドにちらりと視線を向けた。アーノルドは足元にある紙袋から、ビニール袋に入った何かを取り出した。それは、モスグリーンのチェック柄の学生服らしき衣装だった。
「制服コスプレって良くないかい? 君の場合、コスプレっていうか、本物になれるけど」
「あの……話が見えないんですが」
「鈍いぞランス。次の目的地は学校だ。学校の敷地内にある石像がターゲットだよ」
艦長はプランが書かれた紙をランスに手渡した。
「でも、さすがに学校だと、いつも通りにやったら不法侵入に器物破損で捕まりますよ!」
アーノルドは問答無用でランスに制服を押し付けた。
「その辺の処理はこちらに任せろ。お前はハミルトンとブレンと共にプランに従うだけでいい」
「ホントに大丈夫かなあ!?」
不安しかないランスに、艦長は相変わらずの呑気な声で返答する。
「我らがブレーン、アストラ女史が完璧なシナリオを作ってくれている。心配することは何もない」
「でも、追っ手が来たら学校が危ないんじゃないですか」
艦長は椅子をくるりと九十度回して壁のほうを向くと、「鮫は関係者以外は手にかけない」と答えた。
「そんなの、わからないじゃないですか。巻き込まれるかもしれませんよ」
「そう心配するな。本気のブレン先生はめちゃくちゃ強いぞ」
「そりゃ知ってますけど……」
艦長は悪戯っぽい目でランスを見上げた。
「君はベッキーと一緒に楽しく学園体験をしてくるといい」
「体験って」
「ちなみに女子の制服はなかなかいいぞ? 僕のチョイスで靴下はニーハイにしておいたから」
ランスは、胡散臭いことこの上ないという表情を作り、ポーカーフェイスの艦長を見つめたが、効果は全くなかった。
「あ、君、もしかしてタイツ派だった? それならベッキーも持ってると思うけど」
「俺が気になってるのはそういう問題じゃねー……じゃないんです! ブレンさんはどうするのかってことですよ!」
「さっき言ったろ、先生だよ。さすがに髭面の生徒はないからな。何の先生かなあ? バカでもできそうなやつ」
アーノルドが、「プランには体育教師と書いてある」と答えた。
「あの、体育の先生はバカじゃないですし、ブレンさんもバカじゃないと思いますけど」
「あいつはバカでいいやつだよ。君はブレンのことをまだまだ知らないんだ」
艦長は得意気に言うと、「じゃ、そういうことでよろしくね」とランスを艦長室から追い出した。
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