第三章:殺意の侵食

「ちょっと、バッグの中を確認していただけますか。ひょっとしたら別の人の物という可能性もありますので」


「はぁ」


 どうしてそんなことをさせるのだろうとでも問いたげな表情で、日向は自分のバッグを開け中をあさった。


「……あれぇ? やっぱりないですねぇ。おかしいなぁ、ちゃんとここにしまっておいたのに……」


 バッグの中から手を出して、側にかけてある私服のポケットも調べる。


「ありませんか?」


 困り果てた様子の日向へ霧洲が声をかけると、彼女は振り向きながら頷いた。


「刑事さん、いったいそのハンカチがどうしたと言うんですか? 彼女の持ち物であると何か問題でもあると?」


 さんざん待たされた挙句、意味のわからないやりとりを始められて気が立ったのか、七見が苛立たしげに声をあげた。


 しかし、そんな七見の態度に動じる様子もなく霧洲は静かに頷いてみせる。


「おおありですよ。七見さん、的場さんが殺されていた部屋の状況を覚えていますか?」


「……?」


 突然何の話を始めるのか。相手の意図が読めずに、七見は目を細める。


「部屋の状況、と言いますと?」


「床に、普段から的場さんが使用していたノートパソコンが落ちていたことに気づきましたか?」


「ああ……、そういえばありましたね。ちらっとだけ見ましたけど」


 黒いノートパソコンのことか。絵夢もそれははっきり見ている。

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