第一章:殺意の萌芽
「冗談だよ。そんな本気にされたらこっちが困るって」
まるで、未知の化け物でも見るかのように表情を強張らせる羽舞へひらひらと手を振って、天寺はくるりと踵を返し窓の方へと向かいだす。
「どこから迷い込んだか知らないけど、可哀想だから逃がしてあげよっか」
言いながら窓を開け外の様子を確認すると、
「元気でね」
ぽいっと正面に生えているくぬぎの木へとカブトムシを放り投げた。
(放り投げた、というより今のは投げ捨てたって表現の方がしっくりくるかな)
かなり勢いよく木の葉の中に突っ込んで行った小さな黒い影を見送りながら、絵夢は胸中で呟いた。
「それにしても、ホントに珍しいね。いくら自然公園があるって言っても、この辺りでカブトムシがいるなんて話は聞いたことないわ」
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