二章 事の真相

第二十五話

「えっ? それじゃあ例の切り付け魔は鬼龍院白夜の仕業じゃないってこと?」


「そう、そもそも白夜はそんなことはしない。あいつは何より命を大切にする」


 それは鈴蘭が卒倒してから3日目の夜のことである。ようやっと目を覚ました鈴蘭から飛び出た言葉に私は驚きが隠せなかった。


「それに鬼龍院白夜は女性だ」


「えっ、そうなの!?」


 もうさっきから驚いてばかりだ。


「というか、アマテラスは知っていたんですか?」


「うむ、いやしかしそうか……妾の勘違いか」


 自問自答の結果自己完結してしまい私には一体何がどうなのか一切分からない。この2人たまにこういう時がある。


 自分が考えを読むことができるからなのかこちらから説明を求めないと教えてくれないのだ。それでも最近は若干分かるようにはなってきてはいる、だとしてもやはり説明は欲しいものだ。

 あって損するものではないわけだし。


「まぁ、仕方ないんじゃないかな。髪の色が一緒だったわけだし、何よりアマちゃんは白夜に会ったことないでしょ」


 鈴蘭は湯吞みのお茶をすすりつつそう受け答える。


「そうかもしれんが、妾もまだまだじゃの」


 とはいえ例の切り付け魔の考えを直接読み取ったわけではない。そこには他人を挟んだのだから多少なりとも食い違いが生じるというものである。


 思いや思想は人を繋ぐと同時に歪みも作り出す。

 あの状況で全身真っ黒な変質者に襲われて正常でいられる人間の方が少ないのではないだろうか。そもそも知らない人物像を一瞬で認識するということ事態不可能に近いことだろう。


「というか鈴蘭は知ってたの?」


「ん? 知ってるも何も、私は白夜の師匠だぞ。代々あそこ家は私を師匠にしたがるからな、あいつで10代目かな……」


 アマテラスが額に手を当てて溜息を吐く。


「お主、初代から今の今まで教えをつけ続けておるのか?」


「う~ん、多分そうだね。あの家何かと私に関するものが充実してるから、私も結構思い入れあるし、言うなればもう一種の習慣みたいなものだよ」


 ちょっと待って、ということは鈴蘭は最初からこの事件に関わっているのが鬼龍院白夜ではないということを分かっていたということになる。

 なんで最初に話した時にその情報を教えてくれなかったのだろう。


「……なんで、そのこと黙ってたの」


「いや聞かれてないし、あれぇ花撫怒ってる? それとも嫉妬?」


 クスクスと笑う鈴蘭。


 本当に楽しそうにしている。たまにこうなるが本当にイライラする。


「……ねじ切りますよ」


「なにを!?」


 怯えたように1歩後退る鈴蘭。


「それで結局誰だったの?」


「……その切り替えは何なのさ。でもまあ、今のところは鬼龍院家と血のつながりがあるとしか言えないかな……」


 いつだか聞いたけれど、鬼龍院家は異界の中でもかなり有名な一族でその理由の1つが一族には白髪はくはつしかいないということだった。

 そして何より異界には鬼龍院家以外に白髪の存在はいない、髪の毛が一種の証明になっているとのことだ。


「何しろそいつが目を覚ましていないらしくてね……」


 やれやれと首を振る鈴蘭。


 4日前鈴蘭とその鬼龍院白夜もどきの男が戦闘を繰り広げ、結果鈴蘭が勝ち、男の方が気を失った。その後は鈴蘭の従者がその男を連れていき様子を見ているとのことだった。

 焼却されたあの場所で突然戦闘の痕跡が消失したのはどうやらそのせいらしい。

 男は気を失ったので血は流れず、鈴蘭の従者ならば容易に結界を通過できるそしてその従者が男を抱えれば来た時と同様に男も結界の外へと運ぶことができるというわけだ。

 つまるところとりあえずは何とかなったということだ。


「というか何で林を何もせずにあの状態で放置したのさ? 能力で構造いじって元に戻せばよかったのに」


 便利にも程がある固有能力なのだそれくらいできるのではないだろうか。

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