第三十一話
「花撫、今日はデパートに行くのでしょ。私とても楽しみです」
なんだかんだあって今日は白夜と一緒にデパートに行くことになった。
アマテラスも鈴蘭も用事があるとかどうとか言って昨日のうちに立ち去ってから一度も見ていない。
仮にも状況は良いとは言い切れない、むしろ少し、いやかなり悪いことになっているだろう。
ここで手を打っておかなければおそらく戦争は回避することができなくなってしまう。現状結構追い込まれているのだろう。
当然私達も手伝おうとは言った、のだが断られた。
というのも、この状況で白夜の存在が露呈しては計画も何もなくなってしまうからデパートでも案内してやってくれ、とのことだった。
「まぁ、その方が安全なのかな……」
体のいい厄介払いなのかもしれないが、まぁそれはないのかもしれない。
私はともかく白夜を今の状況で異界を行動させるのはリスクが高すぎる。しかし理由が無ければ白夜は必ず同行すると言い張るだろう。
つまり私を使って彼女をこっちに引き留めておく、というのは鈴蘭の考えそうなことだ。
それに現界においておけば、更にはデパートなどの大型施設に行けばよほどのことがない限り襲われることはない。
本当に素直じゃない仙人様だこと。
「花撫、早くいきましょう!」
興奮しているのか私を巫女服のままデパートへと連れて行こうとする白夜。それはそれはとてもいい笑顔をしている。
しかし流石にこの格好で出歩く場所ではない。
「わかったから、もう少し待ってて」
こういう時だからこその息抜き、そうとらえておこう。
それに無暗に動いたところでそれは鈴蘭達の邪魔にしかならないだろう。
今日はゆっくりと羽を伸ばそう。
面倒くさいことは全部忘れて。
***
「……へぇ。白夜はこっちに来るのは初めてなんだ」
デパートを一通り回り、今はフードコートで昼食をとっている。
「はい、こちらはすごいですね。こんなにもたくさんの料理が一か所に集まっているなんて」
まぁ、確かに異界にはこういった大型の複合施設というのはないのだろう。
聞く話によると時代の流れ自体がこっちでいうところの江戸時代あたりで止まっているとのことだし。
「……でも、だからってわざわざ全部頼むこともないでしょ」
白夜は端から端までのすべての店のメニューを余すことなくすべて注文した。おかげで私達は2人しかいないのにテーブルを3つも占拠するなんてことになっている。
幸いにも今日は平日だがこれが休日だったら大変なことになっていた。
とはいえこの状況も流石に目立つ。周りからの視線が突き刺さる。
「いえ、もしかしたら今日しか来れないかもしれませんし。頼めるときに頼んでおかなくては。私は後悔はしたくないので」
「ん? この件が終わってからこちにくることはできないの?」
「う~ん、微妙なところです、異界では現界への干渉をよしとはしませんから。本来なら私もここに来ることはできませんから。まぁ、そもそも結界を突破しないことにはどうにもなりません」
「結界、ね。実際どうなの? その結界ってどれくらい機能してるの?」
何というか正直あまり機能していないように思う。なんだかんだ言って向こうの連中がかなり入り込んできているように思う。
「結界自体は十分すぎる程に機能していますよ。私達が例外なんです」
いや、まぁ確かにそうなのだろう。さっきから聞いているとどうにも結界にはそれなりの力がないと干渉できないようになっているのだろう。
というかそれだとこっちに来るのは向こうでもかなりの力を持っているってこと、そこらへんもどうにかしてもらわなければ安心して寝ることすらできなくなりそうだ。
「そもそも、私のような一介の妖怪にどうこうできる代物ではないですから。あの大結界は」
「ん? それなら白夜はどうやってこっちに来たの?」
そもそも干渉することができないのならそれを利用する、ましては使いこなすなんてことはできるはずがない。
「それには私の家系が関係してるんです。えぇっと、どこから話せばいいんでしょう」
白夜はしばらくの間、買った料理を頬張りながら考えているようだ。
この子はどんな時でも一度食べ始めたら食べきるまで食べる。これはしばらく待つ……というか私の頼んだ料理はまだできないの?
未だに鳴らないブザーを軽く
本当にこの小さな体のどこにこれほどの料理が入るのだろうか。
そして三分の一のお皿が空になった時私のブザーがようやく鳴り、それと同時に白夜も口を開いたのだ。
最初に料理を取りに行かせてもらい帰ってきたときには既に机の三分の二は片付いており、それには若干の戦慄を隠せなかった。
「えぇっとですね。元々鬼龍院家は異界の中でも弱小で、異界の地を転々としていたんです。それでも今では異界でも有数の地位を確立させるまでに成長させたのは初代当主、鬼龍院神楽の力にほかならない。そもそも鬼龍院という家名も初代が当時の有力派閥に功績を認められた時に授かったもの」
よくあるのかどうかは分からないけれどいわゆる成り上がりというものだろう。
「そして、初代はその時にその派閥から結界の維持を任されたんです。以降その派閥が壊滅するまでの間私達の一族は結界の維持をしていたんです。ですから異界の中では一二を争うくらいには結界についての知識と情報があるんです」
成程、だとすれば鏡夜がこちらに刺客を送り込めるのも頷ける。
「でも、なら普通に来れるじゃん」
「う~ん、それは私達が決めれるものじゃないですし……」
今回の件で異界と現界との関係がどう変わるか、でも何となくそこらへんは気にしなくてもいいような気がする。
「ならさ、次の予定を立てようよ!」
いつも間にかなくなっていたお皿を片付けて再び白夜とデパートを探索する。
ここまでリラックスできたのはいつぶりだろうか。顔には自然と笑みがこぼれていた。
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