プロローグ

        【2】


 良いことがあった日は、自然と足取りが軽くなる。


 普段なら騒がしいだけの蝉の鳴き声すらも、今日はまったく気にならない。


 空は快晴。街路樹が並ぶ道には、木漏れ日が斑模様を作っていた。


 軽快な足取りで小道へと入ると、嶺垣ねがき紗耶香さやかは手に持ったチケットを見つめ表情を緩めた。


 そして、すぐ近くにある五階建てのビルへ向かうと、一気に階段を駆け上がる。


 エレベーターもあるのだが、嶺垣はそれを滅多に使用しない。


 三階まで上がり、通い慣れたドアを勢いよく開けた。


「おはよーございます!」


 室内には嗅ぎ慣れたコーヒーの匂いが漂っていた。


 中へ入るなり、つかつかと奥に備え付けられたデスクへと向かう。

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