第四十一話
「あれ? でも、結界の中にいるのに私は普通に妖怪として見えてますよね」
それっておかしいのではないだろうか。元々こちらにいれば異界の者達はただの人間としか認識できないはずだ。でも私は普通に人間と妖怪、幽霊の区別がついている。
「それが問題なのじゃ。今、この場所は水面のように不安定じゃ、ちょっとした事で波紋が生まれてしまう。波紋が生まれた場合、最悪この空間が歪みどちらからも切り離される。妾がここへ来た時も若干空間が歪んだのじゃ、普段そんなことは無いのじゃ」
「空間が切り離される? 歪む?」
不穏な空気が拡がりつつある。
私、この空気すごく嫌いだ、昔から何かとこの様な空気になっては私は面倒事に巻き込まれた。というか、私の周りでばかりこういった空気がよく発生するのだ。
一体私が何をしたのだろうか、何もしてないよね?
「端的に言えばどちらの世界にも属さなくなるということじゃ、そしていずれ消滅する」
「えっ?」
今、アマテラスはなんて言った?
「消滅、ですか?」
「うむ、神社周辺だけでは空間維持力はさほど無い。それが源泉であろうとなんであろうと原型を保てなくなるのは道理じゃ。感覚としては2つの世界に押しつぶされ存在がなくなると言った感じかの」
さて、どうしたものか。
私のこの性質はどうにかならないのだろうか、本当に最近発生頻度が多い。下手すると周りまで巻き込んでしまうのではないか。
「だとしたら尚更私がいたらダメなんじゃ……」
ただでさえ不安定な場所に私がいては新たな波紋を作り出してしまう危険性が高い。私はこの空間世界では異分子。
異分子というものは排除されるか排除するかの二者択一。何もしなければ私が排除され、何かすれば世界が崩壊する。
……完全に詰みだ。何をしても終わりしかない。
「逆じゃよ逆。花撫が居なくてはいけないなのじゃ。むしろ波紋を作り出さねばいけないのじゃ」
「ど、どういうことですか?」
私の存在自体が波紋を起こし、その波紋がこの場を調整する、ということ?
でも、波紋が生まれればこの空間は消滅するんじゃないの?
「今、この状況で花撫が排除されないということはこの空間では花撫は元々異分子として存在しているのじゃ。存在しているということはすなわち必要であるということなのじゃ。じゃから花撫がここにいても問題は無い、むしろ居なくてはならないのじゃ。花撫がここにいる理由はこの空間の波紋をなるべく起きないようにすることなのじゃ。それは妾にも出来ない花撫にしか出来ないことじゃ、なんせこの空間では術は使えんからの」
「つまり?」
神ですら出来ないことをやってくれなど無謀もいいところなのだけれど。
一体何をさせる気なのだろうか、というか何も出来ないんですがそれはどうすれば……。
「問題が起きる前に解決しなるべく波が立たないようにするのが花撫の使命じゃ、とは言っても別に普通にしていれば問題は起こらないのじゃ、じゃから楽しむのじゃ花撫。なんであれ楽しんだ者勝ちじゃ」
「あっ、ちょ、まっ……」
そうしてまた問答無用に引きずられて行くなかで今の発言が問題を起こさないことに期待、希望しておこう。
いくら私がこういった出来事に頻繁に遭遇する性質を持っているとは言っても疲れるものは疲れるのだ。本当に誰かどうにかしてくれないものだろうか。
「それで、結局私は何をすればいいんですか?」
「別にこれといってはないの。正直、この場に居てくれればそれでいい」
「……随分と適当ですね」
「まぁ、何かあれば妾や鈴蘭が対応できる範囲で対応するのじゃ。困るのは花撫が結界範囲外へ出てしまうこと、この空間内から花撫の存在を消失することじゃ」
つまり、私がここにいて死ななければいいということ、なんだろうかなり物騒な事に巻き込まれている予感がする。
「……問題しかないじゃん」
それよりも波紋に波紋をぶつけても相殺するのではなく新たな波紋を作り出すだけではないだろうか。本当に大丈夫なのだろうか。
気になれば気になるほど不安が新たな不安を引き寄せる。
「何かあれば妾が守るのじゃ、大舟に乗ったつもりでいればいいのじゃ」
そんなことはお構い無しにズルズルと私を引っ張るアマテラス。
「あの、歩きますから引っ張らないでください。ちゃんと付いていきますから」
今はただ。その大舟が泥舟では無いことを願うばかりです。
「花撫、射的じゃ。やっていくのじゃ」
ウキウキ気分の神様に引っ張られるなかで気になってしまったが、その神でさえ術が使えないような空間の中でどうやって私のことを守るのか、きっとそれは聞かない方がいいことなのだろう。
「はぁ、なら勝負をしましょう。その方が面白い、でしょ?」
ならせめて面白おかしく現実逃避をしなければやってられないというもの。
「分かっているではないか。なら負けは勝ちに今日一日なんでも奢るのじゃ」
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