第二十七話

 まずは状況を整理しよう。


 事の始まりは今から4日前、鈴蘭が謎の男と戦ったことから始まるのだろう。

 結果は勿論鈴蘭の勝利で幕を閉じた。その際、男は気を失い鈴蘭の従者によって連行された。

 翌日女神の追求の報告によってより鈴蘭も気を失い、鈴蘭が目を覚ましたのはそれから3日後の夜のこと。

 そしてそのタイミングでの鬼龍院邸の放火。


 次から次へと事件が連鎖しているのが今の状態である。


 それらのことを総合して考えるならば、放火したのは鬼龍院家と敵対している勢力と考えるのが妥当なのだろう。

 そうすれば異界でかなりの力もつ鬼龍院家を戦争から引かせることができる。敵側としてはこれとない条件だろう。


 でも問題はなぜ今このタイミングなのかということだ。

 どうして今のタイミングなら敵がいけると判断したのか。


 おそらくそれは4日前のことが原因だろう。

 でもそれは鬼龍院家及び私達しかわからないことだ。なんせ結界の中ですべてが行なわれていたのだから。外からも中からも干渉を受けなく任意のものしか通さないあの場所でのことを部外者が知るよしはない。結界が解かれた後にもすぐに私たちが確認に入ってるから誰かいたのなら気が付くはず。


 当然そんな人影一つも見かけなかった。

 でも放火は起きた、ここぞという時に……本当に敵対勢力によるものなのだろうか?

 いや、私が考えたところで何にもならないか。


「送ってきたのじゃ」


 ゲートが開き客間にアマテラスが出現する。


「大丈夫そうでしたか?」


風鈴かざりに任せたからの、万が一はないはずじゃ」


 鈴蘭にとってはかなりショックな出来事だったようだ。

 当たり前と言えば当たり前だ、連発して彼女が関わりをもっているものに関することだったのだから。

 気は失わなかったけれど放心状態になってしまっていて夕食も全く手についていなかった。仕方なくアマテラスに送り届けてもらったというわけだ。


「……アマテラス。今回の放火どう思います?」


「不自然じゃな……とは言っても何が目的なのかはさっぱりじゃが……」


 突然、玄関の方から何かがぶつかる音がした。音的に扉に何かがぶつかったのだろうか。


 この家の玄関の扉は引き戸になっていて風ですらガタガタと震える一昔前のタイプのものになる。それがかなりの音を響かせた。


「な、なに?」


 慌てて確認をしにいく。音的には割れてはいなさそうではあるが、何があるかわからない。


「……ひっ!」


 電気をつけて見ると玄関の扉のガラスにはべったりと血が付着していた。


「なんじゃこれは……」


 後から追いかけてきたアマテラスも顔を引きつらせている。


 不気味なんてレベルじゃない。

 完全に恐怖だ、いたずらなんてレベルは超えている。そもそも神社に、更に言うなら拝殿ではなくわざわざ母屋の方にいたずらをするなんて考えられない……。


「花撫、外に何かおるのじゃ」


 アマテラスが扉の下のほうを指差す。確かにそこには何かがもぞもぞと動いていた。


 これは果たして開けてもいいものなのだろうか。

 かなり開けたくないのだけれど……。


 扉を開けるのを躊躇っていると再び扉が激しい音を立てた。


「……たすけ……て……」


 かすれた少女の声だった。そしてそれきり外は静まり返った。


 急いで扉を開ける。


「ひ、酷い……」


 そこにはボロボロの衣服を身にまとい全身傷だらけの少女が倒れていた。敷石には赤い池ができている。かなりの深手を負っているようだ。


「それにこの髪の色って……」

 

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