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ランスは食堂でレベッカと遅めの朝食のシリアルを食べていたが、放送を耳にして立ち上がるレベッカと、パイロットのニノに続いて席を立った。
「ランス、僕らはここを動かないほうがいい。とりあえず目撃は一機だけらしいから」
しかし突然、天井の換気口の蓋が、ちょうどランスとレベッカの間に落ちてきた。
「な……」
レベッカの反応は素早かった。
「離れて!」
床に降り立った物は犬のように見えた。レベッカはランスに向かってくるそれを、小型の機関銃で横から狙撃し、無線で連絡を入れる。
「こちら食堂レベッカ、換気口より犬型一機。狙撃しました」
『了解。引き続き警戒を。モニカが回収に行きます』
ランスは丸腰でそれを見ているだけだった。銃は扱えないし、白桜刀は、普段は艦長室に保管されている。持っているのは護身用の扱い慣れない大型ナイフだけだ。
扉を三回ノックする音がして開き、作業着を着た小柄な若い金髪の女性が室内に入り込んでくる。
「ご無事で何よりです! これはD89型!」
「モニカ、気をつけてくれ。まだ出るかもしれない。数が少ないから偵察かもしれないが」
ニノがライフルの撃鉄をあげたまま天井の穴を見上げた。
「偵察機はまだ見つかっていません」
モニカはずり落ちてきた眼鏡を上げながら、破砕された機械を検死官のように観察した。彼女は機械全般を担当しており、船の簡単な修理から機械人形の調査、アーノルドの調整までこなしている。
「船内で出るのは久しぶりですね。ランスさん、突然びっくりされましたよね。いま艦内を巡回してもらっているので、すぐに落ち着くはずです。もう一人援護を呼びましたから、安心してくださいね」
「あら、誰が?」
「ブレンさんです」
「それなら安心だ。僕はできれば操舵室に戻りたい。モニカ、ブレンが来たら一緒に行ってくれるか」
ニノの言葉にモニカは頷く。ランスはこれまでに何度か犬型を見ているが、蜘蛛のように飛び跳ねる不気味な動きが好きじゃないと思っていた。
「あれ、人を殺せるのか」
「自動小銃を搭載しているわ。至近距離は危険よ」
レベッカは周囲を警戒したまま言う。
「ランスと隊長を乗せた時に入り込んだなら、動き出すのが遅すぎるわ」
「次の目的地まで乗っていくつもりだったのでしょうか」
「さあ。なんで今出てきたんだろうな」
ランスはニノに、その目的地はどこなのかと尋ねた。
「今のところ最終目的地は帝都だけど……さっきアストラさんと連絡を取っていたようだから、変更の可能性もある」
再び扉が三回ノックされる。現れたブレンは、普段担いでいる大型のライフルではなく、取り回しがききそうな小型ライフルを抱えていた。
「全く、俺の仕事はこんな狭い場所でドンパチすることじゃねえっつうの。モニカ、ニノと艦内放送設備を見に行ってくれ。モスバーグが見てるが、さっきから電源が入らねえ。壊されたかもしれん」
二人は頷く。
「終わってからニノは操舵室に行け。今は副操縦士で十分だ」
「了解」
ブレンはランスに視線を向けた。
「狙いはお前らしい」
「俺?」
ブレンは答えず、腰から抜いた拳銃を天井に向け、引き金を引いた。空いた穴から三体の犬型が落ちてくる。素早く構えるレベッカを制し、彼は全てを一撃で仕留めた。
「さすがブレンさん!」
「こちら食堂。D89三体を破壊。天井裏に潜んでいた」
「俺が狙われる理由って、白桜刀を使えるから?」
「だろうな。放送設備を壊せるのは、高さから言って人間か機械人形のはずだが、それはまだ見つかってねえ」
『こちらモニカ、艦内放送設備室。復旧に少し時間がかかります。見慣れないデータチップを発見したので、ヘッケルさんに解析依頼しました。結果は艦長にお伝えします』
ボリューム最大のブレンの無線機から音声が聞こえるや否や、扉が勢いよく開いた。ノックせずに入ってくるということは、味方ではない。
「えっ……アズサ?」
ランスは思わず叫んだ。そんなはずはない。だが、衣装も出で立ちも、一瞬彼女かと見間違うような――
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