第4話「男を誘うメイド長」
俺はこのリリーとか言うヤツが大っ嫌いだ。控えめに言って早く死んで欲しい。
「次は何をしましょうかねぇ。うふふふ。」
コイツ、本当に男なのだろうか?俺が出会った時から扇情的な仕草しかしてないぞ。やっぱ長時間話してると精神が持ちそうにないな。憎しみで壊れそうになるくらいだ。
「あ、そういえばぁ、もうすぐ中央の方で軍が行う中型の会議がありましたよねぇ?」
「そうだな。次はそこで何をすればいいんだ。」
またアイツの敵を増やすんだろうな。テメェ、ロクな死に方しねぇぞ。
「カレの魅力をいーっぱい話してください。もし、懸賞金が上がらなかったら......分かってますよね?ふふ、脅威を増やして苦悩している間に、2人で楽しみましょ♡」
「はぁ...頼む、リムラン。強く生きろ。桜の花のように可憐にな。」
「えー?私にはおねだりしてくれないんですかぁ?むー。ざんねーん。」
なるほど、つまりコイツは次の軍議で俺を一暴れしてほしいようだ。そして結果出なければ、さもなくば死より酷い結末が待っているだろうと....?とんだクズだな。はいはい、仰せのままにしますよ。それで満足なんだろ?
「おい、リムラン!ちょっと来てくれ!命が惜しくば早く来い。」
僕は養生のために屋敷で休んでいたが、世話になった酒場の店主が急に僕の部屋に訪れた。そういや、メイド長さんの気分次第で外に連れられてたから、しばらく外に出てないような気がする。物騒なことを言ってるが、一体なんなのだろうか?
僕は店主に担がれながら外に出て辺りを見回してみると、フードを被ってヤバい目をしてる僕の顔の張り紙が、町中にたくさん。あれ?軍部にまで僕の武勇伝が回ったのかな?ユメは常に僕のことを話して街を回ってたもんな....さすがにあれは恥ずかしいよ。
「お前の懸賞金、ホラ、見ろよ。」
養生のおかげで背骨の状態が少し良くなった僕は、首くらいなら動かせるようになっていた。そこで、僕のイケイケな顔の張り紙を見てみた。.....おおう、ジーザス。この懸賞金、いくらになってんだ?
「ついさっき、軍部の者がたくさん張り紙を回してな。お前の懸賞金が970万ガルドに跳ね上がった。ほぼ倍額だぜ....!こんだけ上がったら、うちの町でもお前を狙うヤツが恐らく出てくるだろうよ。」
これだけ懸賞金が上がった理由はなんとなく想像がつく。一度捕まったのに、脱獄してこの町で生きていること、「毒する者リサ」を狩ったこと、最近懸賞金が上がって、その脅威が再確認された頃に「全面鋼鉄のハダ」を狩ったこと。他に理由は....ないな。なんだ?それにしたって上がりすぎだろ。こんな辺境の町で犯した罪だぞ?これ、中央のヤツらが関わる問題でもないだろうに...あ、まさか。
「私のプレゼンテーションの力です!調子に乗ってちょこっとだけ誇張しちゃいました!」
テメェの仕業かユメ....あぁ、もういい。そんなに嬉しそうな顔するなら僕の懸賞金が倍になったくらいで怒りはしないよ。
「で、例えばどんな誇張された事実を話したんだ?」
「私をキズモノにしたとか!」
「お前はホンット...」
おいいいい!?それって僕が溶岩洞でヤっちゃったやつじゃん!?しかも誤解があるような言い方をして....泣きたくなってきた。てかお前、それを広めて回ってたの?正気か?
「で、他には何の虚偽の情報を話したんだ?」
「全面鋼鉄のハダが命を捨ててもイイって言ってしまうぐらいまで酷く痛めつけたとか!」
無理。そんな実力僕にはない。だいたい殺したのはユメじゃん!皆そんぐらい分かってんじゃん!
しかし、それを加味しても足りないな。軍部が相当お怒りだってことは分かったんだけどさ。それにしたってこの伸び率はどうやっても説明のしようがない。何か、大きなモノが関わっているような....僕の勘がそう言ってる。
「お前、命が惜しくねぇうちに早くこの町から逃げた方がいいぜ。」
「逃げたほうがいいぜぇ。」
居たのかよ。店主娘。僕でも気づかないほどのステルスの持ち主だな。ていうか、そんなシリアスな顔をされても困るんだよな。僕は今マトモに動けないからな。ヤるならどうぞヤってくださいって感じだ。
「って言っても、その体じゃ言っても意味ねぇか。」
「分かってんなら言うんじゃねぇよクソ。」
ちょ、待って、ゆっくり手を離そうとしないで!ひゃあああ、落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる!すみませんでした、担がれてる人間の態度じゃないでしたよね!すみませんすみません。
「ひょっと。ナイスキャッチィ...」
おぉ、店主娘。ナイスだ。助かった。おかげで領主のヒモになる時間が長くならなくて済んだわ。僕が思いっきり安堵すると、ちょっとモヤっとしたのか、ユメが珍しく食ってかかった。
「ちょっと、リムラン様を運ぶのは私の役目ですよ!」
「ムムー。わたしだって運んでみたいんだもん!」
おい、僕はそんな徳のある人間じゃねぇし、無理すんな。さっきから腕がプルプル震えていやがる。僕が止めようとした時、鶴の一声が入った。
「おい、シニィ。あんまりユメ様をからかってやるなよ。ユメ様はコイツのことが大好きでしょうがないんだよ。」
「はーい。」
へぇ、店主の娘はシニィって言う名前なのか。言われてみると確かに
「ええそうです。大好きですよ。」
僕はまた担がれて、屋敷へ戻った。廊下をユメが歩いていると、メイド長とすれ違った。
「あら、こんにちは。」
「ひっ!?狩らないで!?」
「失礼ですね。もうしませんよ。というか、手配書を見るかぎり、懸賞金がほぼ倍額になっていましたね。おめでとうございます。」
そう、倍額になっていたから、情けないことにちょっと警戒しちゃった。どうせ警戒しても反抗できないしね。あんまする必要もないか?でも、感覚が鈍っちゃうのは怖いな。
「お嬢様、ここからは私どもがお連れいたしますので、ごゆるりと。」
「えぇ、ありがとうございます。」
そう言って僕をゆずり渡した。僕をゆずり渡したって、表現がじわじわくるな...w
しばらくすると、僕を冷ややかな目で見てきた。今ゾクッとしたもん。怖いよ。絶対命狙ってる。
「あなた、ずっと誰か女の子といらっしゃいますよね?こんなに担がれまくって、恥ずかしいとは思わないのですか?」
「んー、最初は恥ずかしいというか、安堵だったかな。多分1人でヤツを狩ってたら、同じ結果だったら僕はあそこで野垂れ死んでただろうし。運んでもらった人には全員感謝してるよ!」
「......そうですか。」
ピュアな笑顔見せたらちょっと照れてた。あ、コイツもちょろいんだな。担がれてる僕が言うのもなんだが、情けねぇなw
「やっぱ情けないとかカッコいいとか、それ以前にこの前までは僕は生きることに必死だったんだよ。それが急にこんな暖かい場所に来たら、首狩りとしての感覚が鈍っちゃう。僕にとってここは暖かすぎる。早いとこオサラバしないとなぁ....」
扉の前に来たが、メイド長は中々自室のノブを回そうとしない。どうかしたのだろうか?
「なんでしょうね?今ちょっとイラッとしました。ご主人の温情やお嬢様の貴方への愛を無視した発言をしたからでしょうか?とにかく一発殴らせてくださいね。」
やっぱ、コイツ絶対に僕の命を狙ってやがるよね。がはっ!みぞおちぃぃぃ......
「わ....悪いけど、本当に彼女の好意には答えられないよ。僕は首狩りで、しかも賞金首なんだ。こんな汚いことに彼女を巻き込んじゃダメだよ。」
「はぁ、変なところで真面目で優しいですね。いっそ極悪人の方が、楽に殺せたのに...」
「え、殺すつもりだったの!?」
衝撃の事実だ...いつそんな素振りを見せたか全然分からないな。
「そうですよ。もうその必要はないと判断しましたけどね。女である私が、どうして首狩りなんて出来たのか、知りたいですか?」
女は基本的に男よりも力がない。これは揺らぎようの無い事実だ。君たちの世界ではそういうことを言っちゃダメなんだよね。この国の兵士だって男しか居ないし、賞金首やそれを狩る首狩りは男ばかりだ。だが、ごく少数だが、女性にもその2つは存在する。そんな人が持っている武器は男にしかないものだ。つまり....
思わず生唾を飲み込んだ。いかんいかん。変な想像はするな。
「まさか、ハニートラップ?ありえないよね。失礼なこと言っちゃったなぁアハハ。」
オイオイ、このメイド長に最初に受けた印象なんだったか?ガサツだったよな?アレってもしかしてハニートラップだったの?
「そのまさかですよ。私はハニートラップをして生計を建てていました。さすがに男の人の筋肉を削ぐくらいの力とナカを動かす力は必要だったので、トレーニングはしましたけどね。」
「へぇ、そうだったんだ。2度目の力は聞かなかったことにしてやろう...」
勃ったらヤられる...!勃ったらヤられる...!勃ったらヤられる...!勃ったらヤられる...!勃ったらヤられる...!勃ったヤられる...!勃ったらヤられる...!落ち着け。冷静に。理性だ理性。もし勃ったらちょん切られるぞ...!
あれ、てかもしかして、これ、デジャヴじゃねぇか?メスに犯されるハートチョウのオス...(二話参照)やべぇ。僕の命はここで終わりなのかよ...クッソぉぉぉ!
「クスクス、安心してください。もし今始めたなら、秒で終わらせてあげますよ....」
「あ、終わった。」
「え?あっ....早いですね....」
「......」
「......」
おい、なんやねんこの沈黙。どうにかしてよ...僕の命はなかったことにされるのか?
ちょっと待ってくれよ?ここで勃つの早いなとか思った画面の皆!聞いてくれ僕の弁明を!僕は非っ常に溜まってたんだよ。しかもこのメイド長がえ、エロいのなんのって...あぁ、今察した。僕は最低だな。殺されても文句は言えねぇわ。
「溜まってるようでしたら、してあげましょうか....?お嬢様を犯されても困りますし。」
「もういい。」
ユメを犯すつもりはさらさらないが。煮るなり焼くなり、好きにしてくれ。
「お疲れ様でした。」
「そちらこそ。....はぁ、何この空気。」
結局手と口と胸で1回ずつされちまった。もうお婿に行けないです。しくしく。
「まぁ、良いではないですか。英雄色を好むと言いますし。」
「僕は英雄なんかじゃない!」
というか、英雄だと思われてたことに驚きなんだけど。
聞くところによるとメイド長はその後、自身の下半身を丹念に洗っていたという。なんか、申し訳ないな。
「それであなたはどうするおつもりなのですか?」
ユメが言ってた「共に過ごす」という話について、か?それなら、もう僕の中で決着がついた。
「ユメについての事だったら、既に僕の中で答えは出ているよ。すごく失礼な話になるんだけど、僕はバックれることにするぜ。」
背骨が治ってもしばらくは怪我をしたままの振りをして、ある時を境に居なくなるっていうシナリオが出来てる。それが1番悪人っぽくて、ユメの為にもなって、1番安全だ。
「...なるほど、相変わらず最低ですね。でも、完全に悪人じゃないところが更にタチが悪いです。」
「よぉく分かってるじゃないか。そうだ。流石に僕も何もしないままここを発つのは本意じゃない。何かお返しをさせてくれ。僕のポーチに、ノートが入ってるはずだ。それを領主サマに渡してくれ。」
僕は礼として何か与えるものができるとしたら、この肉体ぐらいなのだが、唯一お返しが出来るものがある。痺れ薬だ。
「はぁ、「どこでも作れる毒薬レシピ」....ですか。胡散臭いですね。」
「だろ?でも僕はそれに命を救われたんだ。ついでにソイツはユメの命も救った。」
「へぇ、お二人の....ふむ、神経毒の痺れ薬ですか。試す価値はありそうですね。素敵なノウハウをありがとうございます。これはここの家の家宝となるでしょうね?」
「それは大げさすぎる。でも、1つだけかなり注意してほしいことがあって...」
それは、レシピが世の中に出回って国を大混乱に陥らせないこと...と言おうとしたが、口に人差し指を置かれて黙らされた。
「分かります。だから守るべきものの象徴である例えとして家宝と申し上げました。」
「ヘヘッ。物分りと察しが良すぎて助かっちゃうな。察しの良い首狩りは好きだよ。」
「......!」
僕はもったいないことしたなぁ。といつでも思うだろうネ。あの一言さえ言わなければ100点満点だったわ。
「少なくとも敵に回したくないくらいにはねー.........あれ?メイド長サマ?どうしてそんなに怒り心頭でいらっしゃいますか?へ.....うぎゃーーーっ!?」
僕はこの一言で、彼女を敵に回しました。後悔してます。ホント。メイド長サマは僕に暴力を振るうと、急ぎ足で部屋を出た。
僕は1週間もしないうちによく動ける状態になっていた。しかし、まだ動けないよう演技をするために、よくメイド長に担がれるようになった。動けるようになったのを察せられないためにだ。
「養生のためにとは言いましたが、明日には発てそうですね。お疲れ様でした。」
「あー、そうだな。ホント、ただ1人の女の子を救っただけでこんなに良くしてもらったのは、初めてだ。」
「私どもからも1つだけ礼がしたいのですが、部屋の外に他の使用人どもが待っています。少し、いいですか?」
なんだよ?特に礼を言われる事は何もやってないが?部屋の外へ出ると、既に扉の周りを執事含める使用人たち10数人に囲まれていた。よく分からない状況に戸惑っていると、代表であるメイド長が口を開いた。
「私たちはお嬢様の身を第1に考えています。ご主人にそう指示されました。彼女の命を救っていただきありがとうございました。」
「いや、ちょっと待てよ。たまたま救っただけでこんなに礼を言われる筋合いはないぞ。
それこそ僕の方こそ礼を言いたいくらいだ。ここに1週間も匿ってくれるだけでなく、動けない間は身の回りのお世話までしてくれた。」
コイツは僕の言葉を無視して強引に話を進めてきた。それほどどうしても言いたいことがあるのだろう。こんなに大切な場面ではツッコむ気なれず、口をつぶって話を聞いた。
「1日目の食事中に発せられたあなたの言葉は我々を非常に驚かせました。」
「あの、一緒に食べようとか言った話か?ありがとうなー僕のワガママに付き合ってくれて。」
立て続けに無視されてる....だが礼を言われるのは悪くない。話を続けてもらおう。
「あの後、領主様が「これからは全員で食事をしよう。」と仰られ、これから楽しく食事が出来そうです。」
「そっか、それは良かったなぁ。」
「聞けば、明日にはここを発ってまた首狩りに戻られるそう。そこで、私たち使用人は勝手ながらですが、こんな外套を御用意させいただきました。」
執事数人がその外套を広げた。おぉ....これは!カッコいい!白の無地に紺のツタのような模様?紋様?のようなものが入っている。手触りからするに、かなり上質なものを使っているのでは?
「こちら、水を弾く特殊な素材で出来ています。」
へぇ、これなら雨の日でも大丈夫ってわけか。今まではどうしても雨宿りか、風邪引くの覚悟で移動しなきゃならなかったから、これはありがたい。しかも、血に濡れたときも乾くまでなら血痕が付かないと言われた。なんて旅に向いた外套なんだ....!感激だ!
「ありがとう。一生大切にする....もし離れたところで僕の懸賞金が上がったら、元気にやってる証だから。ホントに、ありがとうな。」
家を持ってないので使用人たちが手配を書いたとしても届かないが、僕はきっと死ぬまで、このクソほど恩義深い人達を忘れないだろう。
翌日の朝、僕は領主の家を去った。領主や酒場の店主らなどには一通り挨拶をしたが、1人を除いてしてないヤツがいる。だが、そんなヤツのことは忘れた。忘れてないと町を出ることに引け目を感じるからだ。遠くから、必死にこちらを呼びかける声が聞こえるが、無視を貫く。さよなら、またね。
人生はサクラの花のように可憐かもしれないが、サクラの花のように短くもある。硬い蕾は生きる希望に満ちていて、咲くと死ぬまで辺りを彩っていく。
俺とソイツでその様を見送っていたが、アイツは本当に凄いヤツだ。人に好かれまくる人徳がある。これだけ首に970万の金を出そうと、命を狙う奴は1人も居なかった。こんなことって、ありえるんだな。
「そういえば、どうしてテメェはアイツが動けない時に命を狙わなかった?」
「あ♡初めて准尉殿から話かけてくれましたね!嬉しい〜」
いいから質問に答えろや。ホントうぜぇな。クネクネすんな!
「そんな無粋な真似しませんよぉ。」
へぇ、ちょっと見直したかもな。腐っても軍人の堅実さはあるんだな。
「カレにはもっと、絶望で顔を歪めてくれないと、困りますよォ....んっ、想像しただけで、興奮が.....」
前言撤回するわ。やっぱコイツはクズだ。自分の手を汚さない快楽主義者め。
「それじゃあ、私たちも次なる町へ行きましょうか。2人のランデヴー♡」
「....」
「どうしたんですかぁ?異動すれば問題ないじゃないですか.....あ♡なんかよくわかりませんが、イイ顔してますね♡」
いや、やっぱりしんどいな。命を握られてるって、こんなにも精神にクるんだな。だが俺は軍人。お前も生きるためには全力を尽くす。なら俺もそれに倣って全力を尽くそう。
国への忠義や世間体なんて、命あっての物種だろう?アイツの言葉を借りれば、生きてりゃ丸儲け。だな。
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