第四十三話

「…………」


 私は開けた玄関の扉を無意識のうちに閉じていた。


 そう。きっと何かの見間違いだろう。

 そうさ。今日も世界は変わらず回り続ける。


 それは当たり前のこと。世界が時間が回るのは至って普通のこと。

 当然の事で必然の事変わることの無い世界の理……のはずだ。


 息を吐いて再び玄関の扉を開ける。


「……本当に、暇人しか居ないんですか?」


 そんな愚痴が知らず知らずのうちに私の口からこぼれ落ちる。


 目の前に広がる光景は昨日と変わらない。

 相変わらず沢山の妖怪や幽霊が行き交い飛び交い、屋台も変わらず健在している。


「今日は水曜日ですよね、何の変哲もない水曜日ですよね?」


「そうじゃの、これと言って何も無い水曜日じゃ」


 またしても音もなく……以下略。


「どういうこと?」


 昨日で終わりじゃないの?

 私はてっきり昨日限りのことだとばかり思っていた。


「さぁ、それだけ花撫が人気ということじゃ。悪いことではないのじゃ」


 こんなのじゃ、昨日夕方前に終わったと喜んでいた自分が馬鹿みたいじゃないか。また今日も昨日のように端から端まで引っ張りだこなんだろう。

 もう、裏で打ち合わせとかしてるんじゃないだろうか、ドッキリの一種なんじゃないだろうか。


 お願いだからそうであって欲しい。


「花撫、現実を見るのじゃ」


 さとすように肩に手が置かれる。

 これが現実なら笑っていられるはずない。


 そうだ、これは夢だ。きっと悪い夢、悪夢に違いない。うん、そうだよね、こんなに都合が悪いわけないじゃん。


「って、痛い痛い痛いでふ」


 何の脈略もなくアマテラスが私の両頬をつねる。


「残念じゃが現実じゃぞ」


「お願いれふから、ひゅめでふまへてくらさい」


 ……頬を引っ張られていると全然声を出せないんですね。

 なんてどうでもいいことが分かった。


 それよりも普通に痛いので放してください。

 というか神の力でなんとかできないんですか。それが一番簡単だと思うのですけど。


「どう頑張っても無理なものは無理じゃ、ちゃっちゃと認めるのが一番簡単じゃ。時として諦めも肝心じゃ、それに下手に動けば妾の存在が消滅しかねん」


 アマテラスほどの神を消滅させられる程のものがどこにいるというのだろう。

 そんなものがいるのだとしたらそれこそ世界の終焉も間近に迫っているということに他ならないだろう。


「ほれで、いつまれ摘んてるんでふ?」


「おっと、すまんのじゃ。とても柔らかくての。それにそのうちわかるのじゃ」


 笑いながらパッと手を離す。

 両頬をさすっていると何やら外が騒がしくなってきた。


「……面倒事だけは勘弁ですよ」


 そうは口ずさむけれど、もう既に分かっている。

 今から起ころうとしていることは確実に面倒事だということが。

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