第五十三話

 どうしてこんなことになってしまっているのだろう。

 状況は控えめに言っても最悪だ。


「鈴蘭、どれくらい猶予はあるの?」


 琴葉家からの帰り道。すっかり辺りの空は赤みがかっている。その光景は普段とまるで変わらないのに今ではこの日が沈んでしまうのがたまらなく怖い。


「少なくともあと三日が限度……それ以上は保証できない」


「どうやって犯人を見つけるの?」


 当てがあるのならいいのだが、少なくとも話を聞いていても特徴と呼べるような特徴は上がってきていない。そもそも逆探知もままならない状態で術者を特定するというのはかなり困難だ。

 どうにかして痕跡の一つでもわかればいいのだが……。


「花撫、幻成の孫がいつ術にかかったかわかるか?」


 それは関しては、鈴蘭が来る前に幻成から聞いていた。


「確か、今から二日前の夜じゃないかって……」


 ……二日前。言われたときは特段何も思わなかったけれど、今私自身が言ったときに気が付いた。


「そう、二日前は神社で祭りがあった。実のところ術にかかった他の人もみんなその祭りに行っていたのさ」


 そうなると神社で行われた祭りが無関係ということはもうできないだろう。確実にあの祭りが、あるいはあの祭りがあった会場のどこかが関係しているということになる。


「さらに言うと、被害は現界からしか出ていない。今回の件を抜いてすべて一般人の中から」


 つまり無差別ではない? 何か確実で明確な理由を持っているということだろうか。

 しかし仮に犯人を異界の者だとした場合彼らの目的は何だろう。異界で戦争を起こさせようとした報復ということが現状最も関係してくるのかもしれないが、それに関しては花京院と鬼龍院の双方が厳重な規制を行っている。

 というのもその情報が漏洩してはどちらかの世界が消滅する可能性が高いからだ。

 それに派閥をあげて今も警戒を敷いている二大派閥の目をかいくぐって行動するというのはあまりにも危険が大きすぎる。

 考え得る限り犯人には行動を起こすメリットというものが見当たらないのだ。


「……おかしいよね」


 そして何より忘れてはいけないのは術者は西洋系統の術式を使ったということ。となるとそもそも現界、異界という関連性はなくなってくるのかもしれない。


「まぁ、花撫は分からなかったのかもだけど確かに痕跡は残ってた。幸いといったらいけないけど今回は嗅ぎ取れた。多分初心者なんじゃないかな」


 そうだとすれば比較的安心はできるのだろうか。


「当然楽観視はできないけどね、それと花撫にはついて来てほしいんだよ。個人的にではなくて状況的に」


 それもそうなのだろう。鈴蘭は初心者といったがそれは鈴蘭にとってであって私達にとってではない。付け加えるのならば鈴蘭だけしか残る痕跡を発見できていない。つまり、少なくとも私達よりかはかなり高位な術者ということに他ならないだろう。


「そこまで言うならついていくけど、私は何も出来ないよ」


 鈴蘭がわかる痕跡を私はつかめないくらいだ。ただ鈴蘭がそんな私が必要というのなら私に断る理由はない。でも、何もできないことには変わりない。

 これはアマテラスにお願いするしかないのかもしれないのだが……肝心のアマテラスはあの祭りの日から神社にきていない。関係ないのかもしれないが今回ばかりは頼ることはできないのかもしれない。


「……話が通じるやつならいいんだけどな。そうじゃなかった場合は少し覚悟はしといてくれな」


「……うん」


 いわゆる仕方のないこととして受け止めるしかないのだろう。もとより私には決定権自体ないのだから文句を言える立場ではない。

 でも、出来る事なら無駄な犠牲というものは出したくはない。私にできることを私にできる範囲で精一杯。

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