第五十二話

「それで、幻成。どうしてこんなことになってるんだ?」


 鈴蘭が私の隣りに座りながら幻成に尋ねる。


「一言でいうと我らにも理解ができないのです」


 今度は後ろの障子が開き幻成の従者が湯吞みを鈴蘭の前に置く。


「あぁ、ありがとう。逆探知は?」


「しましたが、結果が定まらないのです」


「まぁ、だろうな。これ、正攻法でどうにかなるもんじゃないし」


「そ、それはどういう……」


「花撫は薄々気づいてるんじゃない?」


「……うん。これ、霊術とは術式の組み方が違う気がする。どこがっていうのがあるわけじゃないけど」


 何より琴葉ことのは家はかなり昔から霊術に関わってきている。それは相当な数の術式に触れている。そんな一族がただの妨害術式で翻弄されるわけがない。

 どんなに隠しても隠し切れないものは少なからず出てくる、術式を展開しているのならなおのこと。それなのに探知できないというのは未知であるということ。

 とはいえかなりの家だから知らないというよりかは系統が違うと考えるのが自然なのかもしれない。

 そして私がここに来た時に感じた違和感と、その後のお孫さんを見た時に感じた気配は私の知っている術式とは構成が違う……そんな気がした。


「そ、これ。系統が違うんだよ、これは日本の霊術や東洋の術式じゃない。おそらく欧州、ヨーロッパ圏の魔術あるいは魔法の類だろうな。それを東洋の術式で探知しようとしても特定できないのは道理だ」


 東洋の霊術と対をなす西洋の魔法、魔術、それらは決して相容れない、反発し対立する。しかしてその根本になっているものは大して変わらない……らしい。

 少し前に読んだ文献にはそんなことが書いてあった。鈴蘭にも似たようなことを言われたっけ?


「付け加えると、魔術、魔法を解除するのは魔術と魔法だけ……幻成、奥の子に術をかけたか?」


 突如机を叩き鈴蘭が立ち上がる。


 驚いた拍子に持っていた湯吞みを落としそうになり慌てて持ち直す。


「いきなりどうしたの?」


「前に言ったろ。霊術と魔術は反発する、反発すると解除するのが困難になる、ぶつかればぶつかるほど互いに強固になっていく」


 やっぱり聞いていたのか。いわゆる目には目を歯には歯をということだろう。

 つまり、ここまで大きくなってしまっている原因は……。


「も、もしや、ここまでの事態になったのは我々のせい……申し訳ありません、鈴蘭様」


 畳に頭をつけ全力で土下座をする幻成。


「いや、お前のせいじゃない……実はだな、これ今回が初めてじゃないんだよ」


「は? それはいったい?」


「今この街ではこれと似た現象はいくつも起きている」


「待って待って、ならもっと話題になっているでしょ? 私今日までそんな話題聞いたこともないよ」


 ここまで大きな災害規模の現象が起こっているとしたら必ず話題になる。だってこれは大地震と変わらないくらいの霊流の乱れだ。

 おそらく常人には意味が分からない、原因不明とはなるだろうけどそれでも確かにこの現界に影響を及ぼして然るべきもの。

 となればニュースになるはず、なれば噂になるだろうし歪曲しても耳には入るはずなのだ。


「あぁ、だからなんとかして押さえ込んでいた。今までのはここまで大きくはなかった、そもそも霊術に関係を持たない相手ならば霊術や魔術というのはあまり関係ない、大きく呪術という括りでどうにか対処はできていた。少なくともそれで何とかなっていた」


「今回は霊術に関係する人がかかったからここまでの事態になっているってこと?」


「そう、というか今回の術はそこまで強力じゃない。どちらかの術に精通しているのならかかるはずもない術だった。こうなってくると解けるのはおそらく術者本人だけだ」


「つまり、術者本人を見つけないとあの子は助からない?」


「あぁ、最悪殺しても構わなかったんだが……どうにもそういうわけにはいかなくなった。どうにかして見つけるしかないな」

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