第二十二話
「そう言えば鈴蘭は不老不死は仙人になった特典、みたいなことを言ってましたけど、実際どうなんですか?」
僅かにアマテラスの眉が吊り上がる。
「あやつ、そんなことを言っておったのか。いいか、花撫。不老不死の力は確かに妾が授けるものじゃ、そしてその力は本来の人間の身には到底見合わないものなのじゃ。なんせそれは自然の法則に反するからじゃ」
「自然の法則……」
「そうじゃ、生きとし生けるものには必ず終わりが訪れる。それがどんなに栄えようと最後は滅ぶ、そうして世界は回っておる」
世の中のものは栄枯盛衰あるいは盛者必衰であるということ。
でもということはつまり、仙人というの存在はその法則からはみ出した異分子であるということ。
そしてまた神もその法則には乗っ取っていない。
「妾は本来なら存在しない、自然の法則とは相反するものを作っているのじゃ。
「でも、人間はどれだけ生きても神にはなれませんよね」
「そう、残念なことに仙人はどれだけ頑張ろうとどれだけ生きようと神にはなれないのじゃ、つまり神と人には越えられない、超えてはならない壁がある」
それは言われるまでもない。誰もがそうなりたいと無意識に願い誰もが無意識に不可能だと諦める。
現に人間には必ず寿命がある、それでなくともちょっとしたことで簡単に死んでしまう。
神、仙人、不老不死、日常を生きる者の中でそれはただの虚言で妄言でしかない。
「……でも、それって」
超えてはいけない超えられない壁。それは極端な言い方をしてしまうと、仙人は人でもなく神でもない、どちらでもなくどちらにもなれない中途半端な存在ということになってしまう。
「しかし、鈴蘭も他の仙人達もそれには薄々気が付いているのじゃろう。じゃから最近、とは言ってもここ200年くらいかの、この世界で仙人の人数は増加しておらん。仙人は弟子を取らなくなり山奥などに身を隠したのじゃ」
「……他人が自分のような存在にならないために、ですか」
「まぁ、純粋にそれだけとは限らんじゃろうがの」
結局、その後アマテラスにも階段脇の掃除を手伝ってもらうことにした。
何故かって?
だってどう見ても到底私1人では手に負えない程の惨状なのだ。
本当に何をどうしたらこうなるのだろうか。
ここまでいくと疑問ではなく単純に恐怖だ。
「……これは、言うまでもなく戦闘があったようじゃの」
そう言ってアマテラスは3mはあろうかという高さの枝に軽々と飛び乗る。
「戦闘?」
確かにここら辺の状況は荒れ果てている。
この一角だけで災害が起こるとは考えにくい、でもだからといって流石にこれは戦闘による被害だとは考えにくい。
「ほれ、鈴蘭が作り出す針じゃ。きっと回収し忘れたのじゃろうな」
アマテラスがこちらに向けて投げた針は半分ほどのところで折れ曲がっていた。
鈴蘭の固有能力、それによって作られた産物。
それがほぼ直角にまで折れ曲がる程の衝撃。そんなことが起きていたとしたらそれは並大抵の戦闘ではない。
「で、でも、それらしい音は何もしませんでしたよ」
私も昨日は約50m上で特訓をしていたのだ、ここまでの激しい戦闘があったとしたら気がつかないわけがない。
「結界、じゃな、それもかなり高位の。おそらくここら周辺に鈴蘭が結界を張り巡らせたのじゃろう。僅かじゃが
音もなく地面へと着地するアマテラス。
そう言えば鈴蘭の自宅周辺も彼女自身が作り上げた結界によって覆われていると、それにその結界は核兵器ですら傷つかないと言っていたのを聞いたことがある。
確かにそんな結界で遮られたら音も届かないか。
というかそもそもどうやってそんなものを作っているのだろうか。
「鈴蘭の結界は少々特殊なのじゃ、今度本人に聞いてみるといいかもの」
まさか結界に向かって核兵器を放ったわけではない……んだよね。
でも未知のの物体にダイヤモンドをぶつけて強度を試すような人だからな……。
「……そうですね、目を覚ましたら聞いてみます」
そうして、しばらく周辺の状況を確認していると。
何かを追っていたアマテラスの足が制止する。
「……ここら一帯の幹、妙に綺麗に切られておるの。霊力は感じられんから鋭い刃物、あるいはそれに準ずる何かによる斬撃によって薙ぎ払われた……と考えるのが妥当じゃな」
確かに切り口の整った切り株がそこらに何個も点在している。それにしてもこれだけに数の木をそう簡単に切り倒せるものだろうか。
軽く十数本単位である。
「……切り口から見るに本当に一瞬で切られておるの、ここまで綺麗にいくとしたらいったいどれほどの速さがいるんじゃろうな」
それにおそらくここら周辺、およそ十数本の木は一撃によって切り伏せられている。こんなこと人間の剣士ではまず不可能だ。
そもそもそんな刃物が存在しているとは考えにくい。
「ん? あそこより奥には戦闘が及んでおらんの」
さらに奥に進むと確かにアマテラスが指すところよりも奥には戦闘の余波は及んでいない。
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