第三十二話

 白夜の屋敷が全焼するという事件から既に2日が経過した。未だに犯人は分かっていないが今日は朝早くからこうして招集がかけられています。


「それでは、ゲートを開くのじゃ」


「どこに開くんですか?」


「ひ・み・つ・じゃ」


 アマテラスがくちびるに人差し指をそえてにっこり微笑む。


「…………」


 アマテラスがどこか楽しそうなこの顔をするときは決まってよくないことが起こる。これは予感じゃない、実感というかもはや確定事項。

 避けられない運命あるいは宿命と言っても過言ではない。


 みれば後ろの2人もどこか諦めた表情をして首を振っている。もうなるようにしかならないのだろう。

 ここ数日で白夜もアマテラスのある意味でのとんでもなさを知って驚きを隠せないようだった。


 曰く異界で信仰されているその姿とは似ても似つかないそうで、まぁ、それを言うなら現界での信仰とも全く別物だ。

 案外信仰とは私が思っているよりも雑なものなのかもしれない。


「ほら、行くぞ」


 鈴蘭に言われるがままにアマテラスの開いたゲートをくぐるとそこにはすでに先客がいたらしく驚いた表情でこちらを見て固まっている。


 なんてところにゲートを展開していいるのだろうあの女神は。しかし振り返ってもそこには白い壁があるだけだった。早々と術の展開を切ったようだ。


 ちなみにアマテラスは直接的な干渉はできないからと言ってゲートだけを開いていたのだ。おそらく今は神主をからかいにでも行っているのだろう。

ゲートを開くだけでも十分すぎるほどの干渉だとは思うが本人が言うにはこの術は妾以外にも使える者がいるから問題ないのじゃ、とのことで。


「流石アマちゃん、座標ぴったり。さぁ、話を続けて構わんぞ、鬼龍院鏡夜、花京院杏香」


 鈴蘭の口からとんでもない言葉が飛び出てきた。


「なっ……」


 つまり、この目の前にいるのが両軍の総大将ということ……それにしては何というか物凄く若く見えるのだけれど、もっと年を食った老人のようなのが出てくるのだと思っていたのだけれど……ってそうではなくて何でいきなりそんなところに出てきているの。色々準備とかしてないじゃん。

 いきなり敵陣の本陣に突っ込むなんて色々と無しでしょ。


「準備してても花撫は反対するだろ。それにそれとなく準備はしている」


 それとなくって……。


「じゃあ、鈴蘭は知ってたの」


 わざわざアマテラスが会議の真っ只中にそこへゲートを展開することを。


「すみません。花撫以外は知ってます。私は鈴蘭様がここに開くように頼んでいたのを偶然耳にしただけですが……」


 申し訳なさそうに白夜がそう告げる。つまりは私抜きで話し合いが進みこうなったということか。いや、白夜は参加していたわけではなのか。


 それだとしてもちゃんと話してくれればいいのに。

 いや、でも話されてたら間違いなく反対していたような気がする。


「なぁに、装備だけが準備じゃないんだぜ、花撫」


 どことなく自慢げにそう告げる鈴蘭。


てか私が止めても絶対に辞めないじゃん。

 だったら最初から言っておいてもらった方がまだいい。諦めがつくというものだ。


「……この部屋には防御結界がかけてあるのだが」


 白髪の男が声を上げ、一歩前へと歩み寄る。


 見た感じ特に目立ったものは何も持っていない、反対に刀を持った赤髪の女性は後ろへと下がる。


「術をかけるんだったら、もう少し隠蔽をしておくべきだったな。ここだけ空間が捻じれてたから見つけるの簡単だったよ」


 なんか相手方の求めている答えとは若干違う気がするのは私だけだろうか。


 というか、そもそも結界にはノーマルな状態でも認識阻害が付くんじゃないっけ?

 だとしたら鈴蘭はどうやってここを見つけたんだろう?


「ふっ、流石は残虐の黒百合といったところか」


「納得しちゃったし……」


 というか残虐の黒百合って何? 鈴蘭の別称か何か?


 それにしても穏やかではない別称だ。残虐なんてもっともだし黒百合というのも、実際の花は綺麗だ。けど、確か花言葉が……。


 とにかく穏やかでは無い。


「案外あれで、頭が足りないところがあるんです、私の叔父は……」


 白夜がコッソリと私に耳打ちをする。


「そんなのが総大将なんて務まるんですか?」


 かなり怪しい。それこそ誰かの力を借りないと対応できなそうだ。


「それ、今回の戦争の七不思議です」


 2人揃ってクスクスと笑っていると。


「仲がいいのは結構だけど、後にしてくれないか……」


 鈴蘭が困った表情でこちらを見ている。


「あ、ごめん。おとなしくしてます」


「それで、わざわざ仙人様がこんなところまで何の用ですか?」


 最初こそ驚いていたようだが、すっかり自分のペースを取り戻したようだ。鏡夜はすでに余裕の表情を浮かべている。


 しかし、何かおかしい気がする。


「こっちの方は気にしないでいいよ。ただの観客だと思ってささっと話し合いは再開してくれて構わないよ」


「ふっ、ははは。なぜあんたがここにいるかは置いといても、ここに両軍の総大将がいる時点で会議は終わったようなもの。いまさら何をしようというのだ」


 鏡夜の顔はここぞとばかりに生き生きとしている。


 というかこの人本当に西軍の総大将なの?

 どうにもそんな風には見えない。


 そんな中、鈴蘭がチラッと天井を見上げた。


 まるで何かを確認するかのように。


 しかしそれも一瞬で次には鏡夜に向き直る。


「何をするってこのくだらない戦争を終わらせるのです。それ以外になにかあるのですか?」


 そこで口を開いたのは鈴蘭ではなく花京院杏香だった。


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