第四十五話

 メガホンに向かって出来る限りの大声で叫ぶ。


 勿論この程度で収まるような状態ではない……はずだったんだけど。

 どういう訳か手前からバタバタと人が倒れていく。それも突然、何の脈略もなく。その様子は軽くホラーの雰囲気を醸し出していた。


 大丈夫だよね、倒れた人達、怪我とかしてないよね。


 というか一体何なのこのメガホン。

 それとも私が何かしたのだろうか。だとしたら無意識にこんなことを引き起こしたということになる、それはそれで相当問題がある。

 というか次から次へと問題のあることばかり、それに全て私が関わっているというのが解せない。


 かいつまんでいうならば、結局どうしようもないくらいにピンチな状況に陥ったということだ。


「じゃから話を聞けと言っておるのじゃ。それは普通のメガホンではない、それは再現術式の発生装置じゃ」


「再現術式? 発生装置?」


 とりあえず状況の整理をして……うん、駄目だ。何もわからないよ。

 お手上げもいいところである。

 というか再現術式って何? 問題はそこからである、そもそも術式に関しても常人が少しかじった程度の知識しかない。むしろ全くないと言っても過言ではない。


「普通は疑似術式と言うのかの、とにかくそれをこのメガホンには組み込んでおるのじゃ。さっきの現象はそういうことじゃ、これには軽めの疑似衝撃術式を組んであったのじゃ。他にもいろいろとあるが今回は偶然それだったの」


 つまり、妖怪や人が次々と倒れたのはその衝撃によって失神したということだろうか。しかし何で幽霊までも失神しているのだろう、実体がないのだからただ通り抜けるだけではないのか。


「言ったじゃろ、これは疑似的な術式じゃ、つまり発生させた衝撃波には花撫の霊力も乗る」


 なるほど、確かに霊力ならば幽霊にも干渉できる。


 幽霊はその場の霊力量に干渉し影響することでその姿を保つ。どういう原理なのかなんて考えちゃいけない。そういうものなのだ。


「まぁ、そもそも乱闘に参加していたのだから衝撃波は普通に届くんじゃがの」


 あれ? でも、例え疑似でも術式は術式に変わりはないのではないだろうか。とすればかなり問題があるのではないだろうか。

 今の術式で空間に歪みが生じてしまったらここら一帯が文字通り地図から消える。

 それにそもそもこの空間では術式というもの自体使うことができないはずなのだ。


「幸か不幸か。偶然にしては割かし幸運かの。そろそろそのメガホン地面に置いた方が良いのじゃ」


「へ? 何で?」


「いいから、急ぐのじゃ。消滅したいのか?」


 訳が分からないけれどとりあえず地面にメガホンを置く。アマテラスがそう言うのだ、おいておくに越したことはないだろう。


「少し離れるのじゃ。吸い込まれる」


 一体何が起ころうとしているだろうか。というか吸い込まれるって何に?


「あれに、じゃ」


 アマテラスがメガホンを指し、それからしばらくしてメガホンの丁度真ん中辺りがまるで溶けるかのように歪んでいく。そして突然メガホンの方に向かって空気が流れ始め、黒い穴のようなものが開く、その穴は途轍とてつもない程に黒い。

 まるで何もかもを飲み込んでしまうような気がした。そのまま何かを確かめるように数秒が経過し突然物凄い勢いで穴に向かって空気が流れた。


「――っ!」


 瞬く間にメガホンがその場から消えた。本当に一瞬のことだ。


 メガホンを吸い込みぽっかりと開いた真っ黒い穴。それを覆い隠すように周りの景色が歪む。

 しばらくするとそこには何も残っていなかった。空気の流れもなくなり何事もなかったかのような静寂が辺りを支配する。


「…………」


 あまりの出来事に声が出せない。いまだに何が起きていたのか、処理が追いつかない。

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