第三章:殺意の侵食

「それが本当なら、どうにも奇妙なことになってきますね」


 気難しそうに眉根を寄せながら、霧洲は手にしたハンカチに視線を落とす。


「一度も部屋へ近寄っていない人物のハンカチが、何故あんな場所に落ちていたのか」


「……」


 霧洲が何を伝えようとしているのか、ここで日向は察したのだろう。


 困ったように霧洲を見つめていただけのその瞳が、動揺するかのように見開かれた。


「パソコンの下にこのハンカチが落ちていたということは、テーブルからパソコンが落下するより前に、その場に残されていたということになる」


 言って、霧洲は一歩だけ日向へと近づいた。


「日向さん、本当にあの控え室へ入ってはいないのですか?」


「本当です、今日は一度も入っていません」


「では、どうしてあなたのハンカチが現場に落ちていたのでしょうか?」

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