第十七話

 時の流れというものは早いもので鈴蘭から修業を受け始めて既に半月が経過しようとしている。


 あれほどまでに満開だった桜も今ではすっかり葉桜へと姿を変えている。


 とは言っても残念なことに未だ固有能力と思しきものは一切発現はしていないのだけれども、鈴蘭曰く後は何かきっかけさえあれば問題なく発現する、ということらしいのだけれど。


 まずもってそもそも問題になるのは未だに発現条件が何一つとしてわかっていないということである。


 問題解決のためとはいえど糸口がない暗闇の中を灯りや導きのないまま闇雲に探し回ったとしてもそれで正解が見つかるとは考えにくい。

 そうは言っても探さなければ見つからないのだからどちらにせよ探さなければいけないのだけれど。


 なんて矛盾した状況なのだろう、と愚痴をこぼしたとしても何も変わらないけれどそう思わずにはいられない。


「それにしても一体何がきっかけなんだろう……」


 これまでに剣術、弓術、馬術、槍術、武術、霊術、ありとあらゆる術を叩き込まれているというのに音沙汰ないときた。


 いささか発現条件が厳しいのではないだろうか。正直なところ私の体は既に限界を迎えてきている。


 もしかしたら一周わまって日常的なことなのかもしれない。


「それなら尚更今までの私生活で発現しているだろうよ」


 鈴蘭を困り顔でため息をこぼす。


 一縷いちるの望みも鈴蘭の一言によっていとも容易く瓦解する。


「とは言ってもこればかりは1つずつ試していくしかないからな。それだけ努力は地味なんだよな」


「そう言えば、鈴蘭の時はどうだったの?」


 もしかしたらなにか参考になるかもしれない。それこそ先人ならぬ仙人の知恵、それも実体験。

 ひょっとしたら最初から聞いていれば早かったかもしれない。


「残念だけどその期待には応えられないかな」


 鈴蘭は苦笑いをして頬をかく。


「恥ずかしい話、私自身どうしてこの力を手にしたのかを覚えていないんだ。正確に言うならいつの間にか使えていたんだ」


 これが世にいう天才というものなのだろうか。


 まさか無意識のうちに固有能力を手にして、なおかつその力を使いこなしているとは、なんとも恐ろしい。それゆえの仙人、なのだろう。


 つまりこればかりは手当たり次第に当たっていくしかないということなのだろう。これはある種の根比べ。

 どちらが先に匙を投げるのか、そういう勝負。


「……花撫、いつも通りのメニューやっといて。ちょっと用事を見つけた」


「う、うん……?」


 用事って見つけようと思って見つけるものだったっけ? 


 ともあれいつもの彼女とは違過ぎる雰囲気に気圧され返事をすると同時に鈴蘭はスタスタと参道から続く階段をくだっていく。


 何もなければいいのだけれど……。


 まぁ、あの鈴蘭に限って万が一など存在しないだろう。


「……それにしても、何が引き金になるんだろう」


 今までそれらしい何かがあったわけではない。何が足りないのだろうか。

 とりあえずは言われた通りに最初はいつも通りに霊術の特訓を始めることにする。


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