第四十六話
「あれが空間断裂、あれこそがこの神社に訪れている危機じゃ」
空間断裂? 今日は本当に訳の分からない言葉ばかり出てくる。
「存在するもの、したものをなかったことにする世界の代行者、存在としては妾達に近いもの、というのが妥当かの」
「…………」
「簡単に言うのなら今のが世界の強制力じゃ。あの力に飲まれればまずここに帰ってくることはできんのじゃ、妾であっても帰ってくるのは困難であろうな」
今の状況は何となく理解はしたけれどそんな力がどうしてあんなちんけなメガホンにかかったのだろう。
術式の使えない空間での術式、その時点でおかしなことだ。更には本来なら今もうこの空間は消滅しているのではないのか。
「ただでさえ空間が不安定なところに新たな危険因子が生まれたのじゃ。厄介ごとになる前に因子を排除するのは当然なのじゃ」
「そんな言い方まるで……」
「まるで世界に意思があるようだ、かの?」
まさしくその通りである。
まるで世界そのものが1つの意思を持っていてその意思に反するものを排除する。1つの大きな社会のような、そこに働く心理のような。
空間自体に自我があるとでも言いたいようだ。
「正直そこは妾達にも分からん、確かめたことはないし確かめようがないからの。じゃが今見たように確かな力が働くのじゃ」
そんな無茶苦茶な。神ですら理解ができない絶対的な力、そんな都合のいいものが存在していいのか。
いや、でも神のような力を持つものも存在している。存在ができているということはそういう力は確かに有り、それ以上にそのものよりも上位の存在がいるかもしれないということの証明にもなる。
「それが世の中というのもじゃ、しかし確かにそういう力が必要なのもまた事実じゃ」
「……そういうものですか」
多分私がいくら考えても仕方のないことなのだろう。
納得はできないけれど受け入れるしかないことなのだろう。
「でも、術式は展開していたんですよね、なんでメガホンだけが吸い込まれたんですか?」
術を展開したのは私自身だ、問題となる因子としては私の方がはるかに大きいような気がする。とはいえ空間自体が崩壊していてはそんなことは気にならないのだが私は今もこうしてこの地に立っている。
「言った通りあれは疑似術式じゃ。本当の術式とは全く別物じゃ、あの術式には本来の術式の約数十分の一程度しか力はない。じゃがそれが何故か突然花撫の前に現れてそれをが使い通常の術式と同程度の威力を発揮した。この場合一番危険なのはなんじゃ?」
そんなの疑似術式を何倍にも膨れ上がらせた私以外にないだろう。でもだとしたら尚更私は消滅しているはずだ。
この空間では基本的に術を発動できない、正確には発動をさせると空間が消滅する。だから、アマテラスも鈴蘭も意識的に術を使用しないようにしていた……。
「まさか、術式を展開した本人ではなくその術式を展開する要因となったもの……」
あのメガホンを知らなかった私は無意識に術を発動させた。つまり私は意識して術を展開したのではない、簡単に言えば勝手に暴発した
でもそうすると本当に世界に自我があるといわざるを得ない。
そうだとすればあのタイミングで私が明確な意識をもって術式を発動していたら。
「花撫が意識せずに発動させたこと、それになにより花撫はこの空間において異分子であり調整因子。それが機能しなくては勿論この空間は消滅するのじゃ。つまり、メガホンがあったから花撫は術を発動させてしまった、そして空間を乱したのは本来なら展開しないはずの術を暴発させたメガホンというところに帰着する」
流石にそれは暴論というものではないか。
「そうやってバランスを取った、取るしかなかったのじゃろうな。もし花撫がこの空間の調整因子ではなかったらおそらく一緒に排除されておったじゃろ、だから言ったのじゃ、運が良かったと」
確かに運が良かった。
でも疑問は残る、どうしてそこまでして私を残すのか。新たな調整因子を作り出せばいいのではないか?
決して自分が消滅したいというわけではないけれど正直気になるところである。
「一つの空間が消滅するにしてもなんの代償も無く消滅させるということは出来んのじゃ」
空間を消滅させる為の代償。
確かに何かをする為には何かを犠牲にしなくてはいけない。利益を得るにしても利益を得る為の代償や損害が必要になる、というところだろうか。
「この空間が消滅すればこの空間の損失部分を補填をする必要が出てくる、ただでさえ消滅に膨大なエネルギーを消費しているのにそこに更に問題を積んだらどうなるかは自明じゃろ」
無論、間違いなく消滅はこの空間だけに留まらない。おそらくその周辺は巻き込んでしまうだろう。そしてさらにその消滅が……。
つまりは最悪この世界丸ごとが消滅する可能性も無くはないということ。
何だかとんでもない話になってきている。
「何で、私はこの空間の調整因子なんかに選ばれたんです?」
ここまで事態が大きくなるとは思ってもいなかったし、そもそもそんなものになりたいなんて思ったことは無い。
元を正せばこの事態の根本にあるのは異界と現界の関係なのだけれど、流石に事が大きくなりすぎている。
到底私の手に負える様なものでは無い。そもそも一介の巫女がそれぞれの空間の調律をするという事態が既に異様なのだ。
「それこそ、言い方は悪いが気まぐれと言うやつじゃ。花撫がそうなったのは誰かが望んだ結果では無い、そうなる運命だったと言うことしか出来んのじゃ」
「そんな身勝手な……」
「しかし、決まった以上一度収束しなくてはそもそも話にならんのじゃ」
「……もう一度、これは偶然ですか。それとも必然だったんですか?」
「偶然起こった必然じゃ、もとより妾に干渉の出来るものでは無い」
神にすら干渉出来ない事態。それこそこの世界の意思というものなのか。
どんなに嘆いてもこの事実は変わらない。
どんな理屈を
とんだ厄介事に絡んでしまったものだ。
「はぁ、そうですか。とりあえずこの人たちを片しましょう」
「うむ、その程度なら造作もないのじゃ」
アマテラスはどこまでも明るい笑みを浮かべ次々と妖怪、幽霊、人間を運んでいく。
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