第四十話

「結界の、力?」


「うむ、結界にも色々と種類があるのじゃ。異界と現界を遮る障壁の様に強固なもの、今回のようにただただ認識だけを阻害するもの、様々じゃ」


「なるほど?」


 確かに異界へ侵入するのは特別な方法がいるし、鈴蘭の屋敷の周辺にもこれと似た結界が有る。しかし、結界が張られているよう感じはしない。

 結界というのも確かに質量がありそこに存在しているとのことだ、私のように霊力に精通する者が接近すれば気配がするはずだ、現に鈴蘭邸では確かな気配があった。明確な境界が存在していたように思う。

 けれど今回はそういった感じはない。まるでどこまでも広がっていて、そもそも存在していないような感覚がする。


「今回のはあくまで認識だけじゃ、つまり質量や物質は関係ないのじゃ。例えとしてはこちら、現界から見るのと向こう、異界から見るのを同期させているというのが一番近いかの、つまりこちらから見る妖怪や幽霊はこちらの人間には普通の人間としか見えていないということじゃ」


 なるほど、だから普通に商売が出来ているのか。確かにそうじゃなければ驚いて商売どころじゃないだろう、家具屋のおじさんは卒倒しちゃいそうだし……。

 あの体つきをしていて幽霊が大の苦手と聞いた時は信じられなかった、性格からもお化けにすら殴りかかりそうだと思っていたのに。


 やっぱり他人は外見で判断しちゃ駄目なんだな。


「ちなみに妖怪達にはこっちはどう見えているの?」


「別にそれはこちらと変わらんぞ。そもそも異界の連中が現界に現れることが問題になるから異界には結界があるのじゃ。何もしないでいいのなら結界なんてものは必要ないからの。それに今の状況では異界の連中をこっちに解き放ったらとんでもない事になるのじゃ、例え認識程度の結界でも気休めにはなると思うのじゃが」


 確かにそんなことをした暁にはこの町ひいてはこの周辺地域を巻き込んで大変なことになるだろう。


 それはそれでこの町に新たな風を吹き込めそうな気がしなくもないのだけれど、素人がそんなことをしても余計被害を拡大させるだけだ。触らぬ神に祟りなしと言うのだし、おとなしくしておく方が吉と見た。


 でも、今回の結界が認識だけを阻害するものならその効力の範囲外に出てしまえば影響は受けない。実質的な仕切りは存在しないのだから出放題ではないだろうか。現に外からは入って来ているのだし。


「じゃから気休め程度じゃ、この結界が認識だけを阻害するというのは分かる奴もいるじゃろ、しかしそれは極僅か、むしろ分かる奴などいないに等しい、重要なのは結界の種類ではなくて結界そのものじゃ」


「つまり、結界があるということ自体に意味がある?」


「うむ、その通りじゃ、それにそこら辺は鬼に任せるから大丈夫なのじゃ、何よりここには源泉があるからの。そうそう離れるようなものはいないじゃろ」


 まぁ、それなら問題は起こらない、かな?

 万が一にも最強の鬼に楯突く者はいないだろう。おそらく……ね。


「あ、もしかして、神主があんなに普通に接しているのもその結界のせいなんですか?」


 一瞬、アマテラスの顔が曇ったような気がした。


 しかし次の瞬間にはいつもの顔に戻っていた。

 長い時を生きていると表情に出やすくなるのだろうか。最近、物凄くそう思います。


「……まぁそんなところじゃろ」


 それと嘘をつくのも下手、というか雑になるんでしょうか。それとも私の周りにはそういう存在しかいなのでしょうか。


『微妙な反応ですね』


 というセリフは私の胸の中にしまっておくことにしましょう。

 どうせ聞いたって答えてくれないし、なんだかんだでいつも誤魔化されるのだ。正直もう半分くらい諦めている。

 多分あの人もかなりの霊力を保有している……くらいの認識でいいんだろう。

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