第3話「夢見るユメ」
突然だが、お前たちは棒倒しをしたことがあるか?砂の山に棒の旗を立てて、それを崩さぬよう山を削る。旗を倒したヤツの負け。
「じゃあ、こんなのはどうです?楽しいことしましょ♡」
俺は今、人生をコイツに握られている。握られてるってのは、棒倒しの旗になった気分だ。いや、命と言ってもイイな。このクソ生意気な男の娘が。ホントに憎たらしい。
「貴方が、賞金首どもに根回しをしてくださーい。お金を渡して、暴れさせるんです。兵士であろうと構いません。貴方が逃した彼は確か....首狩りさんでしたよねぇ?」
「相違ない。」
「あ〜んもう堅いんですから...」
屈辱的すぎるだろ。急に生きているのもしんどくなってくる。アイツはこんな状況に身を置いて10年も生きてきたんだな。自業自得とはいえ尊敬に値するほどだ。
マズイ、僕の正体がバレそう....!この女の子、妙に頭が回るっていうか、注意力があるなぁ...どうしても一瞬たじろいだ。
「いや、僕は...僕はリムランじゃない。あんなヤツと一緒にするな。アイツは、本当にただの腰抜けだ。」
嘘でーす。僕が「腰抜けリムラン」でーす。これから、あることないことで自虐大会が始まりまーす。
「え、じゃあ貴方は誰なのですか?声とか身体付きとか、すっごく似てる...あ、もしかして双子だったりして!面識あるような口ぶりでしたもんね!」
「そ、そうそう!そうなんだよねー...あはは。本当に彼のことは探さない方が良いよ!ここに居るってことは、酒場で情報を集めてきたんだよね?彼の懸賞金、見たことあるでしょ?あれはそのまま危険度になって表されているんだ。」
「そうです。確かにあの人は危険です。危険すぎますよ。あんな魅力的な人...じゃなくて、危険な人。だって、私に嘘の名前を教えたんですよ!?おかげで酒場でおじさん達にどれほど笑られたことか....」
それはなんかすまんかった。まさかこんなに強い女の子だとは思ってもみなかった。ていうか、よくよく見たらそれ、僕が血しぶきをあげた時に使ってた外套だよね?なんで拾って我が物にしてんだよ!まぁ、要らないから捨てたんだけどね。
って、うぉぉ!?
「スキありっ!えーーい!!」
このアマ、急に近づいて外套のフードを取ろうとしてきやがったぞ!危ない。間一髪で避けた。これがナイフだったらマジ死んでた!
「あら。惜しい。」
「あら惜しい。じゃねーよ。いきなりフード脱がせようとすんな!あー...心臓に悪ィ...」
女の子は、顎に人差し指を当ててこう言った。あらその仕草可愛い。
「実のところ、貴方がリムラン様ですよね?立ち姿から、声から、歩き方から、何も隠せていませんよ?それに、私に対してこーんなに警戒心がなさすぎるのは、私が危害を加えないと知っての事ですよね?」
「さぁ、なんの事だろうね...リムランは僕のお兄さんだ。汚らわしいお兄さんだよ。今まで何人殺したと思う?」
「いい加減自虐はやめませんか。こっちまで悲しくなっちゃいますよ。折角運命の再会をしたのに....」
ため息つかれた!?この子命握られてんのにホントに危機感ないな。これが僕じゃなかったら、本当にどうなっていたか....うぅ、考えるだけで恐ろしい。
「貴方が私を救ってくれたんですよ?貴方が私を殺すわけないじゃないですか!」
「じゃあ、お前を殺せば、僕がリムランじゃないって信じてくれるんだよなぁ?そうだよなぁ....!」
もう面倒な問答は必要ないや。と思い、僕は胸ぐらを掴んで女を持ち上げた。当然足はつかないだろ。ほら、ジタジタしてる。こんな事されて怯えない女の子は居ないからな。よし、これで終いだ。
「っぐ....!私は確信しました。イイですよ。その証明やりましょう!こうなった私は誰にも止められません。貴方が私の首をかっ切れば、私は貴方をリムラン様ではないと認めます!さぁ、やってください!あのレイプ魔の首を切ったような見事な一筋を!」
おい、マジで言ってんのかよ。マジでやるぞ?僕は躊躇しない。手に持った解体用ナイフを首に添える!
「リムラン様、私は貴方がそんな人じゃない。って信じてます。」
「うるさいぞ。触れるんじゃない!」
女は僕の頬に手を当てて微笑んだ。コイツ、本当にこんなしょうもないヤツの為に命を捨てる気か!?狂ってるな、かっ切ってやる!僕に今まで殺せなかった人間は居ない。僕に狙われて逃げられた人間は居ない。あぁ、そんなに切られたいのか。安らかに目をつぶっちゃってそんなに切られたいのか。
たまたま女の子のヴァージンを救っただけなのに、どうしてその子の命まで散らす事が出来ようか。っていうか、僕は少女趣味なんてなかったハズなんだけどなぁ...
「ううわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「っ........!!」
「...........」
ポタ、ポタ。
「.......」
「...........」
「なーんだ、やっぱり貴方がリムラン様じゃないですか。無理なんてしちゃって....」
そう言って、ユメは僕のフードをゆっくりと取った。あれ?もしかして僕、ちょっと泣いてるのかな?
「やっぱり、一目見た時から綺麗な茶髪だと思ってました。リムラン様、気づいておいでですか?貴方があのレイプ魔の懐をまさぐる時、無意識に泣いていたんですよ。笑顔で泣いてしまわれるなんて、リムラン様はお優しい。」
優しいなんて、人生で初めて言われたな。僕は罪のないチョウを大した用でもないのに火あぶりにして、殺したぐらいに悪逆非道だ。しかも、今だって、ユメの首を少し切った。地面に血が滴っているから、下を向いてても分かる。っと、いい加減ユメを降ろさなくては。ゆっくりと。ゆっくりとね。
「ごめん、君の首を切ってしまってごめん。僕は優しくなんてない。ただ腰抜けなだけだ。」
僕の自虐なんて気にせず、ユメは話を続ける。調子を狂わせるイケナイ子だ。容姿以外は可愛さなんて全然ないな。ヘヘッ。
「泣かないで。私のお母さんはよくこう言ったんです。「優しいことは強いことだ、優しさから強さが生まれる。」って。私は優しく生きてきたつもりですが、リムラン様には敵いませんよ。私はきっと見ず知らずの人を殺したとして、そんな風に泣くことなんて出来ません。」
外套の裾で僕の涙をゆっくり拭く。痛いや。
「ちょっと、擦れて、痛いよ。」
しばらくしたところで、僕は仕事に戻った。痕跡を辿ろう。どんなに嘆いて悲しんだところで、僕は生きるために人は殺さなきゃいけない。「首狩り」は死ぬまでやめられない。
「よし、また、逢う日まで。」
「いえ?そんな事はさせません。私は貴方と共にします。偽名を使って私を辱めたこと許しませんから。一生かけて返してくださいね♡」
嘘だろオイ。僕はこれから人をどうやって殺していけばいいんだよ?そんな事は出来ないぞ。
「そんなの出来ない。僕は首狩りで、君は町娘だ。お父さんとお母さんが僕を許さないよ?」
「じゃあ、今から許してもらいましょうか!」
え、君の家に行くのか?なんでだよ!?僕は仕事が....金がないのに....
「1日ぐらい、お父さんが泊めてくれますよ!さぁさぁ。」
「本当にちょっと待って、せめてここら辺を調べてからにしてくれないかな!?本当に頼むから!」
「えー、しょーがないですねーもーっ。」
「お、おう...ありがと。」
ん?ありがとうってなんだ?なんか引っかかるけど...とりあえず、仕事だ。痕跡はまず....足元から調べようか。僕が移動すると、すぐそばまでユメが付いてくる。顔を覗きこまれる。あぁこれは...結構ハダの野郎も5人の兵士相手じゃ苦戦したんだろうな。大きい歩幅に沿って血が滴ってる。対して兵士たちはどうなっているのだろか?僕はしゃがみ込む。するとユメもそばまで付いてきてしゃがみ込む。また顔を覗き込まれる。どうやら、鉄の棍棒でアタマをブチ抜かれたみたいだ。即死したんだな。しかし、こうも見られると...うーむ、やりずらい。
「あの、ユメさん?すごくやりずらいんだけどなぁ。ちょっと離れて欲しいんだけどなぁ。」
「大丈夫です!お気になさらず続けてください。」
大丈夫じゃねーよ。問題あるのはこっちの方だよクソ。コラ!しばらく動いてないからって抱きつくな!暑い!
「まーじーで、ダメ!今は仕事中!」
「はーい。じゃあ仕事してる以外の時に抱きつきまーす。」
もうツッコむのもメンドクサイ。無視だ無視!返事はいいんだよな、返事は。
矢が折れてる。恐らく兵士が使ったんだろうけど、ハダには当たらなかったようだ。ハダの血を辿ると、あれ?この溶岩洞、向かいの吹き抜けがあったのか!でも、足跡と血の水滴は続いてるぞ?ん?辻褄が合わないな。僕が入った入り口にはハダの往復分の足跡があったのに、この足跡は出口に向かっている。どう考えてもハダの歩幅だしな。僕の間違いじゃなければ....この洞窟にハダが居る!
「どりゃあああああああ!」
「ユメ、危ない!」
嘘だろオイオイ。こんなパターンありかよ!?アイツ、シダ植物群の草木に隠れていやがった!僕はユメをかばって棍棒の攻撃をかわす。...ハズだったのだが。
「....っ!ぐああああああぁぁあぁあ!」
「リムラン様ぁぁ!?」
痛い、痛すぎる。力を溜めた渾身の一撃は、腹をカスっただけで、この出血量、このダメージ。ホント、ユメに当たらなくてよかったわ。こんなん即死するよ。マジ....
僕は次の一撃が来る前に急いで距離を取る。ユメにはここら辺で御退去願おう。ジェスチャー使って逃げてもらう。ホント、守りながら戦うとか無理だから。初めてだから。しかし、噂に違わぬ大男のようで嬉しいよ。狩りがいがある。僕はつんのめりながらもハダの攻撃を一撃、二撃回避。一撃は重く鋭いが、とてつもなく遅い。だが当たったら即死。攻撃は効かない。まるで砦だよな。斥候してた頃の、敵国の城塞見てる気分だよ、本当に!
「良〜いドラマ見せてもらったぜ。オレも泣いちまったもんな!ちょっと擦れて痛いよ〜〜ハハハハハ!」
うーん、イラつく。でもここで感情に流されちゃいけない。僕は首狩りだ。戦うのではなく、あくまで狩るんだ。気分はまるで、シカを目の前にしたオオカミだ。自分の命が危険になることはあってはならない。そうだよな?じゃあ、これ以上コイツの好きにはさせないようにしなきゃな。ハダの攻撃のコンボをかわした瞬間がバトルだ。
「ちっ、反応なしかよ。つまんねェよォ。腰抜け、リムラン様ぁぁぁぁ!」
「あああああああああああっ!」
「うげぇぇ!?」
ユメ!?逃げろと指示しておいたハズなのに!どうして、どうして!彼女は命がけで兵士が使っていた槍を、ハダの背中にブチこんだ。堅いな。金属同士が擦れる音に似てる。だが、もう一つの音が聞こえる。木が折れた音がする。ハダがユメの方を向いた!やるならここしかない。
「こんのクソアマ....!」
「ユメ!逃げろと言っておいたハズだ!君のアタマの原型が無くなる前に、早くしろ!酒場の店主なら人を呼んでもいい!」
僕はすぐに外套を脱いで、ハダの頭に被せた。視覚を奪ったハダは暴れるしかない。しかし、僕はコイツにしがみついてまで外套を離さない。
ガガン。
「かっはっ...?」
ふざけんな...!その巨体でスープレックスだとォ....!?こりゃあ、兵士も勝てねーわけだわ....僕は手を離した。うなじからモロに岩を食らって、再び立てるわけがない。あ、案の定アタマから血が....だけど僕にはまだ策がある。そう、痺れ薬だ。コイツをフルに使えば、この状況からでも倒せないわけじゃない。こっちを振り返ったハダの顔面にぶっかけるつもりだ。コイツの皮膚は、完全に外の衝撃の影響を受けないわけじゃない。それはユメが命をもって証明した。槍で突いた時に悲鳴をあげたからだ。つまり、痺れ薬の影響は当然受けるはずだぜ...!
ハダは1度身震いして頭から倒れた。痙攣もしている。僕はヤツの顔ではなく、背中に、ユメが槍で付けた傷に薬をぶっかけたんだ。傷口に薬を入れることで、より吸収と毒が回んのが早くて効果があるハズだ。
「やっぱ効果あったなァ......ユメ!」
「リムラン様!」
「コイツに、トドメを刺せ...!」
僕はずっと見ていたよ。君が逃げずに、出口のところで、ヤツのデケェ斧を携え、待っているトコロをよォ.....!
「あっ、なっ。これ...からだが動はねぇ......」
そんなにろれつが回るのは尊敬するが、もうオマエに命はないぞ。
「はぁぁぁぁっ!」
ズブシッ....ハダの首は綺麗に切断された。深手を負わせることが出来たならどこでもいいと思っていたが、まさか首に入るとは。僕が言ったら皮肉に聞こえるかもしれないが、ユメには殺しの才能があるかもしれない。今回のMVPは、ユメに決定だな。全くよォ......しばらく痛みを味わっていると、ユメが駆け寄る。ホント、デキた女だな。お前は。
「リムラン様、大丈夫ですか?私、やりましたよ.....本当は怖かったんですけど、出来なかったらリムラン様が死んじゃうかもって考えたら、自然に体が動いてしまって...それで...それで...!」
「ユメぇ....」
「ひゃい!?」
「今度は僕の命を救ってくれたな。僕たちは命を超えた絆がある...と、思わないか?」
「はい、その通りです...!」
「おっと、背中の辺りを触るときは慎重になぁ...」
情けのないことに、僕はユメに担がれて酒場まで来ていた。僕が力の要らない人間の担ぎ方をレクチャーしたら、上手い具合に運んでくれた。君たちも教えてほしいか?こう、片手を持って腰に手を添えるんだ。そしたら、自分の頭の後ろにお腹をもっていくんだ。手の力をほとんど使わない、素晴らしい担ぎ方だ。だが、9マイルもノンストップで歩けるなんて、この子の脚力は一体どうなってんだ?手だけは動く僕は、ハダの生首を布で包んで持った。町中の奴らから変な目で見られたのは言うまでもない。僕なんて血痕だらけだぞ?
「うわ、なんだその格好!?女に担がれてるじゃねぇか....」
「担がれてるじゃないのー。」
あの看板娘マジでどうにかならねぇのかな?やかましいったらありゃしない。折角店主と話してるのに水を刺すなよ。っていうか、そろそろ降ろせよ。ほら、客どもが騒ぎになって囲んできた。
「あー、これは帰ってる最中にちょっと転んじゃってな。ていうか店主、伝言を頼みたいのだけどいいか?」
「好きにしろよ。」
「ここによく来る兵士の2人組がいるだろ?そいつらに言ってやってくれ。僕はこの女の子の家に居るので、ハダの首を渡すためにそこへ来てくれ。ってな。」
「ふむ....というか、俺がその首を渡そうか?責任を持って渡すぞ。」
「優しい父ちゃんが渡すぞー。」
助かる。僕はほとんど動けない身なので。こういった親切さが身に染みる。ということで、僕は返事の代わりに生首を店主に....っておい、お前が取るのかよ!看板娘!
「へぇ....あの娘が自分から....おい、自分で取ったからにはちゃんと管理しろよ。リムランはこの店の馴染みになるかもしれねーからな。」
「おいバカ野郎!ここでそれを言うんじゃねェよ!!」
「「「リムランだとォ!?」」」
やっぱそういう反応になるよなァ...懸賞金495万のヤツが居るもんな。かなりの騒ぎだ。こん中で色めき立ったヤツは、僕の命を狙ってる。
「もうやってらんねー。ユメ、そっちの家に行こうか。」
こんな満身創痍じゃ結局担がれたまんまユメの裁量次第だ。コイツが家に僕を連れて帰るってんなら僕は従うしかない。ユメは酒場から出た
「わかりました。っていうか、その口ぶりからすると、もうこちらの酒場には行かない様子ですか?」
「あー...そうかもしれねぇなぁ。情報ってのは1人歩きするんだから、僕がこの町に居るってバレたらここの人達は大混乱に陥る。」
「ん...?その感じだと、歩けるようになったらすぐに発つんですか?」
「その通りだが、何か問題が?」
ギュゥゥ。ちょっと待ってかなり痛い痛い痛い。うなじと膝裏を丸めてきた。背中が痛いんだよォ!
「そのあたりの話はあとでし、しようぜ....今はとりあえず落ち着きたい。」
「ハイ、着きましたよ。ここが私の家です!」
おぉ、首が動かないから見えないけど綺麗なもんだな。首が動かないけど。
「ユメ様がおかえりになられましたー!!」
「はっ?ユメ...様?」
「あれ、言ってませんでしたか?私、この町の領主の娘ですよ?」
はぁ、道理で咳き込み方とか、身なりが上品だったんだな...出来ることなら、今すぐこっからズラ刈りたい。
「あぁユメ!お父さん心配したんだぞっ!急に居なくなって....ん?そこで担がれてる人は、どちら様かな?」
「あー、その、コケて怪我しちゃって、それで動けないからこうやって運んでもらってます。ホント、ユメさんは優しい方ですね。僕は情けないです!」
ユメが口を開く前に一気に巻くし立てる。頼むからこれ以上状況をおかしくさせるなよ!?マジ、頼むから!
「ユメ?脅されてるわけじゃあるまいな?」
「この人はそんなことしません!動けないしとにかくお優しいんです。だいたい、お父さんは御無礼が過ぎますよ!」
「おい聞いたか!?ユメが連れてきたんだからもう大丈夫だ!メイドさんたち、この方を客室用のベッドに連れてってくれ!」
あーもう僕はされるがままでいいか.....ユメのお父さんも後半この子の言葉聞いてないよ。ツッコむ気力もないわ。
おー、女性にしてはすげぇ腕力だ。このメイドさん、僕を軽々とお姫様抱っこして冷静な顔してやがるよ。
「ありがと。助かるよ...君、力強いね。僕結構重いはずなんだが....」
「はい、ここで雇われるまでは貴方と同じく首狩りをしていましたので。立ち振る舞いで一瞬で貴方が何をしている方かも分かりましたよ。」
「へぇ、そうなのかい....それじゃあ安心出来るなァ....」
安心出来るっていうのは、こういう人を雇えるという領主の寛容さだ。っていうか、さっきからデカい胸がちょくちょく当たってるんですけど。はァ....ここら辺の女性はガサツな奴が多いなー....
「いいですね。」
「は?何が?」
「いえ、首狩りにも安心出来る場所が出来るなんて、私も思ってなかったもので。今はこうしてメイド長をさせてもらってます。」
あぁ、そういう。まぁ、僕の場合、その後ろに脱走兵で多額の賞金首って肩書きがあるんですけどね。ははっ!笑えねぇ!
「君、無愛想だけど優しいね。」
「口説いてるんですか?」
「まさかww君、ホントにそう思ってるの?w」
そんなつもりさらさらなかったがなぁ...おい!その担ぎ方は痛てぇよ!なんでもいいからそれだけは勘弁して。ちゃんと抱っこしてぇぇぇ!?
「フゥンッッ!!」
「痛っってぇえぇぇぇ!?」
結局僕は養生のために数日だけ泊まらせてもらうことになった。ホント、話を聞いてくれるタイプの領主で良かったよ。泊めてもらうのは良かったのだが、養生というほど暇はしない日々だった。例えば、こんなこともあった。
僕がユメの家...というか、屋敷に入れてもらってそろそろ落ち着いたというころ、食事中にユメが唐突に僕の魅力について切り出してきた。
「リムラン様はホントに凄いんですよ!2ヤードぐらいの高さから着地しても顔1つ歪めないんですよ!」
「痛くない着地のやり方があるからな。それを使ったまでだよ。」
おい、メイド長。顔をしかめるな。僕が例え49万5千ガルドの賞金首だったとしても、メイドは態度変えちゃいけないだろ。
「へぇ、それはすごいな!ところで、どうしてユメはリムラン殿に敬称を付けるんだい?その仲なら必要ないではないか。」
「それは、その...私はリムラン様に2度も命を救って頂きました。そして、実はキズモノにされてしまって....んん....一生残らない傷です....」
おい、確かにキズモノにしたかもしれないけど、今冷ややかな目で見てるお前らの想像するようなトコロじゃないからな?
僕はリムランって呼ぶのをやめろって言ってるんだけどなぁ...なんか敬称がむず痒い。今まで腰抜けとしか言われてなかったから慣れてないんだろうなぁ。
「とにかく、あと、49万もの巨額の賞金首でもあるんですよ!」
「「えぇぇ!?」」
傍にいたメイド長を除くメイド2人が驚く。おいおい、防衛体勢を取るな。僕は体が動かせないのにどうやって攻撃するんだよ。
「あとあと、全面鋼鉄のハダって言われる人を素手でやっつけたり....」
「へぇ、そんなことが。」
メイド長がまた顔をしかめる。だーから、コイツの話には誇張が入ってんだよ!?ちょっとは酌量してやれよ....
「あれは、ユメがトドメを刺しただろう。僕はヤツにしがみついただけだ。」
「「えぇぇぇぇ!?」」
さっきからこのメイド2人組は面白い反応するな。食事中じゃなかったらうるさいだけだけど。ってか、メイドさんたちは一緒に食べないのかな?絶対一緒に食った方が旨いだろ。
「お前たち使用人は同じタイミングで食べないのか?」
「私たちが領主様と同時に食べるのは、御無礼にあたりますからね。自粛しています。」
ふーん、残念だなァ。こんなにデカい机なんだから、皆で食べた方が絶対旨いのに。
「お前らバカだなぁ。一緒に食べないことが御無礼だろ?一緒に食べようぜ。僕は食べるため寝るために生きてるンだ。一緒に食べたほうがただでも旨いものがもっと旨くなる。ユメの父さん、そうしてもいいか?僕がここに居る間だけでも良いからさ。」
「うむ、構わないよ。実は私もそう思っていたのだよ。」
ヤリィ。ずっと誰かと一緒に食べたいと思ってたんだよ。ここ10年くらいずっと1人だったからなぁ。
僕の一声で執事やメイド全員の料理と椅子やら出てきた。あ、そうか。こうやって水をついだりする人間が、このデケー机じゃ必要なのか。忙しくなるのか....まぁいいか。
「あの、水をつぐ人間が居なくなりましたけど。」
「はは。じゃあ君、私のコップについでくれるかな?」
「かしこまりました。」
そうだよな。そういうことだ。これが正しい会食だよな。領主は、隣で食べている適当な使用人についでもらうよう頼んだんだ。その一声が引き金になって、この机は一気に活気づく。アァ、人生で最高の飯を食べたかもしれない。
しばらく満腹の余韻を楽しんでると、ユメがメイド長にヒソヒソと話しかけているのが見える。何を話してンだ?
「....リムラン様のあんな緩んだ顔、初めてみました。」
「....本当はこうして仲間たちと食べたかったんでしょうね。幸せそうな顔してます。」
そうだよ。僕はずっとこういうことがしたかったんだよ。やっぱり、僕は食べることと寝ることが好きなんだなァ。
その後、全員が食事を終えると、ユメが引き続き僕の魅力について熱く語って、僕のあることないこと伝説が増えた。あんまりこういうのは好きじゃないので、僕は負けじと反論して応戦した。ただの部外者なのに、こんなに歓迎してくれる、温情あふれるお前らに感謝。イベントとしては、他にも様々な事があった。
酒場からハダ殺害の情報が1人歩きして、町中の人間が領主の家に凸ってきた。僕は殺されるのかと怯えていたが、またまたメイド長に運ばれて外へ向かうと、感謝のお礼品を沢山貰った。当然、深緑の外套を羽織ってな。
「僕らの親友の仇を取ってくれてありがとうな。お前も知ってのとおり、この町の人間はハダの強襲に頭を悩ませて、怯えていたんだ。」
この大軍のリーダーなのか、僕にハダ殺害を依頼してきた兵士がそう言ってくれた。へぇ、そのユニフォーム似合ってんじゃん。でもヤったのはあくまで僕ではなくユメだ。
「いや、僕は殺してないぞ?ヤったのはあくまでここの領主の娘だ。僕1人だけを祝うのは解せない。ということで、僕へのお礼品は全て領主の家に奉納する事。」
「「「えぇぇー!?」」」
「それは、俺からの依頼の報酬も含まれてるのか??」
いつしか僕の二つ名が「腰抜け」から「首狩り」に変わった。この町だけでな。「首狩りリムラン」か....言いにくいし、むず痒い響きだか、悪くない。
ハダが死んで、残念がる俺の後輩。そういや、コイツの名前を知らないな。
「んんぅ...貴方の幼馴染さんは、想像以上のヤり手ですね♡」
「あぁ。」
気持ちよさそうにヨガる女みたいな男だ。いや、間違いだな。気持ち悪くヨガるただの変態だ。
俺たち2人はヤツが町の人々に囲まれてるところを離れたところで見てやった。当然だろう?なんたって准尉である俺の幼馴染だ。全面鋼鉄のハダなぞ恐るるに足らん。そうでなくて困る。ハッ、ニヤけが止まらんわ。
「むぅ、なんか嬉しそう〜。ちょっと嫉妬かなぁ。なーんちゃって。」
「そういや、俺はてめぇの名前を知らないな。」
「気軽にリリーって呼んでねぇ。」
「ふん、あだ名か。認めよう、聞いた俺がバカだったな。」
コイツ、どれだけ俺たち2人を貶めれば気が済むんだ。大嫌いだ。
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