(6)

 その後、本物のブレンと船員の男性が現れ、ランスは無事に保護された。残されたアンドロイドの残骸は、モニカがヘッケルという研究者ともに調査に使うと言って回収し、アーノルドも修理が必要だということで、モニカが応急処置だけ済ませて連れ帰った。銃撃を聞きつけた近隣の人が通報したため、自衛軍やら王国の国境警備までがやってきて、ルピナスは対応に追われていた。もっとも店主はフランツだということにされたため、とんだとばっちりを食らったフランツは、取り繕うのが精一杯だった。

 レベッカは残って、壊れた本棚を直したり、穴の空いた壁紙の上から壁紙を貼り直したり、掃除をするのを手伝ってくれ、一緒に明け方を迎えた。ルピナスは彼女に感謝し、ココアとお菓子を出した。

「結局、強盗事件ということにしておきましたが、あの壊れたほうのアンドロイドを運び出すのを運悪く通行人に見られていたらしくて……。アーノルドとモニカが事情聴取されるので、うまいこと根回ししとかないと」

「そうね。それにしても、あんな高性能なアンドロイドは一般的じゃないわ。話は聞いていたけど、私、隊長以外で人型のものを見たのは初めて。倫理的な面で反論も多くて規制が厳しいみたい。費用もバカにならないから軍以外が簡単に開発できるものじゃないのよ」

 レベッカが暗い面持ちで言う。隊長というのはアーノルドのことらしい。彼女だけがそう呼んでいるようだ。

「どこかの犯罪組織が動物型兵器も開発していて、取り締まりはしてるんだけど。軍から技術が漏れているのか、軍の内部で何か起きているのか……」

 ルピナスは腕を組んだ。

「あのアンドロイドはヘッケルさんを知っていましたしね。でもレベッカさん、この件に関しては知らされた以上のことに首を突っ込まない方がいいですよ」

 ルピナスは、あの少年のこともだと釘を刺した。フランツは首を傾げた。

「マスターはあの男の子が来ることを知っていましたよね。なぜです?」

 彼女は困ったような顔をした。

「お父上と知り合いだっただけです。息子が来たら頼むと言われただけですよ」

 だが、彼女は彼が来てすぐに艦長に連絡を入れていた。それをあのアンドロイド達が盗聴していた可能性がある。ルピナスはまだ何か言いたげなフランツを目で制止する。

「帝国の問題なので、あとは艦長さんに任せましょう。自衛軍と警察に目を付けられたことだけが気掛かりですけど……まあ、何とかなるでしょう」


 アーノルドは三日ほどで修理を終えて帰ってきた。フランツは顔を見るなり謝ったが、彼は気にした風もなく「分かればいい」とだけ言い、銃火器の知識をつけるようにと言った。

「今後のために扱えるようになっておくのもいいだろう。まずはPTSDの治療を受けろ。いずれクラクフやケルンに移るなら、二年の軍役につく義務もある」

 相変わらず事務的に告げると、彼は毎日のローテーションに入った。布巾やタオル類を集めると、洗濯機に投げ込む。

「ほかに洗うものがあれば入れろ」

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