第二十六話

「私の能力で操れるのはの構造、そこに生命は含まれない。例え構造をいじっても死んでしまったものに命を吹き込むことは出来ない。流石に私の能力でもそこまでの力はない、それが私達と神の唯一、そして一番大きな違いじゃないの」


「へぇ……ん?」


 つまり神は生命の操作ができる、てことはあの林を難なく元の状態に戻すことができたのではないだろうか。


「い、いや。それにはとんでもない神力がいるのじゃ。そ、それにあれは運命じゃ、あそこの木々はああなる運命じゃった。それに妾とて簡単に生命を操るわけにはいかんのじゃ」


「そんなことしたら本当に生態系のバランスを崩しかねないからね」


「……今回、逆に崩しませんでした?」


 必要以上の土地が燃え焼け焦土と化した。どう考えても生態系への破壊行為に該当するのではないだろうか。


「ふ、不可抗力じゃ……」


「と、容疑者は意味の分からないことを供述しており……」


「か、花撫、許して欲しいのじゃ」


「なら、元に戻してきてくださいよ」


「媒体がないからできないのじゃ」


 てへっ、と舌を出す。


 アマテラスってこんな感じの神だったかな……なんか調子がいつもと違いすぎない?


「はぁ、ちなみにあんな風にした理由があるんですか?」


「いや、あの……その、なんというかの……その、最近面倒ごとばかりじゃったから……う、憂さ晴らしに、あははは……」


 完全に八つ当たりだった。


 木々にしてみればとばっちりもいいところだ。まぁ、木々に自我あるのならばだけれど……。

 ともあれ戻らないことをいつまでも気にしていても仕方がないか。


「ちゃんとした畑にしてくださいね」


 燃え尽きた林のためにも。


「わ、分かったのじゃ。期待には必ず応えるのじゃ」


「ご報告いたします」


 アマテラスの隣に全く音もなく虚空から何かが姿を現した。


 かなりの長身で整った顔だち長くも短くもない黒髪。ジーンズによくわからなロゴの入ったTシャツ、いかにも現代の若者といった姿の男が膝をついて座っていた。


「だ、誰ですか……」


「妾の従者じゃ、最近妙に現代かぶれしてしまっての……」


 かぶれ? これってもうかぶれの域を超えてない?

 これは確実にオタクというものに間違いないですよ。


 おそらく隠密諜報部隊なるものがあるとしたらそれにあたるのだろうけれどその姿はそこら辺にいる現代人と言っても差支えがない。

 というかそうとしか見えず、逆にスパイと言われても分からない。


 それが狙いなのかそうではないかはわからないけれど、一つ確かなことはそれでも彼がかなりの実力者ということ。

 彼の動きのどこをとっても隙がないことは流石の私でも理解できる。


若竹わかたけと申します。以後お見知りおきを」


 そう言って頭を下げる。


 私もとりあえず頭を下げたのだけれど、服装と言葉遣いが噛み合っていないのは言わない方がいいのだろうか。

 まぁ、この状況で言っても仕方がないことだし、そもそもアマテラスが気にしていないのなら私からあえて言うこともないだろう。


「それで、どうしたのじゃ?」


「鬼龍院邸にて火災が発生、屋敷が全焼しました」


 若竹が発した報告によって場が一瞬で凍りつく。


「なんじゃと、事件か事故か?」


「おそらく放火かと。火の手は屋敷の複数箇所から同時に上がりました、一瞬にして屋敷を飲み込み塀まで及んでいたので事故、不注意や自然発火ではないのは確かです」


 人為的、作為的な放火。でもこのタイミングで? 


 何かが引っかかる。

 それに放火となればおのずと犯人は導かれてしまう。今の状況でわざわざ行動する理由がわからない。

 それに立場が逆ではないだろうか。鬼龍院側から先日被害が出ている、とすればそれを利用する。

 いや、だからこその放火、更に追い打ちをかけるために。


 だとしても、そもそも先日の件が漏れているとは考えにくい。

 わざわざ鈴蘭が結界を展開してまで隠蔽しているのだ。それがこうも簡単に瓦解するとは考えにくい。

 でも、これをまぐれというにはあまりにも都合がよすぎる。


 なんだろう、物凄く気持ちが悪い。何か大きなものが隠れているようなそんな感覚がする。


「白夜は、白夜は無事なのか?」


 鈴蘭が震える声で若竹に問い詰める。


「確認できておりませんが、中にいたのならまず助かってはいないかと」


 鈴蘭がその場に崩れる。


「若竹、詳しく調べてくるのじゃ」


「御意」


 そして再び音もなく虚空へと消えていった。


「安心するのじゃ、お主の育てた弟子なのじゃろ。生半可なことで死にはせん、そうじゃろ」


「そう、だな。今は信じるしかないよな……」


 差し出された手を握り立ち上がる。


「しかし訳が分からんの……」

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