第二十話
なんだか昨日から鈴蘭の態度や様子がおかしい。
なんかそわそわして落ち着きがないというか
「……なにかあったの?」
視界に回り込んでもすぐにそらされる。
私、何かやらかしちゃったのかな?
「別に何もないぞ」
答える口調はいつもと何ら変わらない。しかし目はこれでもかというほどに泳ぎまくっている。
明らかに何か隠している、というか十中八九あの階段脇の惨状についてであろう。
昨日、訓練の合間に買い出しを済ませておこうと思って階段をくだっていてその状況に出くわした。
夢かと思って何度も目をこすったけれど残念ながらそれは現実で変えようのない事実だった。
あそこ以外に昨日と大きく変わったことはない。
まぁ、話したくないことを無理に聞き出すというのも流石に気が引ける。
とりあえずはスルーの方向でいくことにするのだけれど、一体昨日あそこで何があったのだろう。本当に見るも無残というかあそこだけ局地的な自然災害でも起きたかのような状況だった。
「さぁーて、今日も特訓頑張っていこー!」
もはやキャラが定まっていない……。
焦りのせいだとしてもこれじゃあ自分からばらしているようなものだ。素直といえば聞こえはいいが流石にこれでは人間関係において生きていくのが大変……というか普段から人と接しないからこうなったのではないだろうか。
いや、そもそも接すること自体が稀なのか。
だとしてもこの件がひと段落ついたら、私から教えてあげることにしよう。あの鈴蘭のことだ、万が一にも断るはずもない、むしろしっぽを振って喜ぶに違いない。
「頑張っておるかの?」
「あ、アマテラス。おはようございます」
何度も繰り返し言ってもこの女神様は背後に音もなく現れるのだ、今回は鈴蘭の真後ろへと出現していた。
それも何かを期待したような表情で。
それに最近背中の光輪を縮小する術を身に着けたらしく、今では目視することができないくらいに小さくなっているそう。
言わば普通の巫女と何ら変わりない容姿である。
というか何でいつも巫女装束なのだろう。
「お、おはよ~」
「なんじゃ、鈴蘭。いつにもまして様子が変じゃぞ」
確かにいつもならアマテラスをみかけると見境なしに抱きついて……いや待って。冷静になるとそれって随分とおかしくない?
少なくとも普通ではないよね。
どうやら日常になっていた非日常のせいで私まで感覚が麻痺してきているようだ。
なんだかどんどん人間らしさというものを失っている気がする。
それにアマテラスはさらっと酷いことを言ってるよね。
「体調でも悪いのか?」
というか、アマテラスはなんで若干さみしそうなのだろう。
なんだかんだ言っても鈴蘭に抱きついてもらいたいのだろうか。
「いやいや、全くもって全然健康ですよ。はい!」
鈴蘭は慌てて両手を左右へと振り否定する。なんだか日本語の使い方まで怪しくなってきている。
「そうかの? ならばなぜさっきから両手の動きが連動しておるのじゃ?」
確かにさっきから両手がなかよく同じ方向へと振られている。
相当動揺しているのだろう、普段なら絶対に有り得ないこと。というか普段動揺したとしてもここまではいかないのではないだろうか。
「…………き、気分転換?」
ゆっくり私へと向き直りそう尋ねるのだ。
「……いや、何で私に聞くのさ」
というか気分転換で否定する手が連動するとか意味が分からない。
「まぁ、よい。それより花撫、あの階段脇はどうしたのじゃ?」
「ぐふっ……」
安心したのも束の間、核心を突いたアマテラスの口撃によって鈴蘭は地面へと沈んだ。
「……なんじゃ、やはり具合が悪いのではないか」
きっとアマテラスの純粋な疑問だろう。
意図して聞いているのだとすれば性格が悪いどころの話ではない。
まぁ、それが否定できないのも事実なのだが、今回のは純粋な……疑問だろう、多分……。
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