第十二話

「……普通の巫女は霊術など使えないのじゃ」


 さらっと衝撃の事実が告げられた。今まで使えて当然だったし何より周りにも使える人は沢山、たくさん……いると思うのだけれど。


 とういかじゃあなんで私には扱えてるのだろうか?


「じゃから、扱うだけの力が花撫にはあるのじゃ」


 確かにその通りなのかもしれないけれど。


「なんで私なんですか?」


「……さあ、なんでじゃろうな」


 わかりやすい神様である。

 顔に感情がそのまま出てきている。

 これなら心を読めなくても何かを隠しているということは誰でも分かる。


 まぁ、隠し事のできない性格なのだろう。それはいいことなのだけれど、しかしこの様子ではきっとこれ以上何を聞いても教えてはくれないだろう。私に言えない何かを隠しているのは確かなんだろうけど……。


「それで、そもそもなんで私が狙われるなんて事態になっちゃっているんですか?」


「うむ、まず説明しておくと三界というのは分かるじゃろ?」


「はい、現界、異界、冥界の総称ですよね」


 現界はつまり今私がいるこの世界。現世うつしよだったりこの世と言われるところ。


 異界は妖怪、精霊などが住む世界、とは言っても異界の種類は多種多様で完全に現界から隔離されているものから密接しているものなどがあるらしい。


 ついで程度に説明しておくと鈴蘭が住む屋敷も異界に該当する。そして一般的にはこの世の影に存在すると言われている。


 冥界というのは言わずと知れたあの世のことで、黄泉、冥土、隠世かくりよとも呼ばれるところ、しかし隠世に関しては少し微妙なところで異界でもあり冥界でもあるような場所を指すためあまり使われることはない。


 現界、異界が生前の世界に対して死後の世界でそこには幽霊がいる。

 というか生きた人間は冥界にはいくことができない。どうも妖怪は違うらしいのだけれどそこら辺の真相は実際に確かめた訳では無いので分からない。


「うむ、その通りじゃ。そして現界は除いた異界と冥界にはそれぞれ派閥なるものが存在するのじゃ、それぞれ妖怪、幽霊、仙人、精霊そしてその中にもいくつか派閥が内在している。大きなところは主に8つ、今その中のいくつかの派閥関係が非常に良くないのじゃ。それも綺麗に2陣営に分かれておるのじゃ」


 厄介この上ないのじゃ、と首を振るアマテラス。


 つまり、先日鈴蘭が言っていた周囲が妙にやかましいというのはこの事だったということである。


「ちなみに鈴蘭もそのどれかの派閥に入っているんですか?」


「いや、あやつも花撫と同じでどこにも所属しとらん」


 つまり、やかましい理由は彼女がどこにも所属していないからということである。とどのつまり勧誘だ。

 そうは言ってもこんなにくだらないことに首を突っ込みたくない気持ちはよく分かる。私も同じ立場ならというか現に関わりは避けようとしている。


 悲しいことにどう頑張っても避けられそうにないのだけれど……。


「そう言えば現界には派閥がないんですか?」


 それこそ、他の2つよりもかなりの数の派閥、グループが存在していると思うのだけれど。


「現界は言うまでもなく人間が大半というかほぼ全てを支配しておるじゃろ、人間という種族がひとつの大きな派閥になっているのじゃ。妖怪や幽霊がそこに入り込む隙間は少ないのじゃ」


 何となく状況が理解出来てきた。


 つまり、そのギスギスした派閥問題を円滑にどうにかするための打開策が私という訳だ。力があるものが頂点に立てばそれだけでまとめあげることが出来る、おそらくそう考えたのだろう。


 そしてなんでそれぞれの派閥が私を欲しがるのか。


 その理由はとても簡単に想像出来る。きっとそれは派閥をまとめあげた後にそれでも優劣が生じるから。そして誰もが誰よりも優位に立ちたいと思う。

 だからこそ私を自分の派閥に組み込もうと躍起になっているのだ。


 結局最初から何も進んでいない、でもどうやら彼らはそのことに気が付いていないのだろう。

 いや気づいていても引くことができない、そんな状況なのかもしれない。


「……どうにか出来ないんですか?」


「すまんのじゃ、もう少し早ければ対策が取れていたのかもしれんのじゃが……」


 つまり手詰まり、未来は既に動き出し、動いた未来はどうとやらというやつだろう。


 これに関しては誰が悪いというのはないような気がする。元々それぞれの派閥は仲がいい訳では無いのだ。そこに原因があるだろうしそれ以外にもきっと要因は存在している。


 そもそもグループが複数あれば大抵どこかは仲が良くないのはこの世界では常識である。必ず利害の対立がありそれは図らずともいじめや差別へと発展する。むしろいざこざがなく全てが円滑に進むなんてこと自体が有り得ない。そんなのはただの夢物語だろう。


 そしてたまたま今回関係最悪なところに私が現れたから、それを使っていざこざをなくしたい、あわよくばほかの派閥を潰してやろうと考えたのではないだろうか。

 でも、力に頼るしか無くなった今、どうやってもそれを止めるのは力である。それこそが戦争のなくならない根本にあるものだけれど。


 嗚呼、本当にややこしく面倒臭く迷惑で厄介なものである。




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