第二章:殺意の蹂躙

 視線を前に戻し、もう一度光野を見つめる。


 間違いなく、即死だろう。


 手足には、手錠がかけられたままで外されてはいない。猿ぐつわもそのままだ。


 巨大な針の一本は、彼女の右目を無惨にえぐり、後頭部から突き出している。


(事故……なのかこれは?)


 彼女が自信を持っていた、現時点では最高傑作のマジック。


 それを、ミスしたというのだろうか。


(確かに可能性はある……でも……)


 我に返ったアシスタントが救急車を手配するよう指示を飛ばしたのが聞こえた。


 混乱に支配された観客席の悲鳴は、さらに大きくなっていく。


 突然起きた惨劇。


 ステージ上をたゆたう冷たい煙を纏い、哀れな遺体と化した光野を凝視しながら絵夢は、状況の掴めないこの事態に嫌な胸騒ぎが込み上げてくるのを感じていた。

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