第三章:殺意の侵食

「わかりました」


 それを受け取ってポケットの中へしまう。


「残念ながら、僕は名刺を持っていないので」


「別に良いですよ。あ、でも差し支えなければ自宅か職場の住所を教えていただけますか」


「はい」


 告げた事務所の住所を手帳に書き込むのを確認してから、絵夢は入口へと歩く。


「それじゃあ、失礼します」


 入ってきたときと同じように、一礼して部屋を出た。


 もう少し時間を取られると予想していたが、あまり自分は重要視されていないのだろうか。


 絵夢と嶺垣には常にアリバイがあるし、警察側もそのあたりは考慮してくれているのかもしれない。


(もしくは、これから本格的に絡んでくるか……かな)


 霧洲 武。あの刑事とは、またすぐに会うことになりそうだ。


 通路で待機していた警官に連れられて身体と荷物の検査をする部屋へと向かいながら、絵夢は漠然とそんな予感を感じた。

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