第三章:殺意の侵食

「いい加減、足が痛くなってきた」


「普段からまともに運動してないからそうなるんですよ。俗に言う自業自得ってやつです」


「あ、そう」


 助手の嫌味を適当に受け流し、絵夢は身体をほぐすために首を回す。


「ところで、嶺垣くんはなんともないの?」


「え? あたしは座ってますから別になんともないですよ」


「ああ、いや、そういうことじゃなくて、気分的に堪えてないないかなと思って」


「気分的に?」


 どうやらこちらの質問の意図がくみ取れなかったらしい。


「だからさ、嶺垣くんも光野さんの遺体を見ちゃってたんじゃないか少し気になってたんだよ。最前列にいたわけだし、見えてない方がおかしいし」


 周囲を意識し、声のトーンを落とす。


 あのとき、絵夢の後を追ってステージへ上がろうとしていた嶺垣を牽制してはいたが、よくよく考えれば彼女は自分のすぐ隣に座っていたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る