第三章:殺意の侵食

 特に不快な思いをしたわけでもないのに対して、こうも申し訳なさそうに謝罪されるとどうにも対応に困ってしまう。


「タクシーくらい自分で呼べます。だいたい、家の前に待ち伏せとかされてたら意味ないじゃないですか」


「待ち伏せって、そこまで神経質になる必要はないだろう?」


 納得いかないとばかりに食って掛かる神川へ、七見は呆れたように息をつく。


 しかしその仕種が気に障ったのか、神川はさらに棘のある声を出してきた。


「そこまでって、人が殺されてるんですよ? 部屋に戻って中を確認して玄関に鍵かけるまでは安心できない。少なくとも、わたしはそれくらいしないと怖い」


 まるで自分自身を抱きしめるようにしながら、神川は言葉を吐き出す。


 悪寒に耐えるように見えるその姿は、炎天下の中ではすごく不釣り合いだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る