第二十八話
月明かりを反射する透き通るような白い髪が所々黒く焼けていた。
「間違いなさそうじゃ。こやつが本物の鬼龍院白夜じゃろうな」
そう言ってアマテラスは彼女に歩み寄る。
アマテラスの手が淡く緑色に輝き少女の傷がみるみるうちにふさがっていく。衣服も元あったであろう形に修復されていきものの数十秒で何事もなかったような姿へと変身していた。
「火傷だけではなく刀傷まであったの。とりあえず妾は鈴蘭に伝えてくるのじゃ。花撫はこの子を中に運んでおくのじゃ」
「わ、わかりました……」
私が頷くとアマテラスは瞬間移動を発動させた。こういう時はゲートよりも瞬間移動の方が使い勝手が良いらしい。
それにしても刀傷、か。また刀。
最近何かと刀に関する事件に巻き込まれている。物騒なことこの上ない。
そのうちいきなり背中をブスリと刺されないかと気が気でない。
しかしそうなってくるとこの子はどうしても始末しておく必要があったということだろう。
そうだとしたらやはり鬼龍院家とは敵対勢力の仕業なのだろうか、でも今の彼女は覆面やマスクをかぶっているわけではない。
それこそ髪は目立つけれど顔もわからない少女を切りつけるのか。こんなことを平気でできる相手に嫌悪がこみあげてくる。
……いや、それが普通なのだろうか、一族郎党は何であり始末するというのが異界では当たり前のことなのだろうか。
「……違う」
関係ない思考をそこで断ち切る。
とりあえず今一番にしないといけないことはアマテラスに言われたように彼女を家の中へと運びこむこと。
最悪の場合彼女を襲った奴がまだ周辺に身を隠しているかもしれない。そうなった場合悔しい限りだけれども今の私では太刀打ちできないだろう。鈴蘭の弟子をここまで手負いにできるほどの実力者。
下手をすれば鈴蘭と同程度の力ということ。今の状況で襲われればひとたまりもない。
少女の手を持ち家の中へと引きずり込む。
ちょうどその時後ろから声がかかった。
「ふぁ~、その子どうしたんだい」
振り返るとそこには寝間着姿の神主が立っていた。おそらくさっきの扉を叩く音で起きてきたのだろう。
「ちょうどいいところに、この子を運ぶの手伝ってください。後できちんと説明します」
「……また、面倒ごとに関わってるみたいだね。それで、どこに運べばいいの」
曇った表情をしながらも神主は手を貸してくれた。
「とりあえず茶の間に運びます」
あそこなら玄関からも近いし机を寄せればかなりの広さがある。布団を敷くこともできる。
「俺が運んどくから布団を用意して」
そう言って軽々と少女を持ち上げて茶の間へと歩き出す神主。
この神主たまには今みたいにかっこいいことがある。本当にたまにだけど……。
「なんか、失礼なこと考えているだろ」
くるりと
幸いこの家には使ってない布団が何個もある。
来客用ではあるがここを訪れて泊まっていくようなのは鈴蘭かアマテラスくらいしかいない。そもそもなぜ来客用の布団があるのかがわからないけれどそんなことを考えていても埒が明かないし、今はそれが頼みの綱だ。
「……にしても鬼龍院の嬢ちゃん、ね」
神主が私に聞こえないくらいの小声で何かを呟いた。
「えっ……」
「ん? 何でもないぞ」
「……変なことしないでくださいよ。手加減できる自信はないので」
「いくら僕でもそこまで命知らずじゃないさ……」
その後、神主が難なく彼女を布団へと運び、寝かせることができたとき再び玄関が物凄い音をあげた。
そして誰かが物凄い速度で駆けてくる音がする。言うまでもなく鈴蘭だろう。
「……俺は寝ることにするよ。説明はひと段落したら聞くことにするよ」
そう言うと神主はそそくさと自室へと戻っていってしまった。
本当に神主と鈴蘭の間で何があったのだろう。
2人とも答えてくれないし何か知っているようなアマテラスも「本人達が言わぬことを妾からは言えんのじゃ」と頑なに教えようとしてくれない。
「白夜っ!」
声と同時に茶の間の引き戸が開け放たれる。
「無事だよ、アマテラスが治してくれたから」
とは言っても流れた血までは戻っていない。正直油断は出来ない状況であることに変わりはない。
とりあえずは安静にしておくのが一番だろう。
「今度は本人?」
「間違いない、しかしいったい誰が……」
そしてしばらく悩んだ後に「花撫、今日はここに泊まってもいいか?」とのことだった。
「別にいいよ。ただ布団使うなら自分で用意して」
鈴蘭はすでに何度か泊まっているから布団のしまってある場所は分かっているだろう。
「ありがとう……」
そう言って布団を取り出しに行く。
鈴蘭の背中を見送ってからアマテラスにも尋ねる。
「どうします? 多分布団は足りると思いますけど」
「……妾は一度帰ることにするのじゃ。それにやらなくてはいけないことがあるからの」
「あっ、アマテラス。何で直接ここに飛んでこなかったんです?」
何となく気になった、鈴蘭を送った時のようにここに直接移動することだってできたはずだ。
「あぁ、何があるかわからんからの」
そう言って苦笑いを浮かべていた。
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