第三十話
「よくない噂ですか?」
そもそも噂というもの自体内容のいいものなんてないと思うのだけれど。
「はい、この戦争自体作為的に起こされたといった噂です」
白夜はとんでもないことを何食わぬ顔で言い放つ。
いや、でもそれが真理ではないのか。そもそも戦争なんてものが起こるのは意見の食い違いがいくところまでいった結果。過剰な話し合いの成れの果てである。
少なくともそこには多くの思惑や思考が錯誤するわけで。
「それは私も聞いたことがある。時期が時期だったからな、しかしその証拠があるのか?」
そしてまたしても私以外の全員は知っているというのが当然のようだ。
「いえ、今のところは……しかし私の叔父が何者かと結託しようとしているということはつかみました」
つまり、今回の放火はそれが理由になるのだろう。
白夜を殺そうとしていたのも、ひいては私や鈴蘭に手を出そうとしていたのも。
何か知られたら都合の悪いことがあるのだ。
「ご報告いたします」
またしてもアマテラスの隣に音もなく出現する若竹。
「なにか新たな情報かの?」
「はい、鬼龍院鏡夜の監視につかせていた
そうして、アマテラスに紙を手渡す。
「鏡夜に動きあり、数日中に秘密裏に会議が開かれる模様。相手は……」
紙を読み上げていたアマテラスの顔が驚愕の色に染まる。その様子を見た鈴蘭が不思議そうにその紙をのぞき込む。
「なっ、
この2人が絶句するまでの相手なのだろうか。
やはり、勉強不足である。勉強しようとは思っているけれどなんせ勉強する手段がないのだ。図書館で借りられる本には限りがあるし、その本には異界あるいは冥界のことなんて全くと言っていいほど書かれていない。書かれてあってもそれは著者の妄想や空想あるいは幻想でしかない。
実際に冥界になんていけないし行ったらまず帰ってこれないと言われているし仕方のないことなのかもしれないけれど、やはり知識はつけておいて損はない、というのはいつの時代でも一般常識なのだ。
そしてそれは確かだ、変わりようのない事実、変えることは出来ない真実である。
「そ、それは本当ですか?」
今の報告を聞いて白夜も物凄く慌てている。しかし一体何者なんだろう、その花京院杏香なる存在は。
ここまで強者の揃うこの場を一瞬で騒然とさせるほどの存在。
「花撫、知らないのか?」
鈴蘭が私に向き直り驚いた顔をする。いや、そんな顔をされましても……。
「逆に何で知ってるの?」
「全く、あのバカは何も教えてないんだな。今度締め直すか」
鈴蘭が盛大に落胆のため息を吐く。
「まぁ、無理もないのじゃ」
アマテラスは仕方なさそうに首を左右に振る。
そこへ白夜が付け加える。
「花京院家、異界の中でも別格の強さを誇る鬼、その元締めにして酒吞童子の
「……はぁ?」
酒吞童子の末裔? それに東軍総大将?
一体何がどういうことだろう、理解が混乱で追いつかない。
「これはますます作為的に起こされた戦争だって認めざるを得ないな」
「それにしてもあの方が叔父の提案に乗るとは思えないのですが……」
「大方何か考えがあるんだろうな……」
腕を組む考えをめぐらしているであろう鈴蘭。
「闇雲に突っ込むわけにはいかないよな。流石に酒吞童子が相手となると分が悪い」
「ねぇ、鈴蘭。酒吞童子ってどれくらい強いの?」
それは根本的な疑問だ。
確かに鬼の元締めと言えばかなりの強さなんだろう。それこそここにいる過半数が驚くほどの強さなのだろう。
なんせ鬼といえば私達人間とは比べ物にならない。雑巾を絞る容量で人間を絞れるようなイメージさえある。
「分からないんだよな、それが」
「……はっ?」
「酒吞童子の強さは勿論、鬼ってとこにもあるんだけどもう1つ強力な能力を持ってるんだよ」
分かるか、と目で尋ねている。
「酒呑童子って言うくらいだからお酒を呑めば強くなる、とかそんな感じ?」
「正解。あの一族は酒を飲めば飲むほど強くなる。だから誰も限界を知らない。どこまでいくのか想像もつかない、だから
えぇ、何それ怖い。限界を知らない鬼、そもそも限界という概念が存在しないかもしれないなど恐怖の象徴以外の何物でもない。そんなのが東軍の総大将をやってるというのか。
というかそんな反則技ある? 上限のない強さなんてそんなのどう対処しろっていうのだろう。
「……もしかしてそれって固有能力?」
「そうだな。確か、『酒豪の血』って名前だったかな。でもまぁ、酒さえ飲ませなければ普通の鬼より少し強いだけだからこれまた何とも言えないんだけどな」
そうは言っても普通の鬼ですらかなり危険な分類に入ると思うのだけれど。
それにしても血縁関係が権力に深く関わってくるんだな、異界は。
しかし、そんなのとやりあっている西軍の総大将はどんな感じなのだろうか。やはり並外れた能力を持っているのだろうか。
「どんな感じも何も、さっきから会話に出てきてるじゃないか」
会話に出てきている?
さっきから出てきているのなんて……。
「はい、私の叔父です」
「……えっ? 本当に?」
黙って頷く他3名。
ようやっと事の重大性が分かった。確かにそれは問題しかない。両軍の総大将が何の理由もなしに会議を開くはずもない。
それに秘密裏ということは公にはできないもの。
「そういうことじゃ。本当につくづく面倒じゃ、妾が出向けば一発じゃというのに」
不満そうに頬を膨らませるアマテラス。
「しかたないの、タケ。より詳しく調べてくるのじゃ」
というか、まだ居たんですね。すっかり気配が無いものだからもうどこかに行っているのかと思ってしまった。
「御意」
そして、いつの間にか開いていた天井の穴へと飛び去った。来る時もあの穴を使ったのだろう。
あの穴、ちゃんと元に戻してくれますよね……。
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