WCC2. スナイパーとボディガードのミス

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『報告します。先日捕獲した犬型ロボットのデータから、ここ一ヶ月間でホシが拠点にしていると思われる建物の位置が判明したと連絡がありました。のちほど詳細をお送りします。直接帝都に戻るプランから変更なさいますか?』

 艦長室の壁に掛けられたモニターには、時折縞模様が混じりつつ、南部国境支部局を取り仕切る艦長秘書が映し出されている。目に少しかかるダークグレーの髪、切れ長の青い瞳に泣き黒子、形の良い唇、鼻筋の整った顔立ちは、街ですれ違う人が女優かモデルかと思わず振り返るほどの美しさだ。

 だが艦長にとっては、その顔も凛とした冷静な声も慣れ親しんだものだ。彼は特段緊張した風もなく、執務机の上で指を組みながら、帝都に戻るのを一日遅らせて途中で寄ることは可能かと聞いた。

『仮プランでは、軍会議に半刻ほど遅刻してもよければ可能です』

「あー……また怒られるやつか。仕方ない、いいよ、それで行こう。悪いけど途中まで代理で出てくれるかい? もちろんいつも通り交通費は出すから」

『承知しました。後ほど日程を送付します。それでは』

「あっ、アストラ」

『何ですか?』

 波模様の乱れが入った映像でも、彼女が怪訝そうな顔で眉を上げたのが見える。

「あのさ、西部鉄道の食堂車が王国の牢屋と同じくらい不味いって聞いたんだけど、そんなにマズイのかな」

『はい? なにかの暗号ですか?』

「いや、違うよ」

『正直言って、二度と食べたくありません。で、この話、何の関係が?』

「聞いてみただけだよ。今度シェイマスに会ったら、うちのシェフの知人を紹介させるって言っといてくれ」

『艦長』

「ん?」

『通信費の無駄です。切りますよ』

 モニターがプツリと切れる。隣で聞いていた護衛かつスナイパーの男、ブレンがしのび笑いする。

「何であいつにあんなこと聞いたんだ」

「だってさ、ステンもランスも真剣な顔で言うんだよ。国営鉄道のご飯がゲキマズじゃあ、帝国の沽券に関わるだろ」

「お前が心配することじゃねえよ」

「どうかな? 将来的に外国の賓客が乗るかもしれないよ。まあ、そこだけ出来合いの高級食を提供するかもしれないけどさ」

「艦長、アストラの言う通りだ。今ので通信費が二百ルブ追加でかかった」

 部屋の隅に立っているアーノルドが無機質な声で言う。

「おいおい、煙草一箱買えちゃいますよ艦長」

 艦長は大袈裟にため息をついた。

「ブレン、君のために彼女がモニターに映る時間を伸ばしてあげたんだが? 少しは感謝してほしいな」

 ブレンは咥えていたキャンディの棒を落とした。

「な、何言ってんだお前」

「アーノルド、プランが届き次第全体に連絡を回してくれ。ブレン、君はベッキーと組んで次の巡礼に行ってもらう。彼女に会えなくて寂しい気持ちはよくわかるが、外の冷気で頭を冷やしてきたまえ。……いや、その前に準備運動はどうかな?」

 アーノルドとブレンの手元から、ほぼ同時に火が吹いた。扉から入り込んできた人影が倒れ込む。赤い絨毯に油が広がった。

「あーあ、絨毯が台無しだ。子ども型ロボットか。姑息だな」

「経費削減じゃねえか?」

「いや、小さいほうが有利なこともある。モニカに処理させる」

 アーノルドは、すぐさま無線機で連絡を入れた。艦長は壁に手を伸ばして艦内放送のスイッチを入れた。

「こちら艦長室。人型ロボットが一体入り込みました。他にも潜伏している可能性があるので、二人以上での行動を義務付けます」

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